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ある平凡な主婦の、少しの追憶(36)

2007年07月15日 12時39分58秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「そういえば、そうだった・・・」

封印していた辛い記憶・・・。
あの時の私は、本当に・・・。

首を振って、記憶を押しやり、急いで化粧水をつける。
部屋に戻ると、彼はベッドに腰掛けて煙草を吸っているところだった。
薄暗い部屋の中に、赤い光がともっている。

「帰るの?」
「うん。ごめん。起こしちゃった?まだ寝てれば?」
「ん~・・・そうしようかなあ・・・。タクシーで帰るの?」
「うん。大通り歩いてればつかまるかなと思って」

意識した普通の会話。
そう、さっきのことは、夢の中のこと・・・。

「あのさ・・・」

彼が言い淀みながら、煙草を灰皿に押しつけた。

「何?」

先のセリフを想像して身構える。

今日のことは無かったことにしてくれ、とか言うの?

そうかもしれない。
だって、彼は今日、北海道に帰るのだ。
奥さんの待っている北海道に、帰るのだ。

でも、想像外のことを言われた。

「あいかわらず、上手いね」
「え?」

何が?

「オレ、はじめにさっさといかされちゃったもんな~。
中坊みたいで恥ずかし~」

何を言うのかと思えば・・・さっきの行為のことか。

「なーに言ってんの。そちらこそ黄金の左手中指ご健在で」
「いやいやいや・・・」
「奥様が羨ましいですわ。さぞかし毎日夜が楽しみでしょうね」

我ながら自虐的、と思いながら、オホホと笑って見せると、

「いや、月に一度あるかないかだよ」

大真面目に彼が答えた。

「それに、こんな濃いエッチしたこと一度もないし」
「・・・何で?」
「うーん・・・、あんまする気にならないんだよね」
「ふーん・・・」

何だか・・・とてつもなく嬉しいんですけど。

「そちらこそ、旦那さんは幸せだね~。こんな良い思いさせてもらえるんだから」
「・・・旦那にはここまではしないよ」

しかも、いつも嫌々だし、私。

「何で?」
「する気にならないから」
「ふーん・・・」

カチリ、と再び煙草に火がともる。
彼が今、どんな表情なのか、よく見えない。
コメント
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