創作小説屋

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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑧

2007年06月04日 13時12分06秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼は細身なのに、あいかわらずよく食べた。
そして、食後にいつものようにタバコを吸った。

彼がタバコを吸っている口元を見るのが好きだった。
細長い指。
薄い唇。
少し口を細めてはき出される煙。

色気がある、というのだろうか。
口元をみているだけで動悸が激しくなってしまう。

彼はキスが上手だった。

キスにも人柄って出るんだろうか。
夫のキスは、いつだって自分勝手だ。
無理矢理こじ開けて自分勝手に進入してくる。
自分の欲望を満たすことしか考えていない。

彼は違った。
触れるだけのキス。
優しくついばむようなキス。
それだけでも電流が走った。
その上、深いキスといったら、腰が砕けて立っていられなくなるほど・・・。

「何?」

ボーっと口元に見とれていたら、彼に笑いながら聞かれた。
慌てて我に返る。

「いや、変わらないなあ・・・と思って」
「そっちだって変わってないじゃん」
「変わったよ!何しろ二回出産してるんだからね。下っ腹の出っ張りが・・・」
「え?元々出てたでしょ?」
「失礼な!!」

軽くグーでパンチをくれてやる。
こうやって軽口がたたけるなんて、ちょっと嬉しい。

「それに2人とも母乳だったから、吸い尽くされて胸も小さく・・・」
「え!あれ以上小さくなれるの?!」
「本気で殴るよ!!」
「うわっ、ゴ、ゴメンっ!」

ひとしきり彼はケタケタと笑って、そして。
ふいに真面目な顔に戻った。

「見てみたいな。変わったところ」
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