読書案内「特殊清掃」
―死体と向き合った男の20年の記禄―
ディスカバー携書2014.9 第1刷 著者 匿名
混迷する社会の合わせ鏡
なるべくなら、自分の家の畳の上で人生の最期を迎えたい。
苦しまずに穏やかに、逝きたい。
万人の願いである。
しかし、現実には人口減少と高齢社会のはざまで「孤独死」等が増加傾向にあり、社会問題になっている。
震災以降、流行のように「絆」という言葉が、メディアを通じて賑わった。
にもかかわらず、被災者の「孤独死」が小さな記事になる。
大都市においては、老朽化した団地で高齢者の孤独死がクローズアップされる。
高齢社会の進行、核家族化の進行、無縁社会、セルフネグレクト(生活を維持するために必要な行為を自ら放棄してしまう事)などさまざまな事が起因し孤独死は増加の傾向にあり、年間に3万人に上るそうです。
内閣府の発表では、総人口における65歳以上の高齢者が占める割合は2042年まで増加していくと予想されています。
今後も孤独死やセルフネグレクトによる社会的孤立化は増加の傾向にある。
誰に看取られることもなく、息絶え、肉体は腐り、蛆(うじ)が湧き、ハエが黒い塊となって遺体に群がる。
腐臭、腐敗液が遺体を取りまき、流れ出す。
強烈な臭いと、目もあけられない刺激臭。
凄惨な現場に、多くの親族はたじろぎ入室を拒む。
黙々と特殊清掃に従事する。
非日常の凄絶な現場で仕事を敢行していく彼ら特殊清掃員にとってはこれが日常なのだ。
望んでいたような最期の時ではなかったとしても、
「長寿の末の老衰死だけが完走ではない。事故死だって病死だって、若い死だって完走は完走。気の毒ではあっても、敗者ではない。誰に劣るわけでもなく、卑屈になる必要もない」
と筆者は思う。
死は平等に訪れる。
無常ではあるが、
人生は、私たちに喜びや悲しみ、夢や希望を与えてくれる刺激に満ちた旅なのだ。
むごたらしい現場からの報告で、時として記述はむごたらしい死後のようすを淡々と表現しているが、著者の視線はあくまでも優しく、誠実である。
評価 ☆☆☆