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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑮

2007年06月12日 00時33分34秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼とホテル“ヘブン”に行った(といっても、部屋の中には入っていないけど)ことなんて、夢の中の出来事のようだ。
「もし、あの時部屋まで行っていたら」と妄想して、勝手に顔を火照らせているバカみたいな自分がいた。

でも、日が経つうちにその回数は減っていき、またいつも通りの毎日を繰り返していた。


私には子供が2人いる。
娘は4歳5ヶ月。
息子は2歳10ヶ月。

息子はまだ言葉らしい言葉が出ていない。
「男の子は言葉が遅いのよ」
周りのそんな慰めも、限界がきていた。

夫の反対を押し切って、ようやく検査を受けた結果は、私の予想通りのものだった。

『自閉症』

やっぱり、と思った。
今はインターネットという便利なもののおかげで、どんな情報でも得ることができる。
書いてある自閉症児の特徴は、そのままズバリ息子に当てはまっていた。

正式な検査を受けたにもかかわらず、夫は認めようとはしなかった。
「まだ小さいんだからわからない。これからみんなに追いついていくだろう」
そう言い張った。

それでいて、息子の自由奔放さにイライラして怒鳴り散らす夫。
「萌はこのころもっと聞き分けが良かった」
と、娘と比較して更にイライラしている。

ありがたいことに、娘はとても素直な子で、奇異な行動をする弟でも、よく面倒を見てくれる。
金銭的な理由で娘の今年の幼稚園入園は見送ったのだが、そうして正解だった。
娘がいてくれるおかげで本当に助かっている。

でも、そうはいっても、娘もまだ4歳児。
物の取り合い等で弟と激しいバトルをすることもしばしばだ。
息子も常識では考えられない行動を取るので、私も止めるのに忙しい。
うちは毎日本当にうるさい。

夫は別室にいてもそのうるささに耐えられないらしく、度々子供達のところに来ては、怒鳴り散らしていく。
休日は、夫の機嫌を損ねないように、子供達をなるべく静かにさせなければいけないので、平日よりも余計に疲れる。

平日は、うるさいながらも、子供達と幸せな日々を過ごしている。
もちろん、子供達にイライラさせられることも多い。
特に息子の障害が分かってからは、不安が頭の中を埋め尽くすことが多々ある。
でも、2人が仲良く遊んでいる姿を見ている時など、愛おしい気持ちでいっぱいになるのだ。
一緒にいるだけで、幸せを感じることができる。


でも、夫は違うようだ。

外出先で、パニックを起こしてのたうちまわる息子を見て、
「こいつ、本っ当にいらない」
と吐き捨てるように言った夫。

息子は療育センターで紹介された訓練会に通い始めた。
そこでの話を夫にしたら、途端に機嫌が悪くなり、
「オレの前で障害の話をするな」
と、怒鳴られた。
一番理解して欲しい夫にそこまで拒否されるとは・・・。

息子の障害が分かってからは、今までにも増して、夫は子供達の面倒を見なくなった。
家の中の全てのことを私にまかせっきりにした。
それでいて、疲れている私に、夜の生活を求めてくる夫の神経は本当に理解できない。

日中は『母』で、夜は『妻』。
『私』はどこにいってしまうのだろう?


唯一、自分を取り戻せるのが、高校の同級生の掲示板だった。
ここでは、「誰かの奥さん」でもなく、「誰かのママ」でもなく、「自分自身」でいられる。

毎朝、誰よりも早く起きて、ほんの数十分だけ『私』に戻る。

最近の気がかりは、あれ以来、彼の書き込みがまったく見られなくなったことだ。
コメント (2)
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