雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

能登半島災害を謳う (2)

2024-07-29 06:30:00 | 人生を謳う

能登半島災害を謳う (2)
   能登半島地震災害から7カ月が経とうとしている。
    新聞やテレビなどのニュースの能登関連記事も最近では見られなくなってしまった。
   パリオリンピックや大谷選手のニュースが毎日のように報道され、
   復旧半ばの被災地の人々はままにならない生活環境の不便さを続けながら、
   ときには、取り残されていく淋しさにくじけそうになる時がある。
   人口流出は能登半島地域の震災以前からの課題だったが、
   震災がそれに拍車をかけ、多くの業種が人手不足に苦しんでいる。
   人口流出と経済復興の停滞する中で、地元の建設会社のK氏は
   「復旧工事は10年以上続くだろう。全く先が見通せない」と将来の不安を述べる。

   以下の歌は、能登地震から2~3カ月過ぎた頃の歌で、朝日歌壇、俳壇に掲載された歌である。
   震災の記憶が時間の経過とともに薄れていく現在、
   震災被害のなまなましい風景がよみがえってくる。
 

  「はがやしい」朝市あつた焼け跡に両手を合はすひとりの女性   大熊佳世子

    「はがやしい」とは、石川県金沢あたりの方言で、「思い通りにいかない心のありよう」を
    表現する。ここでは「誰にもわかってもらえない悔しい思い」という意味を含んでいる。
    標準語では表現することが難しい、その土地で培われた素晴らしい言葉。
     被災5カ月を経てやっと6月4日に公費解体が始まった。
    公費解体には、建物の所有権を持つ全員の同意が必要で、復旧の遅れの原因になっていた。
    
そこで、法務省は5月末、輪島朝市の264棟が建物としての価値がなくなったとして、
    「減失登記」をして、建物の解体を進めやすいようにした。
    しかし、崩壊建物の中に放置された物品の破壊や撤去には、物品の所有者の同意が必要になり、
    その同意も得られたとして解体に着手した。
    
     「はがしい」と輪島朝市の焼失した現場に立ち、両手を合わせる女性の姿が目に浮かぶ。

    

 

  珠洲原発を造らせなかった闘いは正しかったといま胸を刺す     十亀弘史

   珠洲原発は1975年に計画された。その計画は住民の反対運動と、
   それを切り崩す電力会社との28年に及ぶ闘争になった。原発設置は珠洲の高屋地区だったが、
   当初住民のほとんどが反対していた。
   関電側の住民の切り崩し運動はえげつない懐柔策だった。
   「原発視察名目の視察旅行」、「芸能人のコンサート」など、
   いずれも無料の大盤振る舞いだったという。
   数え上げたらきりのない寄付ゃ接待というカネの力に、
   一人二人と反対派の住民が切り崩され、地域は分断されて行った。
   説明会はいいことずくめの話で、住民の心を揺さぶり続けた28年間であったという。
   激しい原発反対運動に電力会社は2003年12月計画凍結を発表し、計画は頓挫した。

    今回の能登半島地震で、珠洲原発予定地の高屋地区の海岸線は数メートルも隆起した。
   「もし、あの時珠洲原発が高屋地域に建設されていたら」と隆起した海岸線を眺めながら、
   当時を振り返る。
   

臓物のはみ出すごとく家具吐きし家屋の呻くこゑする通り      北野みや子

    慣れ親しんだ住まいが倒壊し、雨ざらしになっている思い出のある品々が散乱している。
    色あせ、汚れ破壊された大切な品々が、倒壊現場の哀しさがこみ上げ、
    家屋の呻き声が生き物の叫びのように聞こえてくる。臨場感に溢れた被災者の叫びだ。

 

無事だった船四隻で水揚げす甚大被害の蛸島漁港      瀧上裕幸

  一体何隻の船が被害に遭ったのかニュースからはわからない。漁港岸壁には隆起や地割れがあり、
 被害に遭わなかった船は片手にも足りない。漁師にとっては手足を奪われたような甚大な被災だ。
 海に生きる漁師たちは、代々船を受け継ぎ家業として続ける人が多い。

 東日本大震災で被害を受けた漁師の言葉を思い出す。
 愛する者を津波に奪われ、船も無くなった。だが「俺は海を恨まない」。
 代々海で暮らしを立ててきた漁師の意地が、
 くじけそうになる自分を鼓舞するようにつぶやいた言葉が耳に残っている。

 1月21日深夜定置網漁が再開された。自宅も事務所も漁港も損壊したが、
 残った船を操業し、年末に仕掛けた定置網漁を再開した。水揚げは寒ブリ約600匹。
 タイ、フクラギなど15トンを揚げた。(参考:北国新聞)
                              蛸島漁港=石川県輪島市にある漁港。

海が好き漁はやめぬと若者の見つめる先に隆起せし浜    阿久津利江
  
漁師の仕事は過酷な仕事だ。親から子へと家業として受け継ぐ人が多い。
  海にどんな仕打ちを受けようと、海は母の懐のように優しい。
  浜が隆起しようが、地割れしようが海への希望と感謝を忘れない。
  その心意気が上の瀧上さん歌にも通じるものがある。


 能登の
地震(ナイ)海苔(のり)(か)く岩場隆起して     内田幸子
   能登の岩のリは、長い海岸線を持つ能登半島の外浦が産地として知られている。
   毎年12月から3月にかけて、自然が育てた海の幸である岩ノリ採りが行われる。
   能登では収穫したばかりの収穫したばかりの岩ノリが海水を含み「ぼたぼた」した状態なので
   「ぼたのり」ともいわれている。生産地であるだけに、多種多様あるようだが、
   珠洲や輪島では、正月の雑煮に香ばしく焼いた岩ノリを入れた「ぼたのり雑煮」を食べるのが習わし
   で、初春を彩る具材として用いられます。
    磯の香りのする「ぼたのり雑煮」を食べてみたい能登の正月です。
   過疎化が進む能登では、半島を離れ、金沢や都市圏で生活する人も多いが、
   暮れから正月にかけて里帰りをし、家族が一堂に会して「郷土料理」を食べ、
   正月を祝う習慣があります。その一家だんらんの日を地震と津波と火事が襲った。


「珠洲の塩使っています」とメモのあるバゲット一本トレーにのせる    平野野里子

    能登の塩づくりは、能登の伝統産業です。昔ながらの製法で「能登塩」には人気があります。
    地方への出店があり、震災地の店があれば必ず被災地の名産を購入する。
    夏東日本大震災時には宮城県・女川市の出店などで少しばかりの援助をしていました。
    「珠洲の塩」を使ってバゲットを作る。それを客が買っていく。小さな支援の輪が広がっていく。

 

(人生を謳う№120)         (2024.07.28記)

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能登半島災害を謳う (1)

2024-05-04 06:30:00 | 人生を謳う

能登半島災害を謳う
   多くの人がこの連休を利用して故郷へ帰省し、道路も、鉄道も、飛行機もほぼ満席の状態であった。
  海外への脱出旅行で飛行便もほぼ満席。
  能登半島地震から5月1日で4カ月が過ぎた。
  大勢のボランティア希望者が県の特設サイト登録し、
  現地の希望に沿ってボランティアを派遣するシステムがととのっている。
  登録者はほぼ埋まっているが、受け入れ側の態勢整わずに、抑制気味だという。
  どこでどんなボランティアが必要なのかさえ、なかなか把握できない現状がある。

  4カ月過ぎた現在でも被災地では、インフラが十分でなく、
  ボランティアは500円のボランティア保険に加入し、食事や飲み物、
  マスクなどは各自で用意することになっている。
 (朝日新聞5/1掲載 珠洲市のボランティア・水野義則氏撮影)
  朝日歌壇から能登地震関係の短歌を集めてみた。

 地震きて元旦能登のすざましさ逃げて逃げてのアナウンスの声   ……平野 實
   
   地震から4カ月過ぎた今でも、あの日テレビ画面から流れる
   アナウンサーの幾分興奮気味の「津波が来ます。逃げてくだ
   さい」と繰り返される声が耳の奥に残っている。

                   
 おろおろと椿の幹につかまりておさまるを待つこの大地震に   ……太田千鶴子

   被災者の恐怖が「おろおろと椿の幹につかまりて」の言葉に
   集約されている。わたしは、東日本大震災の時、農村の集落
   を歩いていて、大木にしがみつきざわざわと葉擦れの音に危
   険を感じ道路に四肢をついて身の安全を図った経験がある。

                       
 すてさんの歌に知りたる朝市の通りの火らし夜空を焦がす   ……阿武順子
 輪島のひと山下すての歌にある震災前のしずかな暮らし    ……大谷トミ子

   「すてさん」とは、輪島の住人で、豊かな感性で朝市の様子な
   どを歌に詠み朝日歌壇の常連だった。テレビの映像は数件の家屋
   から火の手が上がっている映像が火災の初期の正体を映していた。
   様々な悪条件が初期消火を阻害し、大きな火災を生んでしまった。
   「能登は優しや土までも」と謳われた半島の街が一転して、瓦礫
   の山になってしまった。

 
 能登地震に募金しにゆく福島の復興途上の浪江町の吾は ……守岡和之

   福島県浪江町は放射能の汚染がひどく、一部期間困難地区が解除に
  なったが、にぎやかさを取り戻した地区はほんの一部に過ぎず、車で
  海岸に向かって走れば、瓦礫の山はなくなったものの、家の土台と門
  柱だけ残した家が当時の悲惨さを今に伝えている。海岸に立つ浪江小
  学校は津波にあったが、生徒は全員無事に近くの高台に避難した。
  現在は震災遺構として開放されている。
  被災した者同士、痛みを分け合う。
  震災から13年を経てなお、復興途上と言わざるを得ない福島の厳しい現実がある。

 時を経るごとに死者数増えてゆくニュース悲しき正月三日  ……戸沢大二郎
 「この下に人間が居ます」と張紙し倒壊家屋の側で待つ家族  ……山口正子 

   日ごと増えていく死者の数と、行方不明の数が、厳しい現実の姿を
  物語っている。いったい誰が瓦礫の下敷きになっているのだろう。
  母とか父とか特定の人ではなく、「人間」と書いたところに、作者の
  怒りや、悲しみ、悔しさが滲んでいて、心を打たれる。

(人生を謳う№25)          (2024.05.03記)

 

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 「逝きて還らぬ人」を詠う ⑧ 傘持って行きなさいよと亡き妻の……  

2023-02-20 06:30:00 | 人生を謳う

 「逝きて還らぬ人」を詠う ⑧
       傘持って行きなさいよと亡き妻の……

      『大切な人が逝ってしまう。
    
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。       
    悲しいことではあるけれど、
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかな
 ければならない。
死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる
 場合もある。
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない』

    5人兄弟のすぐ上の姉がなくなった。89歳。
    眠るように静かに人生の幕を下ろした。 
    童女のような笑顔が忘れられない。
    父も母も兄弟たちもみんな逝ってしまった。
    最後の一人になった末っ子の私。

 早世の部下の通夜より帰り来し夫は静かに杯重ねリ 
                    
……  斎藤紀子 朝日歌壇2020.02.23
  信頼して仕事を託し一緒に目標に向かって歩んできた部下が逝ってしまった。
  たくさんの思い出と一緒にあいつが逝ってしまった。
  迫りくる寂寥感を酒と一緒に胸の奥深くに飲み込む

 傘持って行きなさいよと亡き妻の声聞く様な午後の外出 
                      
……井村おさむ 朝日歌壇2020.03.08
        今にも降ってきそうな空模様。こんな時はいつも「傘持って行きなさいよ」と、妻の一言が
  背中を押してくれる。今日もそうだ。玄関に立ち空の向こうを眺めながら、
  背中から降ってくるあの声を待っている私がいる。

吾亦紅野薊(われもこうのあざみ)野菊野の花で棺を満たして亡妻(つま)送りたり
                      
…… 加藤宜立 朝日歌壇2019.3.17
  美しさを競うような花ではなく、野の花を摘んで小さな一輪挿しに挿す。
  玄関や居間のテーブルの上、電話の脇にも野の花がいつもあった。
  一輪挿しの素朴さのなかで、野の花がひっそりと息づいていた。
  今日は、野の妻の好きだった野の花の野辺送りだ。花に埋もれて妻は野辺の花の一輪となった。

なき妻をさびしがらせずひな飾る 
             
……  小倉克(かつ)允(まさ) 朝日俳壇2019.3.10
  妻の嫁入り道具。少し色あせた古いお雛様。
  在りし日の妻をしのびながら、お雛様を飾る。

いくたびも雪の深さを聞きし母逝きてしずけしふる里の雪 
             
…… 沼沢 修 朝日歌壇2019.1.20
  「雪は降っているかい」。病床の床に横たわり、何度もなんども繰り返される母との会話。
  母は届かぬ所へ行ってしまったけれど、深い雪の重さの中には、母の生活の匂いがこもっている。
  しんしんと降り続く雪を見つめ、母との思い出を反芻する。

母逝きてしみじみ想う吹雪く夜の納豆汁のづくりの味 
                                                …… 沼沢 修 朝日歌壇2019.2.24
  納豆汁の温かさがしみじみと迫ってくる。吹雪の夜は特に母の元気な時の様々のことが思い出される。
  失ってみて初めて分かる母の味であり、温もりである。「吹雪の夜」と「納豆汁」の対比が
  母への思い出につながる場景描写が好きです。

    (人生を謳う)       (2023.02.17記)

 

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逝きて還らぬ人を詠う ⑦ 「ありがとう」を言うと最後になりそうで……

2022-07-24 06:30:00 | 人生を謳う

逝きて還らぬ人を詠う ⑦ 「ありがとう」を言うと最後になりそうで……

      『大切な人が逝ってしまう。
    
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。       
    悲しいことではあるけれど、
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかな
 ければならない。
死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる
 場合もある。
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない』

〇 聞こえるかお前の好きなあの頃の軽いロックが出棺の曲
                         …… (神戸市) 松本淳一 朝日歌壇2021

      最期のお別れだ。お前と俺が今でも共有している軽いロックを聞きながら送りだす葬送曲だ。
      出棺の時は、なんの憂いもなく、ただこの曲ももう一緒に聴くとはないのだと思うと寂しさがこみあげて
      くる。「あの頃」をなつかしく思い出している作者がいる。


〇 
花を待つ人亡くて花咲きにけり
              ……(横浜市) 生田康夫 朝日俳壇 2021.04.11

      主のいなくなった朽ち果てていく廃屋の庭に今年も花が咲いた。花の咲くのを待っている人もいな
      いのに花は咲いている。この句を詠んで、今ではあまり使われなくなってしまった『苫屋』(とまや)
      という言葉を思いだしました。屋根を菅(すげ)や萱(かや)などで葺いた古い民家という意味かと思いますが、
      『われは海の子』という歌を思い出しました。
      われは海の子 白波の   さわぐいそ辺の松原に
      煙たなびく苫屋こそ    わがなつかしき 住み家なれ

       今と違って地方文化が生き生きと営まれていたころに、海を故郷として真っ黒に日焼けした子どもたちが
       パンツ一枚になって遊ぶ姿が描かれています。「煙くたなびく」というところに当時の生活の実感がこも
       っています。
       この句は、過疎化で年々さびれていく苫屋に咲く花に思いを託し、さびれていく過疎の村の風景を謳って
       いるのでしょう。また、『年々再々花相似たり、年々再々人同じからず』と昔の中国の人が詠んだ漢詩を
       思い出し、変わりのない自然の営みと、人の世のはかなく移りやすいことなど、想像の翼を広げました。

 

〇 「ありがとう」を言うと最後になりそうで言えないままに父を看取りぬ 
                       …
… (前橋市) 町田 香 朝日歌壇 2021.04.25
       ついに言えなかった父への最期の言葉。これを言ったら父がすぐに逝ってしまうようで言えなかった
       「ありがとう」。「あの時、言えばよかった」と悔恨の気持ちがわき上がってくる。
       「ありがとうって言えなくて、父さんごめんね」という声が聞こえてくる。


〇 
十年は昔にあらず慰めは未来にならず子の墓洗ふ 
                    
…… (盛岡市) 及川三治 朝日歌壇 2021.04.04
       子を亡くした親の気持ちが、『墓を洗う」という最期の言葉に表現されています。
       子との想い出が昨日のことのように浮かんでくる。
       やさしい慰めの言葉をかけられても、いやされることもなく、
       生きるすべを奪われたような寂寥感が胸のうちを漂う。
       墓を洗いながら子を失った現実を噛みしめる。
       わたしの母は二女をお産で母子ともに亡くし、残された3歳の子を前にして、
       「私が代わってあげるから、戻ってきておくれ」ともの言わぬ娘に何度も何度もささやいていた。

〇 徘徊の妻を語りて涙ぐむ友を励ます妻なしわれは 
                    
…… (小美玉市) 津嶋 修 朝日歌壇 2021.02.28
       男どうしの友情が感じられる一首です。日々子どもに還っていく妻。やさしく、美しかった妻が
       少しづつ壊れていくのを見るのがつらいと涙ぐむ友人を励ましながら、
       「それでも、生きていてくれるだけでいい……」と、妻を亡くした哀しみを新たにする。


〇 知らなくていいことまでも知りそうで父の遺品は手つかずのまま 
                     …… (相馬市) 根岸浩一 朝日歌壇 2021.02.28
       喪の作業は逝ってしまった人を偲び、残された人の悲しみを癒していくプロセスです。
       遺品整理は故人を偲び、個人の在りし日の姿を思い出す作業ですが、悲しくつらい作業になることもあ
       り、整理した遺品を形見分けするにも時間がかかる場合もあります。腕時計、眼鏡、財布などを見れば
       在りし日の元気な姿が蘇ってきます。一つひとつに思い出があり、時によっては個人の知らなくてもいい
       秘密まで知るようなことになります。
       大切な人を亡くし、情緒の不安定な時期が訪れます。孤独で、とても辛い時期です。
       同時に「どうして私を置いて逝ってしまったの」「どうして私だけが…」と相手を攻める、
       自分を責める時期が同時進行的に起きてくるようです。そして最終的には、死を「受容」できる段階に至
       ります。個人差はあるものの、人生の定離を認め人生の終わりを静かに見つめることができて、
       心に平穏が訪れる時が訪れます。と、書いてしまうと何だか味も素っ気もない文章になってしまいます。
       「グリーフケア」のセオリーはセオリーとして、悲しみを克服し、立ち直るには個人差があり、
       いつになったら悲しみが癒されるのかはわかりません。
       残された遺品を見て、故人に思いを馳せることが、故人からの大切な贈りものなのでしょう。

       

           (人生を謳う)          (2022.07.23記)

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逝きて還らぬ人を詠う ⑥ 本当は誰かの胸で泣きじゃくり……

2022-01-16 06:30:00 | 人生を謳う

逝きて還らぬ人を詠う ⑥ 本当は誰かの胸で泣きじゃくり……

      『大切な人が逝ってしまう。
    
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。       
    悲しいことではあるけれど、
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかな
 ければならない。
死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる
 場合もある。
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない』

 〇 次々に録画されゆく番組は昨日逝きし妻の予約なり 
                     
…… 神蔵 勇 朝日歌壇  2020.9.27
             人の命は「今日一日」が何事もなく、過ぎてくれればそれでよしとしなければならない。
     その上で、一つぐらいほっこりするようなことに巡り会うことができたら、「幸せ」と
     思えれば、今日一日を生きられたことに感謝することができる。

      いまの一瞬を生きることができれば、
   「明日世界が滅亡することを知っていても、今日私はリンゴの木を植える」
     と言った偉人は誰だったか。
    決然と生きる覚悟がうかがえる。
      今日生きることができても、明日どう生きられるかは誰にもわからない。
      神蔵さんの句は、そのような一面を捉えている。おそらくは突然に逝ってしまった愛しい妻への
     鎮魂歌なのでしょう。故人が愛用した帽子を見ても、玄関に残されたお気に入りの靴をみても、
     愛しい妻の在りし日の姿を追い求めている自分がいる。
             おそらく故人は連ドラの録画予約をしておいたのでしよう。この故人の行為が、突然の死を読者に連想させ、
     残された者の悲しみが、読者に伝わってきます。
     

 〇 コロナ禍の世をコロナにも侵されず妻は己れが癌細胞に逝く 

                      …… (豊中市)  山本 孟 朝日歌壇 2020-8-09
     丈夫だった妻が癌に冒され逝ってしまった。元気だった妻を思うとき、
   「あんなに元気だった」妻の命を襲った癌細胞の非情さを、日々思うわが身を寂寥感が被っています。
 
 〇 お別れが悲しいのではないちゃんと愛されなかったことが悲しい 

                      …… (東京都)  上田結香 朝日歌壇 2020-07-05
   作者の人生にどのようなドラマがあったのか。
  「愛されなかったことが悲しい」と誰にも言えない胸のうちの煩悶を、自分にささやいてみる。
   最後のお別れの悲しみにも増して、「愛されなかった」ことへの悲しみが、胸のうちに広がって行く。
    もの言わぬ個人を前にして、無言のサヨウナラをつぶやく………
   

 

 〇 本当は誰かの胸で泣きじゃくり弱虫さらけ出せばあきらめつくかも 

                      …… (三鷹市)  山室咲子 朝日歌壇 2020-07-05

   「本当は」というところに、作者の理性と自制心を感じます。
  でも、かろうじて悲しみを胸のうちにしまい込むよりも、理性と自制心をかなぐり捨てて幼児のように
  声をあげて暖かくてやさしい胸のうちに飛び込めたらどんなに楽になれるだろうと
  わかっているのにそれができない自分がいる。
  「逝きて還らぬ人」の項目で取り上げたが、長い人生のどこかで、
  行き詰まりの土壇場に立たされ次の一歩が踏み出せなくて逡巡するときが一つや二つ誰にもある。
  試練を乗り越えて人は強くなっていく。

(人生を謳う)        (2021.01.15記)

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原発を詠う (2) 汚染水 やっとたどり着いた10年目の春なのに…  

2021-05-23 06:30:00 | 人生を謳う

原発を詠う  (2) 汚染水
  やっとたどり着いた10年目の春なのに…

   (写真・朝日新聞 北村玲奈氏) 

  「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」
   東電が2015年に福島県漁連に回答した文書である。
   にもかかわらず、4月13日、政府は福島原発の処理水を海洋放出することを決定した。
   国の放出基準は1㍑あたり6万ベルク。
   この数値は、70歳になるまで毎日約2㍑飲み続けても、
   国際的に許容されている基準におさまるレベルらしい。
   福島第一原発では、法定基準の40分の1まで薄めて放出するらしい。

   実際の放出は2年後になるのだが、
   この決定には、「ここで判断しなければ、タンクでの保管は難しくなる」
   という、トイレなきマンションといわれている原発運営の危機的状況を抱えているからだろう。
   「期限ありきの放出」という魂胆がありありと見える海洋放出決定だ。

   福島の魚業は原発事故後10年の長い時をかけて、
   4月から本格操業への「移行期間」に入ったばかりで、
   魚業関係者にとっては「出鼻をくじかれた」格好になってしまった。
   そこには、漁業関係者の納得もなければ、
   政府や東電との「信頼関係」も存在しない強引な決定である。
   このような状況の中で、「風評被害」を克服できるのだろうか。
           10年の時の流れが、
   福島県産品に抵抗感のある消費者は8%まで減少してきた矢先の海洋放出です。

   日本の農水産物・食品の輸入規制は未だに15の国・地域で続いています。
   15の規制の中には、本当に原発事故の影響で、食品への放射能汚染を心配する国もありますが、
   自国、あるいは現政権の思惑で、表現は悪いが政権の人気取りで輸入規制を掛けたり、
   対日本への政治的・経済的圧力として規制をかけていると思われる国もあります。

   「絶対に許せない措置だ」と批判し、国際海洋法裁判所への提訴も辞さないと、
   態度を硬化させた韓国の文在寅(ムンジェイン)政権(4月19日朝日)は、
   一ヵ月も経たない5月16日には、処理水の海洋放出に関して、
   二国間協議の開催を打診してきた。
   態度を軟化させたのか、どんな政治的駆け引きがあるのか。
   不安の波紋が広がっている。

 朝日新聞歌壇から、汚染水処理に関する短歌を選んでみた。

   
福島の幻の魚になるも惜し請戸(うけと)の海の「どんこ」の煮付け 
                                                                                                …… (国立市) 半杭螢子 
     福島県浪江町の請戸漁港に水揚げされる「どんこ」や「シラウオ」は、「常磐もの」といわれ
     高値で取引される。美味である。「どんこ」の煮付けや「どんこ汁」が美味しい。
     シラウオは春告げ魚ともいわれ、原発事故以来10年目にして解禁になったばかり。海洋放出に
     より、待ちわびた福島の魚を、幻の魚にしてはいけない。 

   手に負えぬものを作りし人間の後始末する母なる海よ
                          
…… (大津市) 秋山一美 
     手に負えないモンスターを人間は作ってしまった。母なる海に後始末を任せてしまう。
     人間の身勝手さ……。

   うろくずの黒きまなこは見ています海へ流れてくるものすべて 
                                                                                                           
…… (福島市) 美原凍子 
     もの言わぬ魚の黒いまなこは、人間の身勝手で海を汚すものを見ている。
     目に見えぬ汚染水に含まれるトリチュウだって、体を目にして見つめている。
     「うろくず」は魚のこと。

  それほどに安全ならば初めから海にながしていれば良かったのに 
                              
…… (さいたま市) 吉田俊治 

  モリカケもサクラも水に流す世は「汚染水」まで海に流すか
                              …… (京田辺市) 本郷宏幸
    吉田さん、本郷さんの歌。「水に流すという」言葉にひそむ、人間の身勝手さが浮かんでくる。

       参考:過去ログ2016.6.5 原発を詠う(1)

       (2021.5.22記)                (人生を謳う)

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逝きて還らぬ人を詠う ⑤ この世での最期の言葉は「ありがとう」…

2021-04-08 05:30:00 | 人生を謳う

逝きて還らぬ人を詠う ⑤ この世での最期の言葉は「ありがとう」…

 

      『大切な人が逝ってしまう。
    
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。       
    悲しいことではあるけれど、
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかな
 ければならない。
死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる
 場合もある。
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない』

   〇 妻の死を看取りて後に気付きたり励まされたのは自分だった 
                        
…… 島田章平 朝日歌壇 2019.12.15
         寄り添うように生きて来た長い年月。辛く苦しい介護もあった。だが、看取って初めて妻を
         愛しいと思い、励まされていた自分に気づき、愛しさが一層募ってくる。

   〇 見出しぬ妻の遺品の箱一つわが生涯の給与明細 
                     
……  鶴貝敬司 朝日歌壇 2020.02.16
         遺品整理は悲しい作業であるが、故人を偲び懐かしい思い出に浸る作業でもある。
         「わが生涯の…」とあるように、妻との懐かしい生活の場面が新婚当初の給与明細から
         丁寧に箱に収められている。一枚一枚の給与明細に込められた妻の思いが伝わってくる

  
   〇 
傘持って行きなさいよと亡き妻の声聞く様な午後の外出 
                    
     …… 井村おさむ 朝日歌壇 2020.03.08
         玄関を開けると、今にも降って来そうな曇り空だ。空を見上げて一瞬躊躇する。
         背中に妻の声が聞こえたような気がした。「傘持って行きなさいよ……」

  
    
妻の逝きし病室を出づ夜の窓に映る列車の灯の懐かしき 
                     
  ……石島崇男 朝日歌壇 2020.04.26
         たった今妻が身罷(みまか)った。その病室を出ると窓の外に夜の闇がひろがっている。
         その闇のなかを通りすぎてゆく列車の灯りが、かけがえのない妻を喪った寂寥感の
         漂う作者の心に懐かしい風景が流星のように通り過ぎていく。

  
   〇 「此処からは一人ですよ頑張ってね」と棺のひとにささやく夫人
                        
…… 中村睦世 朝日歌壇  2020-05-24
         冷たくなって棺の中に横たわる夫に向かって、やさしく、ささやくように呼び掛ける。
         死してなお、精いっぱいの愛情で繋がる二人。生きている人に語りかけるように……

  
    
この世での最期の言葉は「ありがとう」父待つ空へとかあさん還る 
                            
…… 久野茂樹 朝日歌壇 2020-07-05
        「母さん、父さんがいなくなってからよく頑張ったね」。
        「ありがとう」の最期の言葉を残して旅立った母への、感謝と鎮魂の歌だ。

                                (人生を謳う)                (2021.4.7記)


    






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コロナウイルスを詠う ③ 人間の愚かさ淋しさ味方にし……

2020-08-07 12:34:32 | 人生を謳う

コロナウイルスを詠う ③ 人間の愚かさ淋しさ味方にし……

非透過性納体袋我が胸に茨線(ばらせん)のごとく刺さりて止まぬ 
                       …… (さいたま市) 伊達裕子 朝日歌壇  2020-05-10

この春に初め遇ひたる言の葉の〈納体袋ふかぶか淋し〉 
                       …… (宝塚市)  櫂 裕子 朝日歌壇 2020-05-31
  日透過性納体袋に収納された遺体。弔いの儀式もない。最期のお姿を見ることもできず、火葬される。
  白い骨になって初めて会うことができる。この非情さが、「新型コロナウイルス」の容易ならざる感染
  力を物語たっている。コメディアンの志村けんさんがなくなり、マスコミは「納体袋」の非情さを報道した。
  多くの人達が、この報道で、コロナ禍かの容易ならざる感染力を意識したように思う。
  人を笑わせ、心を明るくする、その裏側で貪欲に笑いの研究をしていたコメディアンの死は、悲しく涙を誘う。

ウイルス禍の街はマスクに牛耳られ忘れがちなる口紅悲し 
                      
…… (茅ヶ崎市)  岡田みいこ 朝日歌壇 2020-05-17
   マスクで顔の半部を隠してしまう。今の季節には息苦しさを感じ、思わず外してしまいたい衝動に駆られる。
 どうせ、外出してマスクを外すことなんてめったにないことだから、ファンデーションも口紅からも遠ざかってしま
 う自分に気づき、飾ることに気を使わなくなった自分に苦笑いをする。そういえばコロナ禍の影響で、女性用化粧品
 の売れ行きも落ち込んでいるとか……

お葬式みな一様にマスクしてマスクせぬのは棺の母だけ 
                                                                                 …… (江南市)  村瀬雅美 朝日歌壇 2020-07-05
 「三密はも不要不急の外出も控えましょう」
 最愛の人の旅立ちも、質素にひっそりと行われることが多くなりました。そうした状況を踏まえて、
 棺に横たわる帰らぬ人の顔をしげしげと見つめる。
  最近、こんなことがありました。
 86歳になる先輩が80歳になる妻を失くした。進行性ガンで3カ月の入院中
 一度も面会が叶わず、面会を許されたときには、意識もなく、もの言わぬまま命の灯を消してしまった。
 コロナ禍とはいえ、辛く悲しい臨終を夫は、どうにもならない自分を情けないと悔やんでいました。
 葬儀もまた淋しい。たった3人(夫と若夫婦)だけの通夜と告別式。
 コラえてもコラえても涙が流れて止まらなかったと……

村ざかいの道祖神は伝えおり建てられし年に疫病ありと 
                                                                               
  …… (神奈川県)  吉岡美雪 朝日歌壇 2020-07-12
  普段は顧みられなくなった村ざかいの路傍に鎮座する道祖神。村に侵入する悪霊や厄病から村を守る
 道祖神は、民間信仰の素朴で優しい思いを具現しているのでしょう。
 遠い昔に建てられた疫病封じの道祖神は、村人の願いを叶えられたのでしょうか。
 「どうぞコロナが侵入(はいらない)ように……」と無意識のうちに手を合わせている自分がいる。

人間の愚かさ淋しさ味方にし生き延びふえる新型コロナ 
                                                                                
  …… (西宮市)  大山 緑 朝日歌壇 2020-8-28
   「自粛」することも、最初は「こんな生活もいいかな…」、しかし、この期間が長引けば長引くほど、
   こころがささくれ立ってくる。こころのトゲトゲが他者に向けられ、自粛警察なる言葉が社会の空気を暗くし
   て、生きづらさの風が社会をかけめぐる。
    緊急事態宣言が解除され、東京アラートも線香花火のようにすぐに消えた。
   「自粛」のすすめが解除されたわけではないのに、再び人の動きが活発になり、クラスターが頻繁に発生する。
   「夜の街」が標的にされ、失業、生活苦、DV、子どもたちは言葉を忘れた様に心を閉ざす。
   「普通の生活を取り戻したい」、「経済の活性化」も喫緊の課題だ。
   どちらを優先するのか、二者択一ではない。同時進行で進めていかなければ、
   社会のバランスは崩れてしまう。
   人間の愚かさや我儘の狭間に、淋しさの谷間に、新型コロナは忍びこんでくる。
   コロナウイルスだって生き物。人間という最適の宿主をそう簡単に離しはしない。

(人生を謳う)    (2020.08.06記)

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コロナウイルスを詠う ② 痩せ細り母が母でないような……

2020-06-13 09:28:49 | 人生を謳う

コロナウイルスを詠う ②
               痩せ細り母が母でないような……

 移るより移すことへの恐れから人は優しく人を遠ざけ 

               …… (岐阜県) 箕輪富美子 朝日歌壇 2020-05-17
      優しさゆえに、人を遠ざけなければならない現実が侘しい。
  それを、「やさしい距離」という。新しい言葉の表現です。
   「ソウシャルディスタンス」も最近よく耳にする言葉です。
   新型コロナの感染拡大を防ぐためにsocial distance(社会的距離)を取る。人と人との物理的な距離を保って、濃厚
   接触を避けようという取り組みです。国によってその距離は異なるようですが、日本の場合、1m~2m位です。

「すいません少し離れてください」と後ろの人に言うレジの列 
                …… (長岡市) 国分コズエ 朝日歌壇 2020-05-17
      「やさしい距離」もちょっといきすぎると、「冷たい言葉」となって他人に向けられます。
   「自粛警察」なんて嫌な言葉もあります。
  自粛生活も長引くとストレスも溜まります。
  「権威の後ろ盾のもと異端者に正義の鉄槌を下すことで、普段なら抑えている攻撃衝動」を発散してしまう
  (甲南大学・田野大輔教授)。
 
  「自粛警察」という言葉で連想されるのは、
  感染拡大を防ぐために守らなければならない自粛の約束事を守らないものを排除しようとする人々のことです。
  「何で営業しているんだ。休業しろ!」
  4月、居酒屋の入口の前に貼った張り紙にそんな落書きが見つかった。
  警察や行政機関への通報など、いずれも匿名で行われるところにも問題があります。


 
辻々に立ちてウイルス封じゐる道祖神へと菜の花を置く 
                 
…… (長野県) 千葉俊彦 朝日歌壇2020.05.10
   道祖神は村の入口の辻に祀られ、村へ侵入する「悪霊」や「疫病」から村を守る願いが込められています。
   素朴な道祖神に、菜の花を供えコロナウイルスの侵入を祈願する優しい振る舞いが漂っています。
 
 四月に緊急事態宣言が出され、自粛生活も随分長い間強いられてきた学校、図書館、公民館等公共施設が閉鎖さ
 れ、多くのイベント、スポーツも中止になり、私たちの生活も閉塞感が漂い始めました。
 病院や介護施設等への面会が禁止になり、心配する肉親もたくさんいました。
 以下、面会禁止に伴う辛さを詠った歌を集めてみました。


 面会の叶わぬ母の施設より笑顔のスナップ写真届きぬ 
                 
…… (宝塚市) 小竹 哲 朝日歌壇2020.05.10
  介護職員の心づかいが、母の笑顔となって届いてきた。

   痩せ細り母が母でないような哀しい写真施設より届く  
                                                            
…… (下松市)  内山春日 朝日歌壇 2020-05-31
       すっかり痩せ細った写真。「お母さん、ごめんね」と、涙ぐむ作者の姿が浮かんできます。

  一ヵ月以上面会できなくて元気だろうか病床の母 
               
…… (川崎市) 小島 敦 朝日歌壇2020.05.03
       母は元気だろうか。病院のベッドに横たわる母を思うと切なさと不安がわき上がってくる。

   手短に夫の容体訊ねつつ着替えを託す病院の庭
                                                   
…… (津山市)  横林明美 朝日歌壇 2020-05-24

   せっかく病院まで来ているのに、面会できない辛さ。
   せめて、夫の容体だけでも聞きたい……
   「手短に」という言葉に介護する人への優しさと遠慮が浮かんでくる。

  

 参考過去ログ
   コロナウイルスを詠う
    疫病に閉じ込められて過ごす日々…… の記事は2020.5.2付でアップしています。 

 (人生を謳う)        (2020.6.12記)

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コロナウイルスを詠う  疫病に閉じ込められて過ごす日々……

2020-05-02 14:29:25 | 人生を謳う

コロナウイルスを詠う
          疫病に閉じ込められて過ごす日々……

人を避け人に避けられ雑踏の街をマスクとマスクの孤独 
                        …… (福島市) 美原凍子 朝日歌壇2020.03.15
 行き交う人々のほとんどがマスクを掛けている。
 無言ですれ違う人と人。人を避け、避けた私もまた避けられている。
 行きかう人の中にふと垣間見える、孤独。

マスク、マスク、マスク続きてマスクせぬ夫婦に出会い安堵する道
                        …… (東京都) 神山明夫 朝日歌壇2020.02.23
 マスクをする人が行き交う。異様な光景が繰り広げられる。
 「マスクせぬ夫婦」がなんと新鮮に見えることか。
 手作りマスクが登場し結構人気になっている。
 色のついたマスク、花柄のマスク。閉塞感漂う非日常の中で、ささやかなマスクの自己主張。


疑へば全て罹患者バスの中マスクがマスクを監視している
                        
…… (下関市) 牛島正行 朝日歌壇2020.02.23
 乗客同士がマスクで隠した顔の裏側で、
 自分以外の人を罹患者ではないかという疑う自分がいることに気付く。
 SFに登場する「監視社会」を連想し、「コロナ騒動」の不安の一面を鮮やかに切り取っている。

薬局のマスクの棚の空白に薄き不安が積もりてゆけり
                    …… (東京都) 水谷実穂 朝日歌壇2020.02.23
 マスク、マスク、マスク。店頭にマスクがない。
 今日も来てみたがやっぱりマスクがない。心をよぎる「トイレットペーパー騒動」の不安。

 

昼日中一人球蹴る少年の背中に少し怒りがにじむ 
                    …… (中津市) 瀬口美子 朝日歌壇2020.04.26
 少年の背中ににじんでいる小さな孤独、と怒り。
 「コロナ騒動」は、じわじわと押し寄せる波のように、私たちの社会を侵食する。
 長い時間をかけて築いてきた文明社会が、
 意外と脆く、弱点だらけの社会であることを切実に感じる昨今である。
 私たちは、少年一人を護ることすらできない非力な存在であることを痛感する。

ウイルスの世界中の広まりに自分だけはないと考えている 
                        … (さいたま市) 高橋健興 朝日歌壇2020.04.26
 「自分だけはない……」と、居酒屋に行き、パチンコ店に行き、観光地に行く。
 このような心理状態を心理学用語で「正常バイヤス」といいます。
 自分にとって都合の悪い情報を無視したり、
 「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」などと過小評価したりしてしまう人の心の特性
 都合の悪い情報は無視してしまうから、
 コロナに感染した場合、「多くの人に迷惑をかけてしまう」という気遣いまで、捨ててしまう。

疫病に閉じ込められて過ごす日々人間力をためされている        
 
                  …… (相模原市) 三木涼子 朝日歌壇2020.04.26
 そうだ、いま私たちは試されているのだ。
 どれだけ耐えることができるか。「駄目なものは駄目なのです」と、
 自粛や中止や休業をそれぞれの事情を乗り越えて、どうしたら一番有効な封じ込めができるのか。
 自己を犠牲にすることも必要だが、感染の荒波を乗り越えるための政策に沿って、
 一人一人が「ウイルス封じ込め」という目標に向かうことができるかどうか試されているのだ。
 
 どんな攻撃を受けようとも、人間には「英知」という素晴らしい感性がそなわっているのだ。

 

昨日 今日
   新幹線指定席 販売見合わせ。
    JR東日本…東北・北海道・上越・北陸・秋田・山形の新幹線の5/28以降の指定席。
    中央線 常磐線の特急指定席も。

   岩手・盛岡駅…新幹線改札で検温(サーモグラフィーによる)(5/1~5/6まで)
    来県を止める趣旨ではなく、注意喚起が目的。
    感染が疑われる症状がある場合は、相談先も案内。

   沖縄 観光客1千万人割る。

   11月の福岡マラソン中止

   タクシー会社 雇用維持に合意
    ① 従業員を解雇せずに雇用を維持する。
    ② 休業期間中、従業員に休業手当を払う。
    ③ 退職合意書を出した従業員が希望した場合には、合意撤回を認める。

   マスク入荷偽メールに注意

   東京都の感染情報
    4/29、30日  感染者が50人を割った東京都だが、再び100人を超える126になった。
    新たな感染者は、病院内クラスターや老人ホーム等に多い傾向。

    (人生を謳う)        (2020.5.2記)

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