創作小説屋

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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑱

2007年06月15日 09時43分05秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
電話の内容は、年末に行う予定になっている、彼の結婚披露パーティーのことだった。
同級生の一部で幹事をやることになっているのだ。
私は女子の代表の一人になっていた。
会場のことで、急ぎで確認したいことがあったのだが、
幹事が一人もつかまらず、私のところに電話してきたらしい。

「結婚おめでとう」

言うと、彼は照れたように「どうも」とだけ言った。

電話の後ろでは、カチャカチャと食器を洗うような音がしていた。
奥さんが洗っているのだろう。

何だか、耐えられなかった。

「もうすぐ夫が帰ってくるから」

そういって、早々に用件に答えて電話を切った。

胸が、痛い・・・。


そのうち本当に夫が帰ってきた。
夫はたいてい、帰宅直後は機嫌が悪い。
すぐに食事の用意をする。

ご飯を食べ終わって、機嫌がよくなってきたところを見計らって、今日のことを報告した。
階下の人から苦情の電話があった件だ。

当然ながら、また機嫌が悪くなる。
でも言わずにはいられなかった。

「もう少しお子さんを公園で遊ばせたらって言われたよ」
「ふーん」
「遊ばせられるものなら遊ばせてあげたいんだけど、祐介がね・・・」
「・・・ああ」
「なんか悲しくなっちゃったよ。わたしだって遊ばせてあげたいのに、そんなこと言われるなんて・・・」

そこまで言うと、夫が鼻で笑った。

「下の階の人は、祐介のこと知らないんだからしょうがないだろ」

そして「風呂入ってくる」と言い捨てて部屋を出ていってしまった。

「・・・しょうがないだろって・・・」

涙が出そうになる。
この悲しさが、夫には分からないのだろうか?
私が今日一日、どれだけ気を使って生活していたのか、分からない?
これから毎日、こんな風に気を使って生活しなくちゃいけないのかと思うと憂鬱で憂鬱でたまらない、この気持ちも分からないの?

「・・・・・・あ」

気分を切り替えようと、食器の片付けをするため台所に行きかけて、携帯にメールが入っていることに気が付いた。

彼からだった。

短い文章が入っていた。

『なんか元気なかったけど大丈夫?心配になったのでメールしてみた』

「・・・・・・」

見た途端、こらえていた涙がどっと出てきた。

そして、急に、思い出した。

私、彼のそういうところが大好きだったんだって。
声を聞いただけで、心を分かってくれて、寄り添ってくれるところ。
どうして分かるんだろう?っていつも不思議だった。
優しい、優しい、優しい人だった。
今でも変わっていないんだ・・・。

嬉しいような、切ないような、複雑な気持ちでいっぱいになった。
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