↗自己家畜化は誰のため?――私たちのこれからを考える (熊代亨:精神科医) -金子書房
進化生物学者のジャレド・ダイアモンドによれば、結核などの有名な感染症の起源は、人間が都市や交易網を築き、家畜と暮らし始めた時期と一致するのだそうです。人口が密集し、交易網が広がり、他の動物とも共存する環境は、新しい病気が蔓延しやすい環境でもあります。天然痘やインフルエンザはまさにそのように蔓延しましたし、新型コロナウイルス感染症にしても、人口密集環境、グローバルな交易網、人と動物との接点が揃ったことでパンデミックたり得たのでした。そうした蔓延は病原菌の進化を促しただけでなく、それに対抗しなければならない人間側にも免疫上の進化を促しました。
⇨勘違いしては困るのは かつて生じた感染症パンデミックにおける「免疫上の進化」というものは満足な治療法がなく 先天的に免疫の優れた遺伝的要素を持った個体以外が全て死滅することによって生じた収斂進化であって 先天的免疫機能を後天的に「選ぶ」ことなど遺伝的進化においては影響を及ぼすメカニズムもプロセスも論理的に存在しない
遺伝的進化の全てはあくまで生き残り繁殖を継続可能だった個体以外の全てが死滅することで 先天的に生き残り繁殖に適した遺伝的要素を持った個体への収斂進化が生じた結果であって 大量死滅なくして遺伝的進化は生じることはないのである
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家畜化した犬や猫にも言えることですが、高密度な集団をつくっていられること、そのなかで共通のルールを守って暮らせること、攻撃性や不安を抑えられることは、動物としての人間の、本当は凄い性質なのです。
⇨「凄い」かどうかは主観的感想であって 統率協調的集団組織を形成して暴力を振るったり詐欺を働く先天的習性が存在していることを無視し あたかも「人間としての先天的優位性」であるかのような都合の良い「解釈」をするのは ヒトの危険性を「なかったこと」にする衆愚迎合(洗脳)に他ならない
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アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)の手引きからの引用になりますが、たとえば、人が大勢いる場面で不安や恐怖を感じる社交不安症の人は、アメリカでは12か月有病率が約7%で、欧州での有病率の中央値が2.3%とされています。公共交通機関や広場、劇場や映画館などで不安や恐怖を感じる広場恐怖症は、毎年、青年と成人の約1.7%が診断されているそうです。限局性不安症やパニック症も含めれば、不安や恐怖が主な症状で、脳内で利用できるセロトニン濃度を増やすSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬;抗うつ薬の一種)が有効な精神疾患の患者さんの割合は、かなりの数にのぼります。
こうした不安症群の患者さん達を診ていると、人間の自己家畜化が進み、利用可能なセロトニンの量が増えて攻撃性や不安を抑えられるようになったといっても、全員が全員、そうなったわけではないと思わずにいられなくなります。
⇨「自己家畜化」とは言っても そうした「進化」が生じたかつての祖先の生息環境‐つまり 部族間における環境資源の奪い合い競争に勝ち抜く上において統率的協調性の強い個体種への収斂進化が促された結果であって 統率協調性の低い個体種の大量死滅なくして「進化」など生じないのである
ヒトが大きな文明や集団組織を形成する上において 権威に対する盲目的服従性や迎合性 忖度 媚びへつらう非人間性も同時に「進化(人間としては退化)」しているのである
文明社会に「寄生」する形でヤクザや振り込め詐欺 暴力的独裁政権というものは「生存や繁殖の継続」において有利に働くものである
「正直者はバカを見る」のであって 正直者の方が生存や繁殖においても不利になり 淘汰の対象となり 遺伝的に減る作用として働くのである
情報に恵まれた現代文明社会においても正直者は必ずしも優遇されることはなく むしろ情報統制によって都合の良いデマやプロパガンダを含む情報によって衆愚を丸め込み「洗脳」することは簡単である
また先進国では、発達障害(神経発達症群)の患者さんが増えています
遺伝的要素というものは様々な要因によって変異が常に起きているものであり かつての暴力的独裁による統率的協調性への「進化」が生じた後にも 統率協調性が先天的に低い個体への変異が生じることも何ら不思議ではなく 進化のメカニズムにおいてはむしろ普通の出来事であり 変異なくして進化など生じることはない
かつての生息環境においては統率協調性にとって不利な性質を持った個体は淘汰の対象であり 変異が起きるからこそ統率協調性の強い個体も発生してきたのである
統率協調性においては権威に対する盲目的信頼が必要不可欠なものであり 盲目性や錯覚を伴う先天性の認知的欠陥があるからこそ腐敗した独裁政権の体制維持や勃興も生じてしまうのである
「自己家畜化」とは言っても イヌやネコのように人為的にヒトの都合に応じた品種改良とはプロセスが全く異なり ヒトが盲目的統率協調性が「進化」したのは部族間における紛争という淘汰圧力なくして生じることはない
ヒトがいつまでもイジメや差別や暴力戦争を引き起こすのは 祖先から受け継いだ先天的本能習性によるものであり これを「なかったこと」にして都合良い「進化」を意図目的的に選択したかのように「解釈」することは 科学的根拠を伴わぬ大衆観念妄想に過ぎない
大衆観念妄想が大衆に人気があるのは当たり前の話であり あたかもヒトという種の生物に先天的人間性のようなものが組み込まれているかのような錯覚を促すデマの方が衆愚にはウケが良いのは必然というものである
ヒトは神代の昔からヒトだったのではなく 生物進化の歴史の中でヒトは極く最近発生した新種に過ぎず 断じて「先天的人間性」が組み込まれる環境的淘汰圧力も働かず 収斂進化も促されることはないのである
そもそも遺伝的進化というものは後天的には一切「選ぶ」ことなど原理的にできないものであり ヒトでありさえすれば短絡的に人間性が発揮されるような都合の良い進化が促されることなどないのである
腐敗した組織であっても安心して同調迎合し 主観的に「怖い」相手に服従忖度できる卑屈さもまた「社会性」というものである
振り込め詐欺集団が高度な統率協調性を発揮するのも
イジメを学級内の8割が傍観放置するのも
日本大学田中英寿体制のようにヒトの大半が独裁組織集団に迎合同調するのも
東京電力福島第一原子力発電所において原発の津波に対する脆弱性放置という無責任さを発揮したのも
これらは全てヒトの先天的非人間性に起因するものである
不安を抑えるセロトニンの自給自足ができず 他人との比較による優越感欲しさに権力や物質的豊かさにばかり異常執着しているからこそ人間性を簡単に喪失するのであり 後天的に自己を制御できてこその「自由意思」と言うのである
先天的な同調迎合性を短絡的に人間性であるかのように錯覚している頭の悪さを自覚できなければ 先天的な認知上の欠陥を人類は克服することができず 何度でも差別や暴力紛争は繰り返すことになるのである
臨床の医師が非科学的デマをひけらかすことは珍しいことではない
学力偏差値が本質的知能の基準にならないのと同様に 医師免許もまた科学的検証性の保証にもならないのである
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ここ一世紀ほどの間に人間自身が適応しなければならない環境が変わり、その新環境に適応しきれない人が目立つようになった
⇨タレントのYOUが「進化で月経の痛みがなくならないのかしら」などと言い出したのと同様 漫然と繁殖を続けていれば遺伝的進化が起きて環境適応するかのような妄想を熊代享は鵜呑みにしており 到底科学的見解として全く成立していないのである
論理的理解のできないバカ相手に何度説明しても 淘汰圧力なくして遺伝的進化など生じることはないのであって
バカの多数決で物事を判断していたのではバカげた結論にしか至らないのは必然というものである
Ende;