創作小説屋

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ある平凡な主婦の、少しの追憶(29)

2007年07月04日 22時30分33秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
たぶん、時間にしたら5秒くらいの出来事。
でも、その瞬間、8年前にタイムスリップしてた。
鮮明に蘇る、彼のキスの感触・・・。

でも。

「ご、ごめん」

自分でしたことに驚いたように、彼が慌てて離れた。

私も我に返る。
あれからもう8年経ったのだ、と。
今の私は、あの時の私ではないんだと・・・。

「さっき、一人で飲みながら、8年前のこと考えてたから、つい・・・」
「8年前のこと?」

彼が苦笑しながら、また煙草に火をつけた。

「うん。色々ね・・・」

軽く首を振って、その先は誤魔化された。
ちいさな赤い光が、薄暗い公園の中を蛍のように舞う。

「大丈夫になったの?」

煙草を灰皿に入れながらこちらを見られ、ハッとした。

そうだった。私スッピンだったんだっ!

慌てて、再び両頬を手で覆い、下を向く。

「大丈夫って?」
「ほら、こないだの電話の時、元気なかったから」
「ああ、うん・・・・・・」

大丈夫、ではない。

でも。

階下からの苦情、なんて所帯じみた話はしたくない。
夫とのすれ違い、なんて愚痴だらけの話はもっとしたくない。
息子の障害のこと、なんて心配かけるような話は絶対にしたくない。

「・・・うん。大丈夫」
「全然大丈夫じゃないでしょ」

彼の優しい声に、崩れそうになる。

「オレでよかったら、話きくよ?」

くらくらする。
これ以上、ここにいたらダメだ。

「私・・・帰るね」

コメント (2)
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