読書案内 「戦塵北に果つ」 ー土方歳三戊辰戦始末ー
第15回 歴史群像大賞・優秀賞受賞作 甲斐原 康著
戊辰戦争を舞台に、新撰組副隊長であった土方歳三がこの戦争にどう関わったか。
戊辰戦争の戦塵は、北へ北へとなびいていく。
守護職を務める会津藩主松平容保(かたもり)を巻き込み、京都を発信地として、
戊辰戦争の戦塵は、江戸、宇都宮、会津、仙台と北へ向かって流れていく。
旧幕府軍がたどる北への道は、薩長を中心とする新政府軍に追われる敗戦の戦いでもあった。
北への敗走はごくあっさりと記述され、読者をひきつける読ませどころも乏しい。
鶴ケ城の落城にまつわる悲劇も淡々と記述される。
会津戦争は舞台を北越戦争に移し、
やがて時代の潮流に翻弄(ほんろう)され、旧幕府軍が敗走したところは、
最後の激戦地・箱館だった。
明治2年5月21日午前9時僅かに過ぎ、
土方歳三は銃弾を浴び、その生涯を閉じた。
物語は慶応4年3月の終わりにさかのぼり、慶応3年末に大政奉還が行なわれ、
騒然としている江戸に舞台が移る。
以後、物語は伝習隊に志願した町火消の佐吉の視点で描かれる。
土方歳三が戦鬼として、味方にも恐れられるようになるのは、蝦夷(えぞ)を舞台にして展開する
戊辰戦争最後の箱館戦争である。
新政府軍の猛攻にひるみ退却しようとする見方を容赦なく切り捨てる土方は、
まさに「戦鬼」と呼ぶにふさわしい。
新撰組隊士・大沼は問う。
「新撰組が揚げた誠の真の意味はどういうことなのですか 。忠義と同じなのですか」と。
「忠義と同じになるところもあるさ。だがそれだけじゃねえ。士道を貫く事だ。士道とは戦い続けること、
一度決めたもののために最後まで戦うことさ」と、徹底抗戦を固持する土方。
もはや土方には理想を語る大義名分もなく、
戦い抜いて死ぬことだけが唯一の生きがいになっている。
しかし、戦局は悪化し、敗北は眼に見えている今、
多くの戦死者を出して戦うことにどんな意味が在るのか。
陸軍奉行・大鳥圭介は「降伏」という戦争終結の道を模索するが、
土方の徹底抗戦とは相いれない。
最悪の場合、終結派と抗戦派が内乱状態となる可能性もある。
一発の銃弾が馬上で刀を振るう土方を貫く。
ヒュンヒュンと飛び交う銃弾は敵が放ったものか、あるいは味方の銃弾か……
やがて五稜郭開城となり、明治2年戊辰戦争は終わりを告げる。
同年蝦夷地は北海道と名を改める。
幕藩体制が崩壊していく時勢の新しい時代の波に乗れず、
愚直にしか生きられなかった土方歳三こそ哀れである。
※ 2010年9月 第一刷刊行 絶版 重版未定