彼の母親は重い認知症で、いまは、隣県の施設にいた。この施設では、患者の衣類は家族が洗濯するのが決まりだった。そこで、家族と別居中の彼は、週末ごとに母親のお見舞いがてら、洗濯しに通っていた。認知症の母親の症状は、その日その日で変化した。先日訪れた時は、母親は彼のことがわからなかったようだった。彼が何を話しかけても、「はい」とか、「ええ」としか答えない。何かをしてあげても、「お世話様です」と頭を下げるのみだった。彼は、たまらずに、「おふくろ、俺だよ。ヒロユキ!」と呼びかけてみたものの、無表情に「どうも」と返事をするのみだった。彼は、いたたまれなくなって、母親の着替えを抱えて病院の洗濯室へ駆け込む。
1週間分の母親の着替えを洗濯していたら、涙があふれそうになってきた。そのとき、洗濯室にいたよそのおばあさんが、彼に声をかけてきた。そのおばあさんとは、よく洗濯室で顔をあわせていたのだった。
「いつも、大変ね。いいのよ、泣いたって」
おばあさんの言葉に彼は黙って頭を下げた。気がつくと涙がぼとぼと洗濯機の中に落ちていった。
1週間分の母親の着替えを洗濯していたら、涙があふれそうになってきた。そのとき、洗濯室にいたよそのおばあさんが、彼に声をかけてきた。そのおばあさんとは、よく洗濯室で顔をあわせていたのだった。
「いつも、大変ね。いいのよ、泣いたって」
おばあさんの言葉に彼は黙って頭を下げた。気がつくと涙がぼとぼと洗濯機の中に落ちていった。