創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶⑩

2007年06月06日 10時09分19秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
“ヘブン”までの道のり、私たちはわざとらしいほどはしゃいで話をしていた。

でも、彼と2人で電車に乗ったり、歩いたりしているところを夫に見つかったら・・・
と思うと恐ろしくて体が固まりそうになる。

数年前、飲み会に彼が来た、と夫に話した途端、
周りにあった本やクッションを壁に投げつけられた。
夫は、私や子供たちに暴力を振るったことは一度もないが、
すぐに物に当たったり、怒鳴ったりするのだ。
普段は優しいのに、激昂すると何をしでかすかわからない。

知らず知らずのうちに、夫の機嫌を損ねないよう、
気を使いながら生活している私がいた。

でも、子供に囲まれて過ごす幸せな毎日だと思う。
夫が働いてくれているから、何不自由なく生活できている。
私が少し我慢すれば、この幸せは続くのだ。

少し、我慢すれば。


「こっちだっけ?」

彼に問われ、我に返る。
そう。この道を曲がれば“ヘブン”に着く。

“ヘブン”は空いていないだろう。
今まで空いていたことなんてないんだ。

でも、あれから何年も経っている。
それに、平日の昼間に来るのは初めてだ。
もしかしたら・・・空いてる?

私はいったいどちらを願っているのだろう。

今まで通り、平穏で幸せで、でも自分を押し殺した毎日?
それとも・・・。

「ホントに入る?」
彼が振り返る。
「ま、空いてないだろうけどね」
ハハハと彼も笑う。

彼自身もそうだ。
結婚を控えている彼。
私とのことを婚約者に知られたら・・・?

答えを出せないまま、“ヘブン”のドアが開いた。
どうせ、空いていないんだ。
それが私たちの運命。

以前と変わらない豪華なロビー。
奥の方に、部屋の写真のパネルが置いてある。
電気がついているパネルの部屋が空いているということだ。

20部屋ある部屋の写真は・・・
全て真っ暗だった。

「・・・空いてないね」

顔を見合わせて笑ってしまう。
お互いホッとしている。

やっぱり、これでいいんだ。

「これからどうする?三時まで時間・・・」

言いかけて、息を飲んだ。

今、中央にある写真のパネルが・・・点灯した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする