長男は訓練会でのリトミックや紙芝居の時間は、ジッとしていられず逃げだそうするので、いつも羽交い締めにしていなければならない。
暴れて先生のことをぶってしまうこともしばしばだ。
でも、外遊びの際に、公園のブランコで遊べるようになった。
ブランコばかりに固執して、ずっとこぎ続けるあたりは、やはり自閉症ならではだ。
それでも、道具を使って遊べるようになったことが、一つの成長と見られて、とても嬉しかった。
その訓練会の帰り道、マンション近くの公園前を通り過ぎたとき、
突然、長男が私の手を振りきって公園の中に入っていってしまった。
先を歩いていた長女を慌てて呼び止め、公園に行くように伝えたりした、ほんの数秒目を離した隙のことだった。
「きゃああああ!」
女の子の悲鳴が聞こえてきた。
驚いて振り返ると・・・
長男が、ブランコに乗っていた女の子を突き飛ばしてブランコからどかしたらしい風景が目に入ってきた。
「大丈夫?!」
慌てて女の子に駆け寄る。
同じマンションに住む美香ちゃんだった。
同時に美香ちゃんのママが美香ちゃんを抱き上げた。
「すみませんっ。大丈夫ですか?!」
「うん・・・」
美香ちゃんは長男と二ヶ月違い。
同じ頃の出産だったので、時々話をしたことがある。
「ちょっと、びっくりしちゃった。いきなりだったから」
「すみません・・・」
美香ちゃんがわんわん泣いているというのに、長男はこちらを見向きもしないでブランコをこいでいる。
「大丈夫、美香ちゃん」
すっと、女性がやってきて脇から美香ちゃんをのぞき込んだ。
確かこの人は、自治会の役員をしていた杉田さん・・・。
小学生くらいの子供がいたはずだ。
「余計なことかもしれないけどね」
杉田さんが私を振り返り、作り笑顔で言った。
「祐介君って全然公園で遊んでないわよね? だから順番とか分からないんじゃないのかしら?」
「そうですね・・・すみません・・・」
頭を下げるしかなかった。
いつもそうだった。
祐介の夜泣きがひどいのは、昼間たくさん遊んであげていないから。
祐介がお喋りができないのは、語りかけが少ないから。
祐介がいまだにオムツをしているのは、トイレトレーニングをさぼっているから。
祐介が大人しくしていられないのは、甘やかせて育てているから。
私がどういう風に子供達に接しているのかを見たこともない人が、子供の状態をみただけで色々とお説教してくる。
いつもいつも、責められるのは母親。
子供の成長状態って、母親の通信簿みたいだ。
「あのね、こんなこと言って気を悪くされるかもしれないけど」
美香ちゃんのママが、遠慮がちに口を挟んできた。
美香ちゃんは泣き声はもうおさまっていたが、ママの胸にぎゅっと顔を埋めてジッとしている。
「知り合いの子でね、祐介君に似てる子がいるの。何て言うのかな・・・人に感心がないっていうのかな。ほら、今も祐介君、美香が泣いてることに見向きもしないでしょ? もう3歳なんだから、普通だったら自分が泣かせたこと気にしてもよさそうなものじゃない?」
「ええ・・・」
「それに、言葉もまだ出てないんでしょう?」
「・・・・・・」
「スーパーとかで見かけても、いつも祐介君、ママから離れて走り回ってたりするじゃない? あの感じもその子と似てるのよ」
祐介は無表情にブランコをこぎ続けている。
「で、その子ね、検査をしたら・・・障害が見つかったのよ」
「え、そうなの? まあ!」
杉田さんが芝居じみた声をあげた。
「今って結構多いわよね。うちの子のクラスにもね、こっちがみてると、明らかに何かしら障害があるって感じする子がいるのよ。でも親は認めてなくて検査も受けてないらしいの」
「あ~そういう親って多いらしいですよね~」
美香ちゃんママもなんだか芝居じみている。
「でも、こっちにしてみればね、その子が暴れたりしたせいで授業が遅れることもあるし、うちの子も殴られそうになったらしいし、ちゃんと行くとこ行って、治してもらったほうが助かるのよね」
杉田さんは心配そうな表情を作って、こちらを向いた。
「ね、嫌かもしれないけど、祐介君も調べてみたら? 早めに分かったほうがいいっていうわよ。こういうのも、親の責任のうちだと思うわよ」
「・・・・・・」
何だか、テレビドラマをみているような感じがする。
2人の声がブラウン管越しに聞こえてくる。
そして、私自身の声も、ブラウン管越しに発せられる。
「もう、調べたんです」
「え?!」
2人が同じ表情をして私をみた。
驚きの中に期待を含ませている顔。好奇心いっぱいの顔。
ふっと私の中のもう一人の私が、冷笑を浮かべた。
ええ、ええ。お二人の期待に添った答えを今から言ってあげますよ。
私はちょっと暗めの表情を作って、ポツリと言った。
「祐介、自閉症なんです」
暴れて先生のことをぶってしまうこともしばしばだ。
でも、外遊びの際に、公園のブランコで遊べるようになった。
ブランコばかりに固執して、ずっとこぎ続けるあたりは、やはり自閉症ならではだ。
それでも、道具を使って遊べるようになったことが、一つの成長と見られて、とても嬉しかった。
その訓練会の帰り道、マンション近くの公園前を通り過ぎたとき、
突然、長男が私の手を振りきって公園の中に入っていってしまった。
先を歩いていた長女を慌てて呼び止め、公園に行くように伝えたりした、ほんの数秒目を離した隙のことだった。
「きゃああああ!」
女の子の悲鳴が聞こえてきた。
驚いて振り返ると・・・
長男が、ブランコに乗っていた女の子を突き飛ばしてブランコからどかしたらしい風景が目に入ってきた。
「大丈夫?!」
慌てて女の子に駆け寄る。
同じマンションに住む美香ちゃんだった。
同時に美香ちゃんのママが美香ちゃんを抱き上げた。
「すみませんっ。大丈夫ですか?!」
「うん・・・」
美香ちゃんは長男と二ヶ月違い。
同じ頃の出産だったので、時々話をしたことがある。
「ちょっと、びっくりしちゃった。いきなりだったから」
「すみません・・・」
美香ちゃんがわんわん泣いているというのに、長男はこちらを見向きもしないでブランコをこいでいる。
「大丈夫、美香ちゃん」
すっと、女性がやってきて脇から美香ちゃんをのぞき込んだ。
確かこの人は、自治会の役員をしていた杉田さん・・・。
小学生くらいの子供がいたはずだ。
「余計なことかもしれないけどね」
杉田さんが私を振り返り、作り笑顔で言った。
「祐介君って全然公園で遊んでないわよね? だから順番とか分からないんじゃないのかしら?」
「そうですね・・・すみません・・・」
頭を下げるしかなかった。
いつもそうだった。
祐介の夜泣きがひどいのは、昼間たくさん遊んであげていないから。
祐介がお喋りができないのは、語りかけが少ないから。
祐介がいまだにオムツをしているのは、トイレトレーニングをさぼっているから。
祐介が大人しくしていられないのは、甘やかせて育てているから。
私がどういう風に子供達に接しているのかを見たこともない人が、子供の状態をみただけで色々とお説教してくる。
いつもいつも、責められるのは母親。
子供の成長状態って、母親の通信簿みたいだ。
「あのね、こんなこと言って気を悪くされるかもしれないけど」
美香ちゃんのママが、遠慮がちに口を挟んできた。
美香ちゃんは泣き声はもうおさまっていたが、ママの胸にぎゅっと顔を埋めてジッとしている。
「知り合いの子でね、祐介君に似てる子がいるの。何て言うのかな・・・人に感心がないっていうのかな。ほら、今も祐介君、美香が泣いてることに見向きもしないでしょ? もう3歳なんだから、普通だったら自分が泣かせたこと気にしてもよさそうなものじゃない?」
「ええ・・・」
「それに、言葉もまだ出てないんでしょう?」
「・・・・・・」
「スーパーとかで見かけても、いつも祐介君、ママから離れて走り回ってたりするじゃない? あの感じもその子と似てるのよ」
祐介は無表情にブランコをこぎ続けている。
「で、その子ね、検査をしたら・・・障害が見つかったのよ」
「え、そうなの? まあ!」
杉田さんが芝居じみた声をあげた。
「今って結構多いわよね。うちの子のクラスにもね、こっちがみてると、明らかに何かしら障害があるって感じする子がいるのよ。でも親は認めてなくて検査も受けてないらしいの」
「あ~そういう親って多いらしいですよね~」
美香ちゃんママもなんだか芝居じみている。
「でも、こっちにしてみればね、その子が暴れたりしたせいで授業が遅れることもあるし、うちの子も殴られそうになったらしいし、ちゃんと行くとこ行って、治してもらったほうが助かるのよね」
杉田さんは心配そうな表情を作って、こちらを向いた。
「ね、嫌かもしれないけど、祐介君も調べてみたら? 早めに分かったほうがいいっていうわよ。こういうのも、親の責任のうちだと思うわよ」
「・・・・・・」
何だか、テレビドラマをみているような感じがする。
2人の声がブラウン管越しに聞こえてくる。
そして、私自身の声も、ブラウン管越しに発せられる。
「もう、調べたんです」
「え?!」
2人が同じ表情をして私をみた。
驚きの中に期待を含ませている顔。好奇心いっぱいの顔。
ふっと私の中のもう一人の私が、冷笑を浮かべた。
ええ、ええ。お二人の期待に添った答えを今から言ってあげますよ。
私はちょっと暗めの表情を作って、ポツリと言った。
「祐介、自閉症なんです」