本を読む喜びを思い出させてくれる本。
この小説の何がいいって、
本を読むってなんて楽しいんだ!っていう喜びが
溢れんばかりに伝わってくるところだ。
この小説の主人公とは対照的に、
私は子どもの頃からよく本を読んだ。
だから、本を読む喜びを忘れながら読んでいたかもしれない。
※
二十代の頃は、音楽活動を盛んにやっていた。
時間と体力つまり生活を注いでいた。
読書に回す体力と時間を失くしていた。
加えて、あれこれで疲れて鬱状態のようになった。
沈んだ精神状態によってできなくなったことの一つが読書だった。
文字を追うことはできても、内容が頭に入ってこない。
こりゃいかんと思って読み直してもやっぱり入らない。
だいぶ読書から遠のいた。
※
読書から遠のいたとは言え、
もともと沢山読むほうだったので、
読む習慣の無い人よりは読んでいるとは思う。
しかし、自分が読みたいと思っているほどには
速くも深くも読めていない、と今も感じている。
※
そういう中でも、どんどん読み進むことのできる本に時々出会う。
そういう本だけ読んでいれば良いと思う。
※
自伝的小説と言って良いのだろう。
終始、一人称で語られる。
子どもの頃から始まる。
なんでこうなるんだ。どうしていつも俺が悪者扱いされるんだ。
そんな思いで、表に出る行動としては暴れるしかないという子どもにも、
道理が有る。
未熟で短絡的ではあるけれど、道筋が有る。
まっすぐな筋が有るだけに、本人はそこから出られないし、
他者と交わることもできずにもがく。
そういう心情が描かれている。
前半はそれが続く。
幼少の頃から、
二十歳まで、
ずっとそれが続く。
その表現が続く。
これが、読んでいて結構つらい。
長い。
長いけれど、長い必要が有る。
この主人公は、ずっとこう生きてきた、ということを踏まえないと、
次の話に進むことができないからだ。
さきほど「前半」と書いたが、
それは200ページ続く。
ちなみに小説の全体は253ページである。
※
ここで主人公は、3冊の本を得る。
そのうちの一冊は、又吉直樹のエッセイ集『第2図書係補佐』だ。
幸運。
この本は、
この本自体が面白いのだが、
さらに、他の本も面白そうでたまらなくなる本なのだ。
私も大好きな一冊である。
以前、感想文を書いたことも有る。
https://blog.goo.ne.jp/su-san43/e/24890925533620840b459f32ff5fc048
自身の子ども時代から青年期にかけての経験談がほとんどで、
最後のちょっとで本の紹介をして、それで読みたくてたまらない気持ちにさせる。
凄い技だ。
エピソードと本題のバランスということだけで言うと、
『第2図書係補佐』と『むき出し』は共通しているのかもしれない。
※
本を読んだあたりから、文章の雰囲気があれよあれよと変化していく。
自省的になり、他者の立場を慮り、冷静に分析する。
紙面は明らかに漢字が多くなる。
今までの思考にだって、筋は通っていた。
短絡的な中にも、まっすぐな心が有った。
しかしそれだけでは間違ってしまう。
それを認める。
認めて、表す。
私だったら「恥」とか「いらんプライド」とかが先立って
こんなにむき出しには書けないだろうな。
※
主人公は、本を読むことで、孤独感を解消していく。
他者との対話が、ひとり本を読むことで成立していくのだ。
※
小説の中で、一ヶ所だけ「むき出し」という言葉が使われている箇所が有る。
読んでのお楽しみってことで、ここに書くのはやめておこう。
※
本を読むってすばらしい。
忘れそうになったら、また読もうかな。
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