創作小説屋

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ある平凡な主婦の、少しの追憶(37)

2007年07月16日 18時01分52秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「じゃ、帰るね」

財布と携帯を手に取って、靴を履く。
本当に身軽に来てしまったものだ。

「ちょっと待って」

彼が煙草を消してこちらに歩いてきた。
Gパンだけ履いている。

「一つ、お願い」
「何?」

やっぱり、今日のことはなかったことに・・・?

身構えると、両手を差し出された。

「抱きしめてもいい?」
「え?」
「10秒でいいから」

肯くよりも早く、ギュッとかき抱かれた。

彼の素肌の胸に頬を押しつける。
細いわりに筋肉のついた胸。
ざらざらとした背中。
固く引き締まった腰。

ああ・・・なんて居心地がいいんだろう。
このまま時が止まればいいのに。

「・・・・・・」

また、フラッシュバックが起こる。
そう、「このまま時がとまればいい」と、8年前も思った。
ここで手を離したら、彼は彼女の元に行ってしまう。
このまま時が止まってくれれば、彼はずっと私のそばに・・・。

「・・・ハチ、キュウ、ジュウ!」

記憶を追い払うように、大きな声でカウントして、

「じゃ、北海道まで気をつけて帰ってね」

彼の胸を押しやり、下を向いたままドアを開けた。
彼の顔を見ることは出来なかった。
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