犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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こちらロンドン

2017年03月06日 | よみものみもの

[あらすじ] パシフィコ横浜で開催された写真関連商業フェアのCP+に行ってきた。

最後のお楽しみは、ハービー山口さんの話だ。

もう、ずっと前のこと。いつだったか憶えていない。
二十代だったろうか。
渋谷か新宿かどこかの、商業ビルの中を歩いていたら、一角で写真展をやっていた。
魚網みたいなセットで、不思議な空間を作ってあった。
観客は誰もいない。
見ると、私の好きなミュージシャンの顔がある。
どうやら写真家はロンドンに住んでいるようだ。
イギリスのロックが好きだったので、ミーハー心から写真を見て、
会場で売っている写真集も買って帰った。

驚いたのは、ハービーさんから手紙が来たことだ。
芳名帳に住所と名前と感想を書いたからだろう。
わざわざロンドンからの航空便が届いて、私はずいぶん嬉しく思ったものだ。

手紙の日付を見ると1986年だから、
もう30年前、私は高校生だったわけだ。
その本は、1985年ハービー山口最初の写真集、「LONDON AFTER THE DREAM」だった。



ハービーさんも、東北に行って人々を撮っている。
その話をしている頃、私は会場のタムロン製品をいじくっていて、
話をちゃんと聞いていなかった。惜しい。



あるカメラマンは、働きながら写真の修行をしていた。
だから、月曜から金曜は仕事で写真が撮れない。
土日だけしか撮れない。
働く人々の姿を撮りたいのだが、土日となると街の人は休んでいる。
週末でも働いている人と言えば、農家の人しか撮れない。
本人は、限られたことしかできないという気持ちだったが、むしろこれが幸いした。
何かにテーマを絞る、ということでその人の写真にひとつ特徴が出るからだ。



ロンドンのシェアハウスに生活して、身の周りの人の写真を撮っていた頃のこと。
地下鉄で、ジョー・ストラマーを見つけた。
パンクバンド、ザ・クラッシュはアルバム「LONDON CALLING」を発表した頃だった。
最初は遠慮していたが、「写真を撮っていいですか」と聞くと、ジョーはこころよくうけてくれた。
そして、電車を降り際にこう言った。
「撮りたいものは全部撮るんだ。それがパンクだ。」

http://www.artphoto-site.com/biglove_london_36.html



あるラジオ番組で、ハービーさんがこの話をしたところ、
番組に感想のメールが届いた。
放送を聞いて、涙を流した、と言う。
その人は、若い頃カメラマンを目指していたが、結婚して子どももできて
生活のために写真はあきらめて、今はトラック運転手をしている。
わたしは自分の夢をあきらめてしまった。
30年、無駄な時間を過ごしてきてしまった。

でもね、とハービーさんは続ける。
「その環境で、撮ればいいんです。」
自分は生活のために働いているから週末しか写真が撮れずに、
農家の人を撮って評価を得たカメラマンの例を思う。

「トラックの運転席から、撮ればいいんです。
それが、その人の写真になるんです。
30年は無駄ではないんです。」



と、この話をまた他のところでしたところ、
ある実業家が、自分は小さなギャラリーを持つことが夢だとハービーさんに話す。
そして、夢が叶ったらぜひ、最初にそのトラック運転手の写真展をやりたい、と言うのだ。

話はどこでどんな人と繋がって開いていくか分からない。

人の願いは個人的なもののように見えて、
それを進めていくのには周囲の人の力も大いに関わってくるものだな。

写真集を手にしてからの私の30年はどうだったろう?


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