このたびようやく読み終えた本は「諸葛孔明/陳舜臣著」上下巻です。この前、それまで
ほとんど読んだことのなかった洋書(翻訳版)に相次ぎ挑戦し、苦労した話をしましたが、
私としてはそれと同じくらい馴染みがなく、今まで手にしたことのなかった偉人伝記もの、
歴史小説(しかも中国史)にほぼ初めて挑んだのがこの作品でした。
読もうと思った動機は、今期春アニメで放映された「パリピ孔明」を見たことがきっかけです。
アニメの中で現世の東京へ転生した諸葛孔明は、歌声に魅了された、実力があるものの芽が
出ずにいるクラブ歌手・英子(EIKO)の軍師(マネージャー的存在)となり、前世で実際の
戦場で駆使した様々な戦術を応用し、一流の歌い手へと導いていきます。軍師として戦場を
駆け抜けた蜀時代の活躍をあまり知らなくとも、アニメ視聴だけで、むろん楽しめることは
楽しめるのですが、三国志時代の孔明の知略を踏まえたうえでこの作品に対峙したならば、
より深く世界観に浸れるのではと考えたのです。
それで読み始めたのはいいとして、想像以上に読解は難航しました。一番困ったのが人名で、
似た名前(あるいは同じ姓)の人物が多数登場し、読み仮名がふられるのが最初だけなので
途中からその読み方さえわからないありさまで、その人物が誰だったかをよく把握しないまま
読み進めるしかなく、おそらくトータルでせいぜい半分ほどしか物語を理解できなかった
と思われます。その点、登場人物紹介欄を冒頭に設けてほしかったところですが、出演者が
半端ない数なので、かなり複雑なものになるでしょうから、省かれたのかもしれないですね。
しかも、読み進めたもののいまひとつ盛り上がりに欠け、物語に引き込まれなかったのは、
私が理解を深めたかったパリピ~で孔明が用いた奇策、秘策の類のような戦略が、作品中
ほぼまったく出てこなかったからでしょう。陳舜臣氏の描く孔明は人並外れたスーパーマン
ではなく、優れた軍師、戦略家であるものの、常識人の範疇です。歴史にうとい私などは
今更ながらの驚きなのですが、孔明が実在した三国志時代は、当時の日本で言うとまだ
卑弥呼すら登場して来ない、神話級にまで遡らなければならない頃の出来事。史実さえ
あやふやな寓話レベルの古いお話は、その後尾ひれがつくなどし、孔明の活躍が神格化、
エスカレートし脚色され語られるようになったのだと思われます。陳舜臣氏の小説では、
孔明のエスパーまがいの神がかった能力は極力封印され、実在した孔明像としたいがため、
後付で盛られ過ぎた突拍子もない奇策などは排除されたのでしょう。逆に漫画、アニメでは
そうした過剰気味演出は映像映えして好ましく、積極的に採用されたのだと思われます。
私が知っているエピソードで登場するのが「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」くらいで
しょうか、文中、ほぼそのままの意味で登場する場面は。結果として、パリピ~をもう
一度見返す際の参考にはあまりなり得なかったかもの読書でしたが、この故事成語の
ことは知っていても、それが孔明に関わるものだとは知らなかったので結びついて
いなかったし、まあ全然無駄ではなかったと思いたいところです。
この上下巻は、父の書箱にあったものを拝借しました。私と違って、父はNHK大河ドラマを
欠かさず見るような歴史好きでして、残された書籍の多くが歴史書、とっつきにくく、従来
ほとんど手に取る気すら起りません。この諸葛孔明も、パリピ~さえなければまず縁のなかった
小説でした。まったくのところ、何がきっかけになるかわかったものじゃあないですねえ。
で、さっそく、ブルーレイに保存してある「パリピ孔明」を見返し始めました。第一話
でいきなり英子が勤めるクラブのオーナー(三国志オタクという設定)が馬謖の扱いを巡り
孔明に詰問する場面があり、二話では孔明の「大手レコード会社とは?」との質問に
オーナーがひと言「魏軍!」と返答、孔明が即座に事態を把握します。三国とは
「魏・呉・蜀」であるとの記憶はうっすら持ち合わせていた私ながら、中でも魏が
飛び抜けた勢力であったことを本を読むまで忘れ去っていた私は、初回の視聴では
この短い受け答え(ギャグシーンと言っていいでしょう)を流して見てしまっていました。
さらにオーナーに兵法「石兵八陣」(陳舜臣版・諸葛孔明には登場しないエピソード)
について問われると孔明が、「石兵八陣? なるほど後世では、このように誇張して
あの戦術が伝えられているのですねえ…」と、盛られ過ぎの歴史を暗に揶揄するシーンが
挿入されていたことにも気づきます。再視聴でこれらの初回見逃していた場面が
引っかかったことで、今回の読書挑戦がまったく無駄でなかったことがわかります。
「魏志倭人伝」とかもこのあたりの時代の出来事だったのかしらと思い返すなど、
なるほど歴史ロマンに思いをはせる私の父のような歴史好きの方々のお気持ちにも、
なんとなく触れることが出来た今回の読書でした。