雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

読書紹介 「震災後」 福井晴敏著

2012-01-21 22:42:42 | 読書案内

 

 書紹介「震災後」ーこんな時だけどそろそろ未来の話をしようかー

  「亡国のイージス」や「終戦のローレライ」のように、

 この作者が描く小説には特殊部隊が活躍し、壮大なスケールで物語が展開され映画化もされた。

 今回の作品は特殊部隊も工作員も登場せず、激しい戦闘シーンもない。

宣伝コピーにはリアルタイムフイクションとあるように、

初出誌は週刊ポスト2011年6月から11月に連載されたものである。

 東日本大震災後におそらくは私たちの多くが抱いたであろう、

やりきれない焦燥感や虚しい喪失感から立ち直っていかなければならない時期、

「こんな時だけど未来の話をしようか」と、

作者から読者に向けてのメツセージとして読むと、面白く読めます。

 冒頭述べたように福井晴敏氏の小説としては異質な小説です。

小説という形式を借りて、震災後の私たちはどのように生きていったらよいのかを、わかりやすく説いている。

 例えば、被災地に義援金やボランティアが殺到しているが、

これは他人を救おうとしているようで、実は自分を救おうとしているのではないかとか、

含蓄に富んだ文章が随所に現れる。

 

 この未曽有の災害と原発事故を乗り越えるために私たちは何をしたらいいのか、

と作者は私たちに問いかけると同時に、

この惨事を乗り越えるための一つの方向性を暗示しているように思える。

 

 地震は巨大津波を起こし、人間が築いてきたものを根こそぎ洗い流した。

さらに、目に見えない恐怖の原発事故。

 

 本当に再生・復興ができるのか。

 

 作者は最後にこう結びます。

『たかが地震だ、そう、たかが地震だ。建物を壊し、人を殺すことはできても、

生き残った人の心までは壊せない。人が自分で自分の心を壊さない限り……』と。

   単行本 小学館2011年10月刊 

   防衛問題など時事性のあるテーマで、スケールの大きい作品を得意とする。

    『亡国のイージス』 日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会賞、大藪晴彦賞を受賞。

    『終戦のローレライ』吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会賞

      二作品とも映画化されている。興味のある方はDVD等でご覧ください。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読書紹介「原子炉の蟹」長井 彬著

2012-01-19 15:08:11 | 読書案内

 読書紹介「原子炉の蟹」長井彬著

  事件の舞台は、架空の原発、関東電力・九十九里原子力発電所。

この発電所の下請け会社の社長高瀬が行方不明になる。

行方不明になった高瀬は、青函連絡船から飛び込んだ形跡がある。

しかし、高瀬失踪の謎を追う新聞記者が探り当てた事件の内容は意外な方向へ発展していく。

 意図的に流されたうわさなのか、

『原子炉建屋内で被爆した死体が核廃棄物を処理するドラム缶に詰められ、

秘密裏に処分されたらしい。それが失踪した高瀬ではないのか……』

 関東電力・総務課長藤平もまた、原発建屋の中で殺される。

続いて第三の犠牲者、原発推進派の代議士・種村も建屋の中で殺される。

いずれも誰かに呼出されたうえで殺されている 

 原子炉という幾重にも包囲された密室が、事件の解明を難しくしている。

警戒厳重な原発建屋の中の「密室殺人」である。

 

 「原子炉の蟹」とは、殺人者のことなのか……

 

 30年も前(1981年)に書かれ、江戸川乱歩賞を受賞した「社会派推理」小説であり、

密室殺人の舞台を原発建屋内に設定したところに当時としては、斬新な着眼だったのだろう。

 原発作業員の実態や建屋内の構造、

そして原発立地を巡る推進派と反対派の攻防などリアルな描写が、現在でも通用する。

 

 「原子力発電」という密室が「安全神話」を生み、「安全神話」という虚構を守るために、

情報を操作し、事故隠しが行なわれる。

 国策の犠牲になった者の哀れが悲しい。

  ※ 長井 彬

 1924年生まれ。毎日新聞社で記者生活を送り、定年退職後の1981年「原子炉の蟹」で第27回江戸川乱歩賞を受賞。著書に「殺人オンライン」「北アルプス殺人組曲」「槍ケ岳殺人行」東海地震をテーマにした「M8の殺意」など。当初は社会派、後に山岳小説を得意分野とする。2002年逝去

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

陸前高田の奇跡の松

2012-01-08 21:40:44 | つれづれに……

陸前高田の奇跡の松 (年の初めに思うこと)

 3.11。

 木々がざわめく雑木林の中にいた。

 遠い地鳴りとともに舞い上がる土煙、揺れる大地。

 あの日のこと、今も鮮明に蘇ってくる。

 

  海が盛り上がり、防潮堤を乗り越え、牙をむいて襲いかかってきた。

  町を破壊し、生きる力さえ奪い去っていった。

  八万本の松林を根こそぎ押し倒し、

  神はたった一本の松を瓦礫の中に残してくれた。

  全てを奪った代償にしては、

  あまりにも失うものが大きすぎた。

  そして、願いも虚しく奇跡の松は枯れた。

 

 苛酷な人生を強いることができても、

 生き残った人々の心まで奪うことはできない。

 

 奇跡の松は枯れてしまったが、

 人間の心は決して枯れることはない。

 

 あの日の光景を忘れることはできないが、

 立ち直っていく人間の希望に託す力を信じたい。

 「おめでとう」とはいえないが、

 人間の「立ち直り元年」の年と祈念したい。

          

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする