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ある平凡な主婦の、少しの追憶(21)

2007年06月19日 11時39分16秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
その一言を言った途端、2人はアタフタと色々言っていた。

「でも、祐介君、普通っぽいからわからないわよね」
「大変だと思うけど、がんばってね」
「早めに分かってよかったじゃない。こんなに早く分かったなら早く治るんじゃない?」

等々等・・・。
自閉症は治らないんですよ、なんて訂正する気にもならなかった。
申し訳なさそうに、
「今後またご迷惑おかけすることもあるかと思うんですが、よろしくお願いします」
と、頭を下げるだけ下げておいた。

いつかは言わなくてはいけない日がくるとは思っていたけど、こんなに早くその日がくるとは思ってもいなかった。
でも、今後、長男を公園で遊ばせる際にトラブルが起きることを考えると、言っておいて正解だと思う。

長男は私の鬱々とした心なんかおかまいなしに、まだブランコをこいでいる。
きっと短くてもあと30分はこぎ続けるだろう・・・。


この日、夫は出先から直帰だったため、帰りが早かった。
玄関のドアが思い切り閉められたところを見ると、機嫌は最高潮に悪いようだった。

「おかえりなさい。・・・どうかした?」

聞いてみると、夫は真っ赤な顔をして睨んできた。

「どうかした、じゃないよ。祐介のこと、隣の奥さんに話したのか?」
「・・・・・・」

隣の奥さんには話していない。
話していないけど、もう伝わったということか。

「今、エレベーターで一緒になって『祐介君、大変ですね。私達にできることがあったら言ってくださいね』なんて言われたぞ!」
「そう・・・」

へえ・・・隣の奥さんいい人だなあ。

なんて呑気に思ったが、夫はそうではないらしい。
持っていたカバンを床に勢いよく投げつけた。

「なんで言ったんだよ!まだ小さいんだから、自閉症かどうかなんて分からないだろう!」
「・・・・・・は?」

この期におよんで何を言ってるんだ?

「祐介は自閉症だよ。正式な検査をしてそういわれたんだよ。知能だってまだ一歳代・・・」
「馬鹿なこと言うなよ!」

ドンッと壁を殴りつける夫。

「なんでオレの子供が自閉症なんだよ!」
「なんでって・・・」
「だいたい、なんで近所の人間に言うんだよ! みっともない!」

ドンドンドンッと壁が鳴る。
子供達が何事か、と子供部屋から出てきた。

長女は夫のただならぬ様子を見て、怯えて私にしがみついてきた。

長男は・・・ケタケタと笑いながら、夫の真似をして壁を叩きはじめる。

「祐介!やめろ!」

夫が自分のことは棚にあげて長男を静止した。
長男はやめない。むしろ、楽しげに両手を使ってリズムカルに叩いている。

ぼんやりと、この子結構リズム感いいかもな、なんて呑気に思った。

夫は口をパクパクとさせて、その様子を見ていたが、
やがて大きく大きく息を吐き出し、

「メシいらない。外で食ってくる」

背中でそういって、玄関を開けた。
パタンっと静かに玄関はしまった。

長男はまだ、壁を叩き続けている。
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