雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

こころよく我にはたらく仕事あれ……① 石川啄木の歌

2018-10-05 17:20:56 | 労働問題(過酷労働・過労死・仕事と生きがい等)

     こころよく我にはたらく仕事あれ…
 ① 石川啄木の歌

 こころよく我にはたらく仕事あれ
        それをし遂げて死なむと思う
              石川啄木 「一握の砂」1910年

  啄木にとって「こころよくはたらく仕事」はあったか。

 放浪と病苦、貧苦にあえぎ故郷岩手県・渋民村で代用教員として働き始める。
 この時啄木20歳。

 1年後には北海道に渡り、函館、札幌、小樽、釧路と漂白し、
 新聞記者として働くが残ったのは、借金と失意だけだったという。

 22歳の春、妻子を残し上京し、小説家たらんとするが、
 彼を待っていたのは、貧乏、借金
 そして放蕩、病気。小説は売れずここでも彼は深い挫折を味わう。

      いと暗き
  穴に心を吸はれゆくごとく思ひて
  つかれて眠る
       
※ 真暗な穴に心が吸われていくような思いで、
         ただただ疲れて私は眠る。貧困、放蕩の末に
         啄木は闇のなかに「死」をみつめていたのではないか。 
  
  こころよく
  我にはたらく仕事あれ
  それを仕遂げて死なむと思う
       
※ 東京朝日新聞に校正係として勤めていたときの歌です。
         啄木にとって「こころよくはたらく仕事」とは、文学で
         身を立てることだった。現実との乖離に苦悩する啄木の
         思いがこの歌となって噴出したのでしょう。

  浅草の夜のにぎはひに
  まぎれ入り
  まぎれ出で帰しさびしき心
       ※ どうしようもない苛立ちが、やがて啄木を孤独感におとしめる。
         群衆の中に居てなお孤立した啄木の姿が哀しい。
         この歌の前に次のような歌も歌っている。
           こみ合へる電車の隅に
           ちぢこまる
           ゆふべゆふべの我のいとしさ

  啄木24歳(1910年 明治43年)
     「一握の砂」刊行。啄木は当初、
     歌集の書名を「仕事のあと」として考えて
     いたが、最終的に「一握の砂」とした。
       頬につたふ
       涙のごはず
       一握の砂を示しし人を忘れず
     余談になりますが、「一握の砂を示しし人」は誰なのか。
     女性だと仮定すれば、「恋愛歌」として多くの人の共感を呼ぶ。
     だが、男と仮定した場合、「人生歌」とも解釈できる。
     「一握の砂を示しし人」は、心を許した人生の先輩や友人などが思い浮かぶが、
     歌の内容が甘すぎる。やはり、女性とした方がしっくりするのではないか。

       いのちなき砂のかなしさよ
       さらさらと
       握れば指のあひだより落つ
        指のあいだよりさらさらと落ちる砂の無常観が、
         「いのちなき砂のかなしさよ」という上五七によって
         さらに強調されている。イメージとしては、頬につたふ/涙のごはず/
         一握の砂を示しし人を忘れず/に通じる歌です。
  生活苦にあえぐ苦しさや、孤独感をその時々の感情の赴くままに歌に託した啄木。
  啄木の歌は、青春のやるせなさ、哀しみや孤独感、
  貧困などの日常の出来事を素直に五七五七七託し自己表現している。

  小説家になりたかった啄木は「歌は小生の遊戯なり」と言っているが、
  やがてこの言葉は歌集「悲しき玩具」として結実する。
  1912年4月13日(明治45年) 啄木肺結核にて死去。満26歳
      
  1912年6月20日 啄木第二歌集「悲しき玩具」が発刊される。
         新しき明日の来るを信ずといふ
        自分の言葉に
        嘘はなけれどー
         「嘘はなけれどー」言葉に託くした啄木の深い絶望を思うと
          心が痛みます。
         途中にてふと気が変わり
        勤め先を休みて今日も
        河岸をさまよへり

        呼吸(いき)すれば
          胸の中(うち)にて鳴る音あり
         凩(こがらし)よりもさびしきその音
                  
「悲しき玩具」冒頭の歌です。
           限りなく暗く寂しい心象風景が浮かんできます。
           「私にとって歌は悲しい玩具である」といった啄木にとって
           仕事とは何を指すのだろうか。


                               啄木と仕事という視点で啄木の歌を鑑賞してみました。          
           (2018.10.6)          (労働問題№3)

   

           

 

 

 

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過労死・過労自殺

2018-07-20 07:11:26 | 労働問題(過酷労働・過労死・仕事と生きがい等)

過労死・過労自殺
    厚生労働省発表「過労死等の労災補償状況」

写真・図版


 過労死・過労自殺として労災認定された人は190人だ。
 グラフに表されたように2015、2016、2017年とほぼ横ばい状況である。

 政府は15年度に過労死をなくすための対策をまとめた「過労死防止大綱」を策定したが、
その後も大勢の人が働き過ぎや仕事のストレスで亡くなる状況が続いている。

 過重労働が長い間続けば、
 くも膜下出血や心筋梗塞(こうそく)などの「脳・心臓疾患」で倒れてしまう。

              過労死=92人/190人
 また、仕事のストレスなどで「心の病」を患って過労による自殺(自殺未遂を含む)した人は
                                    過労自殺(未遂を含む)=98人/190人
  「過労死ライン」という過労死認定の目安は、
  月80時間以上の時間外労働時間の有無を一つの基準とする。
  
   過労死の内過労死ラインの80時間を超えた人は全体の9割におよび、
  そのうち月100時間を超える時間外労働をした人は5割におよぶ。
  同じように過労自殺(未遂を含む)をした人の内、5割を超えた人が過労死ラインを超えていた。

    こうして細かく見ていくと、背景にあるのは長時間労である。
    何故長時間労働なのか。
        此の事を考えないと、労働問題は解決しない。
   同業他社との苛烈な競争、労働力不足、人権無視などを解決しない限り上部だけの対策になり、
   根本的な解決にはならない。

   2017年度の労災認定された人は次の通り
    心の病で認定された人  506人(前年比プラス8人) 2年連続で過去最多
    体の病気で認定された人 253人(前年比マイナス7人) 
         労災認定を受けた人の数値であるが、
         実際にはこの何倍もの人たちが労働災害寸前の環境で働かざ

          るを得ない現実があることを認識したい。


   「過労死防止大綱」について
   大綱では過労死が多い一部の業種について、働き手の労働実態を特別に調査すると定めている。
   現時点では自動車運転業務、外食産業、教職員、IT産業、医療の5業種が明記されているが、
   これにメディアと建設業が加わる。

   メディアでは、広告大手・電通の新入社員の過労自殺や、
   NHK記者の過労死、建設業では新国立競技場の現場
監督の過労自殺が大きな問題となった。
   こうしたことから詳しい調査が必要だと判断したようである。

   対象業種には数年おきにアンケートを行い、
   長時間労働がなくならない理由などを厚労省が毎年まとめ「過労死
等防止対策白書」で公表
   する。


   数値目標の一部をあげる
     週の労働時間が60時間以上の人の割合 17年7.7%→20年までに5%以下
     年次有給休暇の取得率 16年49.4%→20年までに70%以上
     働き手のストレス状態を調べる「ストレスチェック」の結果を職場環境の改善に
     活用した事業所の割合を

      16年37.1%→22年までに60%以上

       労働力不足もさることながら、低賃金の問題も見過ごすことはできない。
   生産現場等においては「毎日2時間、週に10時間程度の残業がなければ、
   生活が厳しい」という現場からの声もあり、年次有給休暇の取得なども含め、
   実現には相当の覚悟をもってあたらなければ実現しない。

     現実にはこんな馬鹿なことが。
   国立循環器病研究センターで月300時間までの時間外労働が許容される労働協定が結ばれていた。    看護師のМさんはくも膜下出血で倒れ、過労死の認定を受けた。
  Мさんの場合過労死ラインの80時間は超えていな
かったが、
  実務、研修、新人指導など激務をこなしながら、シフト制の勤務の中、
  退勤から次の勤務まで5
時間しかない時も珍しくなかった。

  月100時間を超える労働時間。
 だが数カ月から半年の時間外労働の平均は、「過労死ライン」を超えていないケースも多い。
 「過労死ライン」を超えていなければ良いという単純な問題ではなく、
  労働環境 や労働密度によっても過労死が起こるということを
  経営者は肝に銘じるべきではなかろうか。

 「過労死ライン=月80時間の時間外労働」と明記してしまえば、
  この目安だけが一人歩きし、月80時間以内の時間外労働だったらいいのだと 
  目安を逆手に取ってしまう考えは本末転倒だろう。 
                     (2018.7.19記)
      (過酷労働・労働問題等№2)

  

     

 

 

 

 

 
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過酷な労働 常態化 (大東建託)

2018-07-12 19:09:23 | 労働問題(過酷労働・過労死・仕事と生きがい等)

過酷な労働 常態化か (大東建託)
  協定超す残業

   
  当たり前のことだが、企業は人間から成り立ち、
 人間あっての企業である。

 人間は誰でも大切にされたいし、
 重要な存在だ思われたい。

    城山三郎 打たれ強く生きる(エッセイ)より

  過当競争の果てにたどり着いたのが、低賃金であり、
      働く者への過酷な労働である。
  働く者あっての企業であることを忘れてしまえば、
  組織は内部から腐っていき、やがて崩壊する。

  当たり前のことが、当たり前に存在しない社会は生きずらい。
  無理な競争を強いられ、労働環境はどんどん過酷になっていく。

  大東建託 お前もか
   賃貸住宅建設大手の大東建託の神奈川支店が、
   
労使協定で定める上限を超えて社員に長時間労働をさせたとして
   労働基準監督署から是正勧告を受けていた。
                                    (朝日新聞7/3)

   「労務管理のずさんな組織」はやがて崩壊する。
    労働者は入れ替えが効くという考えは、大きな誤りである。
   
    労働者を人間として見るか、スペアの効く部品として見るか。
    部品として扱えば、愛社精神は無くなる。
    人間関係を円滑にする潤滑油の役割もなくなってくるから、
    やがて 油の切れた機械は、摩滅し機能を停止してしまう。
   
 元社員からの証言
          残業時間を実際より短く申告。
    残業が月70時間を超えて申告すると始末書を書かされ、残業時間も修正させられるから。
    最も一般的に行われている残業時間の修正である。
   
    「成果が取れていないのに、帰らないよな」と、脅しともとれる上司の発言。
    結局、長時間労働をせざるを得なくなっていく。

    社有車を使用せずに営業。
    パソコンの電源を落として仕事。
    勤務の記録が残らないようにするための窮余の策

    大東十則なるものがつい最近まで、朝礼時に大声で唱和されていた。
    「取り組んだら放すな。目的完遂までは」
    「広告の鬼」と呼ばれた電通の「鬼十則」とほぼ同じ内容だった。
    電通社員の過労自殺が社会問題になった後、「大東十則」も廃止された。

          「無実績で申し訳ありません」
    契約が取れない時期が続くと、月初めの会議で言わされ、
    業績へのプレッシャーから長時間労働をせざるを得なかった。

    最も重い命を最も軽く扱い、人間の尊厳や自尊心まで奪ってしまうような
          労働奴隷を作ることは許されない。
    
          急成長した企業に往々にして現れる、
    改ざん、隠蔽なども「してはいけないこと」なのだが、
    自己保身と企業防衛の姿勢が改められなければ、失った信頼を取り戻すことはできない。

    職業倫理や企業倫理の低下が一連の不祥事を起こす。
    成熟社会の中に巣食う病根を根絶しない限り「住みよい社会」の実現はあり得ない。
        (2018.07.11)          (過酷労働 労働問題等№1)


     
   


   

 

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