読書案内「僕たちはいらない人間ですか?」 伊東幸弘著
少年院からの手紙 ①
練鑑ブルースと言う歌が流行った。練鑑とは東京少年鑑別所のことであり、
その所在地が東京の練馬にあったことから、通称「練鑑」といわれるようになった。
1959年頃これを題材にした歌が流行った。
多くの歌手がカバーしたが、
中でも藤圭子が唄う「ネリカンブルース」が人気を集めた。
しかし、非行少年を扱った内容ゆえか、替え歌の中には露骨な表現もあり
法務省は制作中止の要請を出し、発禁となった。
作者不詳の楽曲で、もと歌は昭和12年頃の「可愛いス―ちゃん」という第二次大戦中の反戦歌
に「詞」が付けられ歌だつた。
ここでは藤圭子の「ネリカンブルース」の詞を紹介しながら、著者に寄せられた
少年院からの手紙を紹介します。
歌われている鑑別所と少年院は少し違いますので、関連図を示したので参考にしてください。
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扶桑社 2001年11月刊 第二刷
不幸にして道を踏み外し、非行少年というレッテルを貼られてしまう。
支援の手が差し伸べられない孤独で、やりきれない。
胸の中にわき上がってくる怒りを抑えるすべも知らない少年。
背中を丸めて、思いきり拗(す)ねて見せるのも行き場のない彼らの生き方なのかもしれない。
「生まなきゃよかった」
親に、はむかった時に言われた一言。
今でも心にひっかかっています。
(19歳)
言ってはいけない一言が、どんなに少年を傷つけたか。
小さい時にご主人と離婚し兄弟は中学の頃から非行に走った。
兄はヤクザになった。
弟の彼は中学卒業後、非行の限りを尽くす。
シンナーに溺れ、一緒につるんだ仲間たちも去り、孤独地獄に堕ちていく。
薬物にも手を付けた。
そんなある日、
「お前なんか生まなきゃよかった」
言ってはいけない一言、
聞いてはいけない一言が悲しい。
彼はシンナー中毒で若い命を閉じた。
19歳だった。
行ってはいけない一言に著者の伊藤幸弘は言う。
「どんなことがあっても、あなたは私の大切な子だ」……
この言葉を子どもは待っているのです、と。
閑話休題: 多くの歌手が「ネリカンブルース」をカバーした。
その中の一人に平尾昌晃等と歌手活動をしていた
山下敬二郎が唄うことになった。しかし、このレコードは
発売禁止のお蔵入りになりました。
B面は新人・水原弘の「黒い花びら」でした。
会社は急遽この歌をA面にして
水原弘のデビュー曲として発売しました。
歌は大ヒットし、第一回レコード大賞を受賞し、
水原は瞬く間にスターダムにのし上がりました。
偶然が招いた運命ということでしょうか。
(つづく)
(読書案内№140)