雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

読書案内 「死んだらどうなるのか?」

2014-05-28 22:00:00 | 読書案内

読書案内

 医師が考える 死んだらどうなるのか?

    - 終わりではないよ、見守っているよ-

 昨年12月に思いもしない事故で最愛の孫を突然喪い、

悲嘆に暮れていた私に、あるご婦人が貸してくれた本である。

 彼女もまた、数十年前に長男を事故で亡くし悲嘆にくれた日々を経験している。

「死んだらどうなるのか?」を、興味本位で書いた本ではない。

医師としての業務の経験を重ねる過程でたくさんの生や死に直面し、

臨床の現場で感じた「生命」の不思議さを率直に記述されている。

 生命や死の尊厳を臨床医として真摯にとらえ、

科学的、非科学的、合理、非合理の枠を超えた心の問題として、

解りやすく記述されている。

 論旨の根底には、医師としての経験から導き出された揺らぎのない自信がある。

 また、-終わりではないよ、見守っているよ-のサブタイトルから推測されるように、

魂の 存在についても論を進めている。

 大切な人との死別。

二度と会うことの叶わないこの現実に、

どうしようもない悲しみと喪失感が増幅されていく。

しかし、死とは永遠の別れではなく、肉体は荼毘にふされ、消えてなくなろうと、

魂は生き続けていると著者は述べています。

 大切な人を亡くして悲しむ気持ちは、人によってさまざまな態様を示し、

受け入れがたい現実に苦しみます。

 死をすべての終わりと考えるか、新たな魂の誕生と捉えるかによって、

明らかに悲しみの質は変わってくる、と。

 大切な人を亡くした時の、やり場のない悲しみや憤(いきどお)りを乗り越え、

やがてはこの悲嘆のプロセスを一つ一つ乗り越えて、

立ち直っていくにはどうしたらよいのか。

 本書はそのためのガイドブックとして優れた効力を発揮する、と思います。

                               評価 ★★★★☆

(PHP研究所2013年7月刊 矢作直樹著)

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読書案内 「生存者ゼロ」

2014-05-05 22:28:30 | 読書案内

読書案内『生存者ゼロ』安生 正著

 北海道根室半島沖の北太平洋に浮かぶ石油採掘基地 TR102からの連絡が途絶えた。

事件、事故、或いはテロ攻撃か。

出動命令で救助に向かった陸上自衛官三等陸佐の廻田(まわりだ)はヘリで暴風雨に荒れる洋上に漂う基地に到着。

廻田はそこで、肉の塊と化したおぞましい死体に遭遇する。

〈全身が壊死(えし)したように痛んでいる。

 これはウイルスや細菌によるものとしか思えない。

 室内は血の海だった。おびただしい血〉。

 生存者ゼロ。

物語の始まりはパンデミック(世界規模で広がる感染症)の内容を暗示して、幕を開ける。

 

 感染症の研究では世界的に有名な富樫博士。

だが、今は、アフリカの高温多湿・熱帯雨林の奥地で感染症の研究に取り組む過程で、妻子を死なせ、自暴自棄になり、麻薬中毒になっている。

昆虫学者の弓削。無能な政治家大河原首相と大臣たち。

無能だが名誉欲に強い感染症学者鹿瀬博士などが主なる登場人物である。

と、書いてしまえばまともな人物は陸上自衛官三等陸佐の廻田と昆虫学者の弓削ぐらいのものか。

 人物設定は甘いが、ストーリー展開の面白さは読者を楽しませてくれる。

石油採掘基地TR102で発生した「生存者ゼロ」の凄惨な死。

原因究明ができないままに、緘口令が引かれ情報は秘匿される。

ウイルスが媒体とする感染症なのか。

急速な感染力。防御の余地などどこにも発見できない。このウイルスはどこから来て、どこへ消えたのか。

 事件から9か月後、北海道標津(しべつ)郡川北町との通信が途絶え、廻田は偵察のヘリを飛ばし川北町を上空から視察する。

幾重にも折り重なる血まみれの死体。

「のたうち、もがき苦しみ、苦悶の中で絶命した惨状を想像させる光景が町中にあふれ、動くものは何一つなかった」。

 

 廻田は思う、あの細菌はどこから来たのか、どうやってTR102から海を渡って上陸したのか。

この9か月、どこに潜伏していたのか。

 

紋別、北見、足寄、帯広にいたる道東の複数地域で感染症が発生、たった一晩でそれらの地域が全滅していく。

 政府首脳の無能ぶりが露呈し、事態は一刻の猶予も許されない。

完全封鎖された町、夕張、岩見沢にも被害は広がり、鎮圧のすべもなく、被害はさらに札幌にまで及び、政府は最後の決断を迫られる。

果たしてこれはパンデミックスなのか、それとも……。謎は最後まで明かされない。

               評価:☆☆☆★★(人物設定が甘いので☆三つにしたが・面白さの観点では☆四つ)

               ※ 2013.1刊 宝島社 第11回「このミステリーがすごい」大賞受賞・作者 安生 正のデビュー作

 

 

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