犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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兼近大樹『むき出し』

2024年09月22日 | よみものみもの

本を読む喜びを思い出させてくれる本。

この小説の何がいいって、
本を読むってなんて楽しいんだ!っていう喜びが
溢れんばかりに伝わってくるところだ。

この小説の主人公とは対照的に、
私は子どもの頃からよく本を読んだ。
だから、本を読む喜びを忘れながら読んでいたかもしれない。



二十代の頃は、音楽活動を盛んにやっていた。
時間と体力つまり生活を注いでいた。
読書に回す体力と時間を失くしていた。

加えて、あれこれで疲れて鬱状態のようになった。
沈んだ精神状態によってできなくなったことの一つが読書だった。

文字を追うことはできても、内容が頭に入ってこない。
こりゃいかんと思って読み直してもやっぱり入らない。

だいぶ読書から遠のいた。



読書から遠のいたとは言え、
もともと沢山読むほうだったので、
読む習慣の無い人よりは読んでいるとは思う。

しかし、自分が読みたいと思っているほどには
速くも深くも読めていない、と今も感じている。



そういう中でも、どんどん読み進むことのできる本に時々出会う。
そういう本だけ読んでいれば良いと思う。



自伝的小説と言って良いのだろう。

終始、一人称で語られる。
子どもの頃から始まる。
なんでこうなるんだ。どうしていつも俺が悪者扱いされるんだ。
そんな思いで、表に出る行動としては暴れるしかないという子どもにも、
道理が有る。
未熟で短絡的ではあるけれど、道筋が有る。

まっすぐな筋が有るだけに、本人はそこから出られないし、
他者と交わることもできずにもがく。

そういう心情が描かれている。
前半はそれが続く。
幼少の頃から、
二十歳まで、
ずっとそれが続く。
その表現が続く。

これが、読んでいて結構つらい。
長い。
長いけれど、長い必要が有る。
この主人公は、ずっとこう生きてきた、ということを踏まえないと、
次の話に進むことができないからだ。

さきほど「前半」と書いたが、
それは200ページ続く。
ちなみに小説の全体は253ページである。



ここで主人公は、3冊の本を得る。
そのうちの一冊は、又吉直樹のエッセイ集『第2図書係補佐』だ。
幸運。
この本は、
この本自体が面白いのだが、
さらに、他の本も面白そうでたまらなくなる本なのだ。

私も大好きな一冊である。
以前、感想文を書いたことも有る。
https://blog.goo.ne.jp/su-san43/e/24890925533620840b459f32ff5fc048

自身の子ども時代から青年期にかけての経験談がほとんどで、
最後のちょっとで本の紹介をして、それで読みたくてたまらない気持ちにさせる。
凄い技だ。

エピソードと本題のバランスということだけで言うと、
『第2図書係補佐』と『むき出し』は共通しているのかもしれない。



本を読んだあたりから、文章の雰囲気があれよあれよと変化していく。
自省的になり、他者の立場を慮り、冷静に分析する。
紙面は明らかに漢字が多くなる。

今までの思考にだって、筋は通っていた。
短絡的な中にも、まっすぐな心が有った。
しかしそれだけでは間違ってしまう。
それを認める。
認めて、表す。

私だったら「恥」とか「いらんプライド」とかが先立って
こんなにむき出しには書けないだろうな。



主人公は、本を読むことで、孤独感を解消していく。
他者との対話が、ひとり本を読むことで成立していくのだ。



小説の中で、一ヶ所だけ「むき出し」という言葉が使われている箇所が有る。
読んでのお楽しみってことで、ここに書くのはやめておこう。



本を読むってすばらしい。
忘れそうになったら、また読もうかな。


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