創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(48/50)

2007年07月30日 09時27分46秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私が道路についた時に、目に入ってきたのは・・・

長男を抱えた夫。
その横に立っている長女。
白い割烹着姿のおじさん。

・・・おじさん?

はて、と思ったら・・・
その小さなトラックはお豆腐屋さんだった。
実家に来てからは、毎回お豆腐をこのトラックから買っているので、
長男は、トラックが目に入った瞬間に、走り出してしまったのだろう。

「大丈夫?」

私が呆然としている夫に近づいて行くと、
長男は夫の腕から抜け出して、私の元にやってきた。

そして・・・

「トーフ」

と、トラックを指さしたのだ。

「・・・・・・・・・え?」

我が耳を疑った。

トーフ?

「祐介・・・今、何て・・・?」

「トーフ」

しっかりとトラックを指さした長男。
言葉らしい言葉を言ったのは生まれて初めてだった。
指さしをしたのも初めてだった。

「祐介・・・」

夫も私も驚きのあまり声も出なかった。

気がつかないうちに、両方の目から、涙が溢れでていた。
振り返ると、夫の目にも光るものがあった。

「えーーと、毎度どうもです。木綿?絹?どっちがいい?僕?」

困ったように豆腐屋のおじさんが長男に話しかけている。

「絹。絹だよね?ママ?」

長女が代わりに答えてくれた。

「何丁お必要ですか?」

泣いている私に話しかけていいものだろうか、
と躊躇しながらおじさんが聞いてきたが、
声になりそうもなかった。

すると夫が、財布を出しながら言い切った。

「10丁ください。10丁。今日は豆腐でお祝いです」
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