創作小説屋

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ある平凡な主婦の、少しの追憶(38)

2007年07月17日 10時29分41秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
外はもう、明るくなり始めていた。
涼しい風が頬に心地よく当たる。

タクシーはすぐにつかまった。
白い座席に埋もれながら、大きく息をつく。

まさか、私が、こんな大胆なことをしてしまうなんて。

でも不思議と罪悪感はなかった。
これは、誰かの奥さんでもなく、誰かのママでもなく、
今現在の自分とは別の自分がしたことだ、と思えていた。

どうせそうなのだ。
家に帰ったら、いつもと変わらず「奥さん」になり「ママ」になる。
「私」なんて家にはいないのだ。

だからせめて、家の玄関を開けるまでは「私」でいたい。

タクシーは信号にほとんどひっかかることもなく、明け方の町を走っていく。

ふと、前にもこんなことがあった、と思い出す。

こうしてタクシーの窓の外を見ながら、涙を流し続けてたのは、いつのことだっただろう・・・。
あれは・・・彼に「好きな子ができたから別れて欲しい」と言われた日だったかな・・・。

急に別れたころの記憶が押し寄せてきた。
今までは、楽しい思い出しか開くことのなかった私の心に、刃のように突き刺さる記憶・・・。

別れたくない!

彼に詰め寄った私の悲鳴。
彼の困り果てた顔。
でも、自分の意志は変わらない、と首を振り続けた彼。

心臓のあたりが冷たくなった。

でも、待って。
と今の自分に声をかける。

今日、あの人は私のことをまだ好きだって言ってくれた。
激しく抱いてくれた。

・・・・・・だから?

また、心臓が凍る。

そんなことを言っても、結局、あの時と同じ。
彼は他の女のところに帰っていくのだ。

苦しい。胸が苦しい・・・。

胸をかき抱いたのと同時に、携帯が鳴った。
メールだった。
彼からのメール。

緊張しながら、開く。

そして・・・・・・涙が溢れてきた。
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