創作小説屋

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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑪

2007年06月07日 09時45分03秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼は私のことをどう思っているのだろう?
男性にありがちなセンチメンタル?
それとも同情。
それとも・・・贖罪のつもり?

私は?

愛情、というのは語弊がある。
確かに好きだとは思うけれど、
それが今の彼のことをなのか、8年前の彼のことをなのか・・・。
たぶん・・・後者なのだろう。

だから今、一番ふさわしい言葉は“欲情”なのかもしれない。

「どうする?」

背の高い彼を見上げると、彼はパネルを向いたまま、
スッと私の手を握った。

「うん・・・」

一歩、進み出そうとした、その時。

「あ!空いてるじゃーん!」
「ラッキー!」

けたたましい声と共に若いカップルが入ってきた。
男の方が目の前に走りこんできて、空いていた部屋のボタンを押す。
唯一の電気がパネルから消えた。

「もしかしてこの人達、押そうとしてたんじゃないの?」
「いーんだよ。早いもん勝ちだよ」

笑いながらカップルがフロントへと歩いていく。
その大きな声がエレベーターに消えるのを見送ってから、

「帰ろうか?」

彼は振り向き、握っていた手を離した。
コメント (4)
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