すだれ状にたくさんの実が垂れ下がる熟柿
それを目当てに訪れるメジロ
たいていつがいでやってくるメジロだが
少し離れて行動し、ちょこまか動き回るので
同時に写し込むのは容易ではない
これなどは両方にうまくピントが
合っているほうだろう
いい光が入って、浮かび上がったメジロの浅黄色と
熟した柿の実色との取り合わせが素敵
【柿喰う鳥・メジロ編~和歌山市郊外にて 2022.02撮影】
今回図書館でお借りしたのは、「雪割草/横溝正史著」です。近年発掘された
横溝さんの探偵小説でない純文学風新聞連載作品で、発見に至る一連の経緯は
当時新聞紙上をにぎわせたので、ご存知の方も多いことでしょう。一足先に
単行本化されていたものが相当にボリューミーで尻込みしてしまい、文庫本版で
発売されたのを機に、読んでみることにしました。それにしてもボリューム
たっぷりで、上下巻に分冊するかどうか瀬戸際の分厚さなんですね。
この作品が新聞連載された太平洋戦争直前は、時局にそぐわないとの理由で
探偵小説が敬遠され、どうにか続けられた時代劇ものでも氏の「人形佐七」は
艶聞的な要素が強いため主人公を代えなければならないなど、表現の自由が
狭まる中、作品発表の機会を得たのがこの新聞小説だったようです。しかし、
殺人を扱う探偵ものは避けなければならず、必然的に選択されたのが現代家族
小説であったとのことです。それが結果的に、長きに渡る横溝さんの作家歴
における唯一貴重な純文学的作品として残されたわけですね。
たびたびこの欄でも述べてきたように、横溝さんの作品全般、殺人事件などの
刺激的な場面を描いていながらも、基本格調高い滑らかな文章、達者な筆さばき
であることから、探偵ものでないこの小説が、おそらく優れたものであることは、
読む前から想像はできました。持ち前のストーリーテラーぶりを発揮されると、
筋書きも面白いものであることは疑いようなく、やはりそれも思った通りで、
かなりの長編であるにもかかわらず、大きなプロットの崩れもなく、大団円まで
きちっと完結させているのがさすがです。引きの展開の巧みさ加減、鮮やかさも
見事で、当時連載を楽しみにしていた新聞読者の方々は、ヒロインらの行く末に、
毎回その続きが気になって仕方なかったことでしょう。
しかも、連載中時局がさらに悪化の一途をたどり、制限がますます厳しさを増し、
内容修正を余儀なくされ、主人公・有為子(ういこ)をあれほど苦しめた敵役の
皆々も、最後はほとんどが改心、好人物と化し、「ニッポン人に悪い人なし!」
的思想を植え付けようとのマインドコントロールがけっこう怖いです。しかし
その上層部の思惑を、絶妙の筆使いでコントロールし、物語を軟着陸させる、
横溝さんの臨機応変な対応力は見事なんですよね。
襲う度重なる不幸にもめげず、力強く前向きに生きていくヒロインの女性像は、
朝ドラはちょっと無理でも、昼ドラなら今でもそのまま原作として通じるかも
しれません。昼ドラって今でもやってるのかな?もう長いこと見ていないので、
それすらわかんないんだけども。
ヒロインの相手役が、長身であることを除けば金田一耕助そっくりな風貌で、
吃音気味なところまで一緒(頭を搔いてフケこそ飛ばしませんが)、戦前すでに
金田一風のシルエットができていたのは大変興味深く、金田一はけっして
思い付きで生まれた人物ではなくて、長い年月をかけて温めていた横溝さんの
秘蔵っ子であったことが伺い知れます。のちに、国民的な人気を得る土壌は、
早やこの頃、育まれていたのです。