「頭の中の声」。こんな大上段で構えた書き出しで、この映画のことを書けば、きっと失敗する。そういう「頭の中の声」を振り切って、文章を続けることとする。
彼女は、ルポラーター。文章を扱う人間だ。往々にして、文章を書く人たちは、文章を考える時に頭の中で独り言を言っている。それが考えるということ。その独り言は「文字」ではなく「声」だ。頭の中の原稿用紙に文字を書いているんじゃなく、頭の中の自分に向かって話しかけている。少なくとも、ぼくの場合は、脳内での作業は「音声」よりの情報操作だ。
そして、たまに頭の中の声が、妙に覚めた客観的な発言をする。ちょうど、この映画のようにだ。
例えば、英会話。相手への質問が、音となって頭に浮かぶ。これも自動的に浮かんでくるのではなく、自分自身に語りかけ、文章が成立したところで、ようやく口から音声として出て行く。だから、言葉の途中にうろ覚えの単語があると思考が途絶える。あの単語の発音はなんだったかと・・・・・・。
この映画は、神経を病みかけた女が、元不良のトラックの運ちゃんと旅をする典型的なロードムービーだ。しかし女は、しゃにむに自分自身に問いつづけ、他者とつながりを求めつづけている。
残雪の白い景色が続くなか、男は無線のスイッチを入れ、他のトラッカーたちと交信を始める。女はボイスコンバータを使って無線の声と交信しようとするが、突然、それまで聞こえなかった“声”が一気に彼女を襲う。どうしていいかわからず、女は泣きながら「気持ち悪い。吐く」と苦しそうに訴える。男はうろたえ、トラックをガソリンスタンドに停める。女は駆け出し、口に指を突っこんで吐こうとするが、どうしても吐けない。前はあんなにうまく吐けていたのに。助けようと駆け寄る男を拒絶しながら、「気持ち悪い、気持ち悪い」と繰り返し男を叩く。やっとのことで嘔吐し、その場に崩れ落ちる。
「ヴァイブレータ」はトラックの振動を指していることを知り、まったく別のものを考えていた自分に恥じた。”食べはき”はしないが、朝起きた時はすっきりしていて「さすが良い酒は残らない」と思っていると、電車に乗った途端、最悪に。寝ちゃあ吐き、寝ちゃあ吐きを繰り返すのはいつものことだ。映画でも出てくるが、CQには諸説あり「Call to Quarters」の略とか「Come Quick」の略とか・・・・・・「Seek You」ってのはきれいだね。
♪だれでもない わたしから あなたへのことば
「この人が優しいのは感情じゃなくて本能だよ。感情が無くとも優しくする。柔らかい物には優しく触る。桃にそっと触るのとおなじこと。動物みたいなもんだ。本能、本能。でも桃傷んでてても気にしない奴とかさ・・・・・・いい男じゃん、こいつ」
・・・・・・言われてみたいかも。