雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

被曝労災フクシマの現実

2015-10-31 22:10:00 | 風の行方・原発

 被爆労災フクシマの現実  風の行方(№33)

 前回「被爆労災初の認定」では、認定に関する現実的な問題を考えて見た。

 被爆労災についての社説は東京新聞と朝日新聞が取り上げていたが、

前者は「被ばく労災 廃炉の担い手こそ守れ」というタイトルでフクシマの事故現場で働く作業員こそ、

廃炉の担い手として大切な人材だから、

被爆による労災に関する認定の見直しが必要だと、いささか論調に甘さを感じる。

対する朝日の社説は「被爆労災 救済漏れを出すな」というタイトルで一歩踏み込んだ論調になっている。

 

 東電福島第一原発の事故現場では、過酷な廃炉作業が続いている。

厚労省によると、福島原発事故の作業での労災申請は11件。

認定例は原子炉建屋などの覆い設置などに従事後、急性骨髄性白血病を発症した作業員の例が初めての認定となる。

 

 「何ミリシーベルト以下ならがんは発症しないという境界はない」と専門家は言う。

胃などにがんを発症し元作業員から札幌地裁に提訴された例では、

被曝線量も発症までの期間も基準を満たしていないとして、労災を認められていないが、

高線量の作業は線量計を持たずに作業に従事したという。

 

 年100ミリシーベルトが緊急作業時の被曝限度量である。

線量計の針が振り切れるような危険な場所での作業は、

短時間の作業になるが、線量計を持ち込めば、

この限度被爆量を満たしてしまうので、あえて、線量計を持ち込まないということだろう。

線量計不携帯や鉛カバーをして線量を低く抑えるなど、被曝線量をごまかして働かせる不正が発覚している。

 

 事故現場で廃炉に携わる作業環境は過酷だ。

事故から今年8月末までに約2万1千人が累積で被爆量を5ミリ超えている。        

40年かかるという廃炉作業に向けて、今後ますますこの数字は高くなるだろう。

作業員の労働安全と健康保持のためには、リスク管理と正確な被曝管理が必要だ。   (2015.10.31記)

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白血病・被爆労災初の認定

2015-10-29 11:10:00 | 風の行方・原発

白血病・被爆労災初の認定 (風の行方№32)

 厚生労働省は、東京電力福島第一原発事故後の作業に従事し、

白血病になった元作業員に、労災を認定した。

原発事故に従事する作業員の「被爆と疾病」に一定の因果関係があるとして、

労災が認められたのは初めて。

 

 認定された作業員の男性は「他の作業員が労災認定を受けられるきっかけになればうれしい」と語っているが、

現実にはなかなか難しい。

 

 白血病の場合、放射線業務従事者の労災認定基準では、

年5ミリシーベルト以上の累積被曝量があったことが前提だ。

 東電によると事故後に作業に当たった4万5千人のうち、

5ミリシーベルトを超えた人は8月末で2万人以上いるという。

 

 原発事故の作業が続けば、この人数はさらに増えていくだろう。

しかも、被爆労災認定の基礎資料となる線量管理は現場任せであり、

作業環境は極めて厳しく、業者によっては杜撰(ずさん)である。

 

 報道等によれば、作業員の9割は関連・協力企業(下請け・孫請け・ひ孫請け)にやとわれ、

雇い主が何度も変わる人も珍しくない。

 

「放射線管理手帳」は作業員個々人の被曝線量を記録するものだが、

会社が預かり被曝量を記録することになっているが、

業者によっては、杜撰な管理をしているところもある。

正確に記載すれば、作業員の防御基準である年50ミリシーベルトを超える作業員が増え、

元請け会社の要求を満たす作業員が確保できないという恐ろしい現実もある。

 退職時に手帳を返してもらえない、

返してもらったが作業実績が少なく記録されていたなど問題は多い。

 「労災が受けられるのを知らなかったり、あきらめたりしている」作業員も多いと関係者は言う。

 厚労省では「労災の仕組みを記したチラシ」等で労災申請の啓蒙を計るが、

会社が握りつぶし、作業員に配布されていない例もある。

 

 労災申請には「企業や労組等の協力や支援がないと難しい」が、

現在の原発作業員の雇用システムの孫請け、ひ孫請け的な状況を改善しなければ、

被爆労災の申請制度を血の通った制度にすることはできない。

                 (2015.10.29記)

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正直の反対は? ことの葉散歩道(13)

2015-10-07 17:00:00 | ことの葉散歩道

ことの葉散歩道(13)

正直の反対は?

「正直の反対は嘘をつくことではありません」

  朝日新聞朝刊に連載中の小説

「春に散る」沢木耕太郎著より 

  ボクシングジムへの入門面接のやり取り。

「君は、正直がいいことだと思っていますか」という問いかけについて入門希望者が答える。

「ええ、嘘をつくよりいいと思います」。

これに対して、冒頭の「正直の反対は嘘をつくことではありませんよ」という言葉に繋がってくる。

さらに、面接者の真田(どうやら、ジムのオーナーらしい)は続ける。

 「話と言うのは、省略することができるんです。

省略することは、嘘をつくことではありません。すべてを話すのではなく、必要なことを話せばいいんです」

「相手が聞きたいことは何なのか。大切なのはそれを考えて話すことです」

 相手が何を希望しているのか。

どう答えたらいいのか。

これを見極めるのが大切だ。

その上で、省略すべき点は省略し、要点のみを簡潔に述べることが肝要だ。

とくに、就職試験の面接のように短い限られた時間で自己表現しなければならない時には大切な心構えだ。

しかし、自己表現を前面に押し出しすぎて、我欲が出てしまうと、マイナスとなるから注意が必要だ。

 

 自分を飾ることなく、自己表現することはなかなか難しい。

良く見せたい、良い印象を与えたいなどと、どうしても地の自分に甘いオブラートを掛けてしまいがちである。

そうした傾向は、多少の差こそあれ、誰にでもある傾向だからそれ程悪い事ではない。

ただし、ほどほどにしないと鼻に付いてきて、化けの皮が剥がれ、信用を失うことになる。

 

 同じように、手紙や報告書を書く時も、

「相手が何を要求しているのか、要点は何処にあるのか」をよく理解し、把握することで手紙や報告書の良し悪しが決まってくる。

一番大切なことは、自分が何を言いたいのかをしっかりとらえることである。

その上で、言いたいことの八割を述べることが大切。 

 

 抑制のきいた手紙や文章は、無駄がなく、読後の余韻が心に残る。     (2015.10.6記)

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読書案内「共犯者」松本清張著

2015-10-03 22:43:43 | 読書案内

読書案内「共犯者」松本清張著

 犯罪に関わる人間が多ければ多いほど、露見する確率も高い。共犯者が捕まれば、その自白から事件に関わった者が、芋づる式に捕まる話は小説に使われる題材だ。

 共謀して銀行強盗を企て、大金を手にした共犯者の二人は、二度と会わない、連絡を取らないことを約束して別れた。

5年が過ぎ、内堀は強奪した金を資金に事業に成功する。汚れた金を元手に財を築けば、決してこの富を手放したくない。

貧乏暮らしの惨めな過去には戻りたくないと内堀は思う。

同時に、共犯者の片割れ町田の存在が内堀を不安に陥れる。

いつか町田が自分の前にあらわれるのではないか。

もし町田が零落していれば、いつかは自分を探し当て、過去の強盗事件をネタに脅迫するのではないかと疑心暗鬼にとらわれる。

 

 この短編のテーマの一つにこの「疑心暗鬼」がある。

 

 内堀は一計を案じ、ある男に町田の現状を探らせることにする。探れば探るほど、もっと詳しい町田の現状を知りたくなり、調査は深みにはまっていく。

 不安と焦燥が「疑心暗鬼」の心理を増幅させていき、やがては内堀を自滅へと導いてしまう。

 共犯者・町田の動向を探る必要があったのか。

 不必要な詮索を開始することにより、このことが、やがて自滅への道を歩み始めることになろうとは、内堀は気づかない。

やがて、意外な展開を持って内堀は自滅する……。

 

 下積みの人間が、犯罪によって財を成し、名誉、社会的信頼を得、これを維持するためにさらに犯罪を重ねてしまう。

ミステリーには珍しくないパターンである。

例えば、清張の小説の「ゼロの焦点」「地方紙を買う女」「顔」などがあり、水上勉の「飢餓海峡」などもこれに類する。

 新潮文庫 1980年刊。昭和31 (1956) 年に週刊読売が初出。清張が『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を取って文壇デビューしたのが昭和28年だから、清張初期の短編。本書には表題作のほかに9編の短編が収録されている。(2015.10.3記)

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