釜紐信心

[あらすじ] ライブの準備に欲しい２週間を切ったというのに、
ネタを入れたファイルが見つからない。

しょっちゅう物を探していることにおいては、
私も老母にひけを取らない。

大体私は何でもかんでも積み上げる。
だから、前にそれを使ったのがいつ頃か思い出せれば、
その深さから出てくる。
地層年代と同じ仕組みである。

６月の終わりに、青山で郡上踊りがある。
郡上踊りは、下駄を鳴らすのが楽しい。
東京の盆踊りは草履を履く。
下駄を履くのは郡上踊りのときだけだ。

こういうのがいけない。
探すはめになる。
踊りに行くのに良い下駄を二足持っているが、
今回使いたいほうが見つからない。

結局これは、数週間後にふと見つかった。
積ん読の本の山の途中に、下駄は挟まっていた。

※

同級生が言う。
「お釜に紐を結ぶとすぐに探し物が出て来るよ」
やってみた。

出ない。
しっかり縛りあげ過ぎたのか。紐をくくりつけるくらいの感じでよかったか。

なんて思っている数分のうちに、探し物は出た。
ネタファイルは発掘された。
思ったよりも地層がちょっと深かったのだ。

やれうれしや。
ほっと安心。
これで、ライブの曲目も選べる。

緊張と焦りから解放されて気分はすっと高まり、
ほんじゃ新ネタでも作って演るか！というくらいの気持ちになっている。
どうだか。

※

夕方にはもう、次の探し物が始まった。
明るくなってから探そう、と早々に諦めた。
今朝、まだ、出ない。

せっかくほどいたが、またお釜に紐を結ばねばなるまい。

この頻度で探し物をしていたら、ご飯を炊く暇が無いな。