小さな命がまた消えた 児童虐待№ 12
虐待の連鎖 母もまた虐待の被害者だった
「のんたん」は泣いて疲れて眠って衰弱した…
母親も育児放棄を経験、蒲田3歳女児死亡
(2020.7.11東京新聞Web版)
全国版で一斉に報道された児童虐待死の事件は、
私には「またしても……」という思いが強かった。
だが、事件の詳細を調べるうち、
事件の裏側にひそむ容疑者の愛情薄く育った環境を思うにつれ、
彼女の哀れさが浮き上がってきて、なんともやりきれない気持ちになった。
事件の概要(7月9日 朝日新聞・要約)
三歳の女児が飢餓と脱水で死亡した事件で、
保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された母親(24)が調べに対し、「当時、居間のドアを
ソファで塞ぎ開けられないようにして外出した」と供述していることが捜査関係者への取
材でわかった。女児が居間から出た形跡は確認されておらず、母親の8日間の外出の間ずっ
と居間に閉じ込められていたとみられる。
母親は事件以前にも、女児を1人自宅に残し、パチンコや飲み会などで出かけていたといい、
放置が常態化していた可能性も考えられる。
「死ぬとは思わなかった」。
3歳児の娘を一週間放置し、衰弱死を招いた若いシングルマザーの供述だ。
重大な過ちを犯したという罪の意識など微塵も感じられない。
なぜ8日も家を空けてしまったのか。
母親の容疑者は勤務先(東京)の居酒屋で知り合った男性に会うため、
長女の稀華(のあ)ちゃんを自宅に残して6月5日から鹿児島県を訪問。
13日に帰宅し、119番通報した。
『うそ』の供述
もっと早く帰るつもりだったが、帰りの便のが取れなかった。
しかし、6月上旬は飛行機にも空席があったことが確認された。
交際相手の男性と泊まったホテルは、自分から宿泊延長手続きをしている。
など、嘘も多い。この手の事件の当事者には、最初は嘘の供述が多いのも特徴である。
警察の取り調べに堪えられなくなり、
真相を語り、反省と後悔は最後にというパターンが多い。
犯した罪の重大さを認識せず、自己保身をする傾向が強い。
ひもじさと母恋しさに八日耐えわずか三歳(みとせ)の生涯閉じる
…… (東京都) 三神玲子 朝日歌壇 2020-8-16
何日も子を置き去りに巣を空ける生き物ありや人間以外に
…… (横浜市) 毛涯明子 朝日歌壇 2020-8-23
朝日歌壇から、二題引用したが、これが一般的な感情だろう。
逮捕された彼女の手首にはリストカットの痕があった。傷は深くなかったものの、
ヤケを起こさないように警視庁は母親を入院させた。
結局、退院と同日の今月7日に彼女は逮捕された。
手首のリストカットの傷跡が、彼女の心の葛藤を物語っている。
一部の週刊誌では「男狂いのあげく……」などと言う興味本位の見出しをつけて、
センセーショナルな記事に仕立て上げた報道もみられるが、この放置死事件を
このような形で処理してしまうと、事件の本質を見失ってしまう。
容疑者・母親も虐待被害者
彼女の少女時代も、哀しく悲惨なものだった。小学校の途中で児童養護施設に預けられ、
高校を卒業するまで彼女はここで暮らす。
彼女の人生に哀しい陰が多い始めたのは、小学2年生のころだったと言われている。
彼女の母は17歳で結婚したが、我が子への傷害容疑で逮捕(25歳の時だった)。
父親(25歳)もまた保護責任者遺棄容疑で逮捕されている。
保護され児童養護施設に措置された彼女は、痩せてあばら骨や腰骨がくっきりと浮き出ており、
殴られた後だろうか体に多数のあざもみられた。
衝撃的なことは、彼女の体に刻まれた多くの切り傷だった。逮捕された母親が躾と称し、娘の体を
包丁で傷つけていたと、当時を知る児相職員は回想している。
児童養護施設で小学校低学年から高校卒業するまで生活
高校卒業すると養護施設を出て就職するが、1年ほどでやめてしまう。
同じ頃に結婚し、2016年11月に長女の稀華ちゃんを出産するのだが、
夫のDVが原因ですぐに離婚。
シングルマザーとなった彼女は、17年7月から蒲田のアパートでふたり暮らしを始め、
そこが悲惨な事件の現場となった。
虐待する両親に育てられ、児童養護施設で生活し、就職、離職、結婚、夫のDVで離婚。
シングルマザーの彼女は娘を溺愛する場面もあったが、パチンコや飲み会など家を空ける時も多
かったようだ。
一番大切なものがなんであるか忘れてしまうように、こころの隙間を埋めるものは、
愛娘への愛情ではなく、楽しく遊び騒げる友だちだった。
頼れるものがほしい。
淋しさを埋めてくれるものがほしい。
ここに、愛娘への愛情乖離が起きる。
侵した罪の重さは、糾弾されてしかるべきものだが、虐待や暴力に喘ぎながら、
こころの隙間を吹いて過ぎる風に、虐待ゃ暴力という悲しみの連鎖を断ち切れなかった
彼女の哀れさを感じる。
(昨日の風 今日の風№112) (2020.8.27記)