最低限の家事を終わらせ、早々に公園に出かける。
お弁当持参で、午前中から午後の三時ごろまで公園に居続ける。
まるで公園に住んでいるかのようだ。
三時を過ぎると小学生が遊びだして危ないので、おやつをエサに家に引き上げるのが常となっている。
長男はあいかわらずブランコをこいでいる。
長女は砂場で何かを作っては、私のところに見せに来てくれる。
本当は一緒に遊んで欲しいのだろうに、ブランコのそばから離れられない私に、そのような我が儘もいわず、せっせと運んでくる。
その姿がいじらしくてたまらない。
我が娘ながら、優しいいい子に育ってくれたと思う。
「こんにちは」
遠慮がちに声をかけられた。
振り返ると階下の奥さんが立っていた。
「こんにちは、その後、音、どうですか?」
恐る恐る聞いてみると、
「ええ、前よりは、まあ・・・」
と、言葉を濁された。
まだ、ウルサイということか。
「すみません・・・」
頭を下げた私に、
「あの、息子さんのこと聞きました」
意を決したように奥さんに切り出された。
暴れたりしてるから、うるさかったんですね?
そうなると集合住宅に住むのって限界あるんじゃないんですか?
実は、うちの息子、中学受験を控えているんです。
やはり大きな音がすると集中できないみたいで・・・。
やっぱりね、一生住むつもりで買ったマンションなんでね、気持ちよく住みたいんです。
正直いって、そちらの息子さんに障害があるとかないとかってうちには関係ないんですよ。
ただ、集合住宅に住む上でのルールを守っていただきたいんです。
「すみません・・・」
奥さんの言葉にただただ頭を下げるだけだった。
奥さんの言葉は正論だ。
弁解の余地もない。
「ママ!祐介行っちゃうよ!」
娘の声に我に返り、あわてて奥さんに頭を下げて、息子を追いかける。
追いかけながら、涙が出てきた。
私だって、障害のある子を産むって分かっていれば、マンションの一階か、がんばって一戸建てを買っていたに違いない。
だって、今まで平凡な人生を送ってきた私が、まさか『障害児の母』になるなんて、思いもしなかったもの。
まさか、私が、階下の人にそんな苦情を言われる日がくるなんて、思ってもいなかった。
そんな思いも知らず、長男はさっさとマンションに入っていく。
おやつの時間だからだろう。
手を洗わせておやつを出す。
子供達が静かにおやつを食べている間に、夕飯の準備をする。
下ごしらえは前日の晩にしているので、いつもはそんなに時間はかからないのだが、
今日は色々考えてしまって、手順が悪く、子供達がおやつを食べ終わっても、まだ準備が終わらなかった。
息子が自分で椅子から飛び降りて、クルクル回りはじめた。
「ゆ・・・」
「祐介!」
私が怒るよりも早く、娘が鋭く叫んだ。
「ここでクルクルしちゃダメでしょ!こっちにきなさい!」
弟を羽交い締めにして、マットレスのところに連れて行こうとする長女。
その顔は・・・いつものおっとりとした優しい顔からは遠くかけ離れ・・・まるで鬼のようだった。
「ダメっていってるでしょ!祐介!いい加減にしなさい!!」
目をつり上げて怒鳴る長女。
私、いつもこんな顔して怒ってるんだ・・・。
長女にこんな顔をさせたくなかった。
「アーアーアーアーアー!!!」
自由を奪われた息子がパニックを起こして絶叫する。
「祐介!静かにしなさい!・・・痛っ!」
長女が弟の口をふさごうとし、その手をかみつかれて悲鳴を上げた。
「祐介!」
反射的に・・・私は、長男の頬を叩いていた。
子供に手を挙げたのはこれが初めてだった。
長男はビックリしたのか、一瞬声を止めた。
でも、すぐに床に四つんばいになり、今度は自らの頭を床にガンガンと激しくぶつけはじめた。
「祐介、やめて、祐介!」
後のことはよく覚えていない。
長女のことを抱きしめながら、長男の頭の下に手を入れて、なんとか下に響かないように気をつけていた気がする。
こんな時でも、騒音対策の方を優先してしまう自分のことが、本当に嫌になった。
お弁当持参で、午前中から午後の三時ごろまで公園に居続ける。
まるで公園に住んでいるかのようだ。
三時を過ぎると小学生が遊びだして危ないので、おやつをエサに家に引き上げるのが常となっている。
長男はあいかわらずブランコをこいでいる。
長女は砂場で何かを作っては、私のところに見せに来てくれる。
本当は一緒に遊んで欲しいのだろうに、ブランコのそばから離れられない私に、そのような我が儘もいわず、せっせと運んでくる。
その姿がいじらしくてたまらない。
我が娘ながら、優しいいい子に育ってくれたと思う。
「こんにちは」
遠慮がちに声をかけられた。
振り返ると階下の奥さんが立っていた。
「こんにちは、その後、音、どうですか?」
恐る恐る聞いてみると、
「ええ、前よりは、まあ・・・」
と、言葉を濁された。
まだ、ウルサイということか。
「すみません・・・」
頭を下げた私に、
「あの、息子さんのこと聞きました」
意を決したように奥さんに切り出された。
暴れたりしてるから、うるさかったんですね?
そうなると集合住宅に住むのって限界あるんじゃないんですか?
実は、うちの息子、中学受験を控えているんです。
やはり大きな音がすると集中できないみたいで・・・。
やっぱりね、一生住むつもりで買ったマンションなんでね、気持ちよく住みたいんです。
正直いって、そちらの息子さんに障害があるとかないとかってうちには関係ないんですよ。
ただ、集合住宅に住む上でのルールを守っていただきたいんです。
「すみません・・・」
奥さんの言葉にただただ頭を下げるだけだった。
奥さんの言葉は正論だ。
弁解の余地もない。
「ママ!祐介行っちゃうよ!」
娘の声に我に返り、あわてて奥さんに頭を下げて、息子を追いかける。
追いかけながら、涙が出てきた。
私だって、障害のある子を産むって分かっていれば、マンションの一階か、がんばって一戸建てを買っていたに違いない。
だって、今まで平凡な人生を送ってきた私が、まさか『障害児の母』になるなんて、思いもしなかったもの。
まさか、私が、階下の人にそんな苦情を言われる日がくるなんて、思ってもいなかった。
そんな思いも知らず、長男はさっさとマンションに入っていく。
おやつの時間だからだろう。
手を洗わせておやつを出す。
子供達が静かにおやつを食べている間に、夕飯の準備をする。
下ごしらえは前日の晩にしているので、いつもはそんなに時間はかからないのだが、
今日は色々考えてしまって、手順が悪く、子供達がおやつを食べ終わっても、まだ準備が終わらなかった。
息子が自分で椅子から飛び降りて、クルクル回りはじめた。
「ゆ・・・」
「祐介!」
私が怒るよりも早く、娘が鋭く叫んだ。
「ここでクルクルしちゃダメでしょ!こっちにきなさい!」
弟を羽交い締めにして、マットレスのところに連れて行こうとする長女。
その顔は・・・いつものおっとりとした優しい顔からは遠くかけ離れ・・・まるで鬼のようだった。
「ダメっていってるでしょ!祐介!いい加減にしなさい!!」
目をつり上げて怒鳴る長女。
私、いつもこんな顔して怒ってるんだ・・・。
長女にこんな顔をさせたくなかった。
「アーアーアーアーアー!!!」
自由を奪われた息子がパニックを起こして絶叫する。
「祐介!静かにしなさい!・・・痛っ!」
長女が弟の口をふさごうとし、その手をかみつかれて悲鳴を上げた。
「祐介!」
反射的に・・・私は、長男の頬を叩いていた。
子供に手を挙げたのはこれが初めてだった。
長男はビックリしたのか、一瞬声を止めた。
でも、すぐに床に四つんばいになり、今度は自らの頭を床にガンガンと激しくぶつけはじめた。
「祐介、やめて、祐介!」
後のことはよく覚えていない。
長女のことを抱きしめながら、長男の頭の下に手を入れて、なんとか下に響かないように気をつけていた気がする。
こんな時でも、騒音対策の方を優先してしまう自分のことが、本当に嫌になった。