犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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『ニコリ「数独」名品100選』

2018年07月26日 | からだ
電車に乗るというのに、本を持って来るのを忘れたことに、
駅にあまり近くない駐輪場に着いてから気付いた。
家まで引き返す時間は無い。
電車の中の時間は長い。
何か、買って行くか。



友人Vが言う。
「どうせひと休みと言ってスマホゲームでもするくらいなら、
スドク?パズルのほうが頭の体操になると思って、アプリを入れて始めてみた。」
おお、スウドク、数独、数字は独身に限る、だね。

私がパズル誌ニコリに出会ったのは、18歳の頃、
二駅隣の駅前の本屋だった。
ニコリというパズル誌は、
季刊であり、一切広告を入れておらず、自分たちの足で書店を回って置いてもらう、
というスタイルだった。

何から何まで、新鮮だった。
そんな本作り、雑誌作りが有るのか。
町田でほんの数人で作っているらしい。
編集長はどうやら地元調布に住んでいるらしい。
もともとパズル好きだったので、どんどん引き込まれた。

私が知った時、ニコリは14号目だった。
B5変型と言おうか、ちょっと細長い誌面で、薄めの中綴じだった。
ニコリというのは、どこかの国の競走馬の名前らしい。
編集長である鍛冶真起(かじまき)さんが競馬が好きなようだ。
イラストも独特の雰囲気を醸し出している。

「ペンシルパズル」という呼び名を使っている。
様々な種類のパズルが載っているが、どれも
鉛筆で升目を埋めていく、ということは共通しているからだ。
クロスワードから始まって、シークワーズやスケルトンパズルや、覆面算などが
子どもの頃から好きだった。

そういったパズルがぎっしり載っている。
それに、ニコリ独自のルールのパズルもあれこれ作っているようだ。
カックロの解き味に惚れ、スリザーリンクに驚いた。
掲載されているパズルの多くは投稿作品ということだ。
パズルファンが日本にも大勢いるということが嬉しかった。



数独は、鍛冶さんが外国の雑誌で見つけたパズルを元に、
形を整え、好き勝手な命名をして、世に送り出したものだ。
スマホアプリでナンプレ?それはどうせコンピューターで作った問題だろう。
それより、ニコリの数独をやってみてよ。
問題の質がまるで違うから。

まず、盤面が美しい。
対象形にこだわって数字が並んでいる。
それに、解き心地が良い。
ここが決まる、ここが決まる、するとこっちが決まる、それでここが入る、
といった連鎖がたまらない。

それぞれの作家の持ち味というものがある。
たくさん解いていると、好きな作家ができてくる。
作品の意図を感じたりする。
ただの時間つぶしではない。
限りなく楽しめる世界なのだ。



本さえ持っていれば、待ち合わせも待ちにならない。
早めに出て各駅停車に乗って、できるだけ読みたいくらいだ。
それなのに今日は本を忘れた。
駅前に本屋は有る。古本屋はずいぶん前につぶれてしまった。

新刊を買うことは滅多に無い。
読みたい本は山のように有るので、新しいものに飛びつくでもない。
待っていれば古本で安く手に入る。
まともに買ってばかりいたら身上がつぶれる。

それでも新刊で買わねばならない本って、何だろう。と考えた。
漢字の練習帳だろうか。いや私はこれも古本で済む。
そうなると、パズル誌しかない。
しかし、今日はボールペンしか持っていない。

ボールペンでペンシルパズルを解くには、勇気が要る。
間違っていても後には引けない。
それに、消して何度も解き直すという楽しみ方もできない。
鉛筆も買うか?

いや、それならば、見て読むだけでも楽しめるパズル本を買おう。
ニコリなら、有るはずだ。
と、最寄り駅の駅前の書店に入る。
入口のすぐわきに、小さな箱が有り、そこにペンシルパズル本が詰まっていた。

こういうスタイル自体、ニコリが生み出したものだ。
けれど、そこに入っているのは、多くがニコリではない物だった。
その中から、ニコリの本を探した。
見て読んで楽しみたい、という私の今日の要求にぴったりの本が有った。



この本は、ニコリのパズルをニコリではなく文藝春秋が出版したものだ。
中身は、ニコリの出版物で発表された数独の優品が並んでいる。
作家自身によるコメントが付いていて、どんな意図で作ったかとか、
作家にとって何がどう嬉しいのかといったことが読める。

まえがきを鍛冶さんが書いている。
私が友人Vに懇々と説明した、まさにそのストーリーが書いてある。

盤面は見ているだけでも本当に楽しい。
見て楽しいと、これを解いたら今度はどんな味わいだろうということが
気になってくる。

読み終わったら入門者Vにあげようと思って買った本だが、
その前にこっそり遊ぶことにしよう。
コンピューターには作れない、作家の思いのこもった名品揃いだ。

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