スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第三部定理二七の意味&ドゥサンティ

2020-03-31 19:07:26 | 哲学
 僕たちにとってどういった人間が羨望の対象となりやすいのかということを考えるときには,羨望が感情の模倣imitatio affectuumの一種として生じるということを踏まえておく必要があります。
                                   
 第三部定理二七は,感情の模倣が生じるシステムを一般的な仕方で説明しています。そしてここでは同類similisという語句が使われていますが,この同類というのは実は様ざまな意味を含み得るのです。
 この定理Propositioが一般的に感情の模倣を説明し得るのは,人間は人間である限りにおいて同類であるからです。したがって人間は,自分とは別の人間が何らかの感情に刺激されているのを表象すれば,それと同じ感情に刺激されるafficiことになるのです。とりわけこの定理は,その人間に対して何の感情も抱いていないということを前提としていますが,おそらくそこで念頭に置かれている感情は愛amorおよび憎しみodiumであると解するのが適切であると考えられます。というのは,人間はある人間を愛していたり憎んでいたりする場合は,感情の模倣のあり方が変わってくるからです。これは第三部定理二一第三部定理二三から明らかです。愛しているなら感情の模倣は強化される場合がありますし,憎んでいるなら感情の模倣が生じないケースもあるのです。
 一方,同類というのは,必ずしも僕たちにとって,単に同じ人間だけを意味するわけではありません。僕たちは愛している人間を愛しているがゆえに同類とみなす場合があるからです。そしてその場合には,単に同じ人間として同類として意識されるよりも強い同類意識をもつことになります。そしてその場合には感情の模倣のあり方が強化されることになるのですから,僕たちはほかの条件が一致するなら,愛している人に対してより羨望を感じやすいということが帰結することになります。
 したがって第三部定理二七は,単に同類に対して感情を模倣するということだけでなく,同類意識が強くなればなるほど,感情を模倣しやすくなったり,同じように模倣してもその度合いが高まるということが,潜在的に含まれているといえます。

 アルチュセールLouis Pierre Althusserをフランス共産党に勧誘したのはアルチュセールより4つ年長のドゥサンティです。
 ドゥサンティは哲学と医学に興味があり,進路には悩んだようですが哲学を選択。1935年に高等師範学校に生徒として入学しました。このときに教員だったメルロ=ポンティMaurice Melaeu-pontyとカヴァイエスJean Cavaillèsから直接的な指導を受けています。第二次世界大戦に兵士として動員されましたが,ドイツ軍に占領されて動員は解除に。カヴァイエスと同様にレジスタンス運動に身を投じましたが,逮捕はされませんでした。フランス共産党に入党したのは1943年です。ただしその後の路線の対立もあり,1956年には離党しました。
 1968年に博士号を取得。それ以後は高等師範学校で教鞭をとり,1971年からはパリ第一大学の教授に就任しています。
 ドゥサンティはスピノザの哲学の研究においてはあまり名前が出てくる人ではありません。ですから僕も『主体の論理・概念の倫理』を読むまではどういった人物であるのかということをほとんど知りませんでした。この略歴の中で僕に興味深く感じられるのは,高等師範学校の生徒であった頃に,メルロ=ポンティとカヴァイエスの両方から直接的な指導を受けていたという点です。というのもメルロ=ポンティというのはフランスの現象学を代表するような哲学者であるのに対し,カヴァイエスはフランスのエピステモロジーの草創期の一員,つまり現象学を敵対視するグループの草創期の一員であるからです。そして事実として,ドゥサンティはその両方からの影響を受けていたようです。
 近藤の関心がどこにあるのかということを説明したときにいったように,『〈内在の哲学〉へ』では,内在の哲学が,超越論的哲学ではなく意識の哲学への対抗馬とされていました。この意識の哲学を代表する哲学こそ現象学あるいは実存主義なのです。そして同時に,これはドゥサンティにとってそうであったかどうか定かではありませんが,アルチュセールにとっては実存主義というのはブルジョワジーの哲学でした。ですから共産党員だったアルチュセールにとって実存主義は,最も敵視するべき思想であったといえるでしょう。
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