コメント欄に,「大正~戦前に設立した都内企業の設立日を調べるために官報などをしらみつぶしに見ていました」とある件についてであるが,興味深い御指摘であるので,まとめてみました。
cf. 平成24年12月25日付け「昔の商業登記簿謄本」
まず,商業登記制度の沿革は,次のとおりである。
第1期 旧商法
旧商法(明治23年法律第32号)第1編第2章
商法ノ規定ニ依リ商業及ビ船舶ノ登記公告ニ関スル取扱規則
cf. 平成29年12月9日付け「「商業登記100年」の記念切手」
第2期 非訟事件手続法
商法(明治32年法律第48号)
非訟事件手続法(明治31年法律第14号)第3編第5章
商業登記取扱手続(明治32年司法省令第13号)
※ 商業登記取扱手続は,昭和13年商法改正(昭和15年1月1日施行)の際に,「昭和14年司法省令第58号」により全部改正され,商業登記規則(旧規則)(昭和26年法務府令第112号)に引き継がれている。
第3期 商業登記法
商法(明治32年法律第48号)
商業登記法(昭和38年法律第125号)※昭和39年4月1日施行
第4期 会社法
会社法(平成17年法律第86号)
商業登記法(昭和38年法律第125号)
明治期に施行された当初の「商法」(明治32年法律第48号)の下では,公告について,次のように定められていた。
登記したる事項は,裁判所において,遅滞なくこれを公告することを要す(昭和24年改正前商法第11条,旧商業登記取扱手続第26条)。
登記したる事項の公告は,及び新聞紙上に,少なくとも1回,これを為すことを要す。公告は,これを掲載したる最終の官報及び新聞紙発行の日の翌日に,これを為したるものとみなす(昭和38年改正前非訟事件手続法第144条)。
区裁判所は,毎年12月に,翌年公告を掲載せしむべき新聞紙を定め,官報及び新聞紙をもって、これを公告す,その新聞紙が休刊又は廃刊したるときは,他の新聞紙を選定し,同一の方法によりて,これを公告す(昭和38年改正前旧非訟事件手続法第145条)。
また,管轄内において,公告を為すに,適当なる新聞紙なきときは,新聞紙上の公告に代え,登記所及びその管轄内の市町村役場の掲示場に広告することを得(昭和38年改正前旧非訟事件手続法第146条)。
※ 登記事務は,裁判所の所管であった(後掲「法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律」(昭和24年法律第137号)の施行まで)。
cf. 松本烝治「商法総論」(中央大学)昭和4年刊
http://syotogen.seesaa.net/article/454046505.html
※ 日本国憲法制定作業当時の国務大臣で,いわゆる「松本私案」をまとめた方である。
その後,戦時下において,
「戦時民事特別法(昭和17年法律63号)という法律に、「裁判所ガ官報及新聞紙ヲ以テ為スベキ公告ハ官報ノミヲ以テ之ヲ為ス」という規定が置かれていました(3条)。しかし、この法律は終戦後廃止されています・・・戦時民事特別法廃止法律(昭和20年法律46号)附則2項に「旧法(廃止された戦時民事特別法)三条・・ノ規定ハ本法施行後ト雖モ当分ノ内仍其ノ効力ヲ有ス」とあるのです。そのため、新聞紙による公告を要しないとする規定はその後も生き続けているというわけです」(後掲法制執務コラム)
cf. 法制執務コラム「こんなところに大事なことが!―例外事項はどこにある?―」(2002年)by 参議院法制局
http://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column046.htm
そして,「法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律」(昭和24年法律第137号)により,次のとおりとされた。
法務局~に関する法律
第十一条 商法(明治三十二年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。
第九条及び第十一条第一項中「裁判所」を「登記所」に改める。
附則
1~8 【略】
9 登記所がすべき公告は、当分の間官報でするものとする。但し、登記事項の公告は、当分の間しない。
10 商法第十二条の規定の適用については、登記の時に登記及び公告があったものとみなす。
cf. 法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和24年法律第137号)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/00519490531137.htm
大槻敏江「商業登記制度における外観信頼の保護に関する一考察」(中央学院大学論叢)
https://ci.nii.ac.jp/naid/110001048928
よって,戦後,平成17年前商法下においては,次のとおりであった。
平成17年改正前商法
第十一条 登記シタル事項ハ登記所ニ於テ遅滞ナク之ヲ公告スルコトヲ要ス
2 公告ガ登記ト相違スルトキハ公告ナカリシモノト看做ス
第十二条 登記スベキ事項ハ登記及公告ノ後ニ非ザレバ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズ登記及公告ノ後ト雖モ第三者ガ正当ノ事由ニ因リテ之ヲ知ラザリシトキ亦同ジ
法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和24年法律第137号)
附則
1~8 【略】
9 登記所がすべき公告は、当分の間官報でするものとする。但し、登記事項の公告は、当分の間しない。
10 商法第十二条の規定の適用については、登記の時に登記及び公告があったものとみなす。
※ 旧非訟事件手続法第141条から第205条までの規定は,「商業登記法の施行に伴う関係法令の整理等に関する法律」(昭和38年法律126号)により削除された。
なお,現在の会社法の下では,登記された事項を公告しなければならない旨の規定は存しない。
ちなみに,「法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和24年法律第137号)」は,「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成17年法律第87号)第1条第6号により廃止されている。
〇 参考
八巻敏雄「公告の広告化」
http://www.tku.ac.jp/kiyou/contents/administration/244/1_yamaki.pdf
明治期の新聞広告
http://www.yhmf.jp/pdf/activity/adstudies/vol_08_03.pdf
cf. 平成24年12月25日付け「昔の商業登記簿謄本」
まず,商業登記制度の沿革は,次のとおりである。
第1期 旧商法
旧商法(明治23年法律第32号)第1編第2章
商法ノ規定ニ依リ商業及ビ船舶ノ登記公告ニ関スル取扱規則
cf. 平成29年12月9日付け「「商業登記100年」の記念切手」
第2期 非訟事件手続法
商法(明治32年法律第48号)
非訟事件手続法(明治31年法律第14号)第3編第5章
商業登記取扱手続(明治32年司法省令第13号)
※ 商業登記取扱手続は,昭和13年商法改正(昭和15年1月1日施行)の際に,「昭和14年司法省令第58号」により全部改正され,商業登記規則(旧規則)(昭和26年法務府令第112号)に引き継がれている。
第3期 商業登記法
商法(明治32年法律第48号)
商業登記法(昭和38年法律第125号)※昭和39年4月1日施行
第4期 会社法
会社法(平成17年法律第86号)
商業登記法(昭和38年法律第125号)
明治期に施行された当初の「商法」(明治32年法律第48号)の下では,公告について,次のように定められていた。
登記したる事項は,裁判所において,遅滞なくこれを公告することを要す(昭和24年改正前商法第11条,旧商業登記取扱手続第26条)。
登記したる事項の公告は,及び新聞紙上に,少なくとも1回,これを為すことを要す。公告は,これを掲載したる最終の官報及び新聞紙発行の日の翌日に,これを為したるものとみなす(昭和38年改正前非訟事件手続法第144条)。
区裁判所は,毎年12月に,翌年公告を掲載せしむべき新聞紙を定め,官報及び新聞紙をもって、これを公告す,その新聞紙が休刊又は廃刊したるときは,他の新聞紙を選定し,同一の方法によりて,これを公告す(昭和38年改正前旧非訟事件手続法第145条)。
また,管轄内において,公告を為すに,適当なる新聞紙なきときは,新聞紙上の公告に代え,登記所及びその管轄内の市町村役場の掲示場に広告することを得(昭和38年改正前旧非訟事件手続法第146条)。
※ 登記事務は,裁判所の所管であった(後掲「法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律」(昭和24年法律第137号)の施行まで)。
cf. 松本烝治「商法総論」(中央大学)昭和4年刊
http://syotogen.seesaa.net/article/454046505.html
※ 日本国憲法制定作業当時の国務大臣で,いわゆる「松本私案」をまとめた方である。
その後,戦時下において,
「戦時民事特別法(昭和17年法律63号)という法律に、「裁判所ガ官報及新聞紙ヲ以テ為スベキ公告ハ官報ノミヲ以テ之ヲ為ス」という規定が置かれていました(3条)。しかし、この法律は終戦後廃止されています・・・戦時民事特別法廃止法律(昭和20年法律46号)附則2項に「旧法(廃止された戦時民事特別法)三条・・ノ規定ハ本法施行後ト雖モ当分ノ内仍其ノ効力ヲ有ス」とあるのです。そのため、新聞紙による公告を要しないとする規定はその後も生き続けているというわけです」(後掲法制執務コラム)
cf. 法制執務コラム「こんなところに大事なことが!―例外事項はどこにある?―」(2002年)by 参議院法制局
http://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column046.htm
そして,「法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律」(昭和24年法律第137号)により,次のとおりとされた。
法務局~に関する法律
第十一条 商法(明治三十二年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。
第九条及び第十一条第一項中「裁判所」を「登記所」に改める。
附則
1~8 【略】
9 登記所がすべき公告は、当分の間官報でするものとする。但し、登記事項の公告は、当分の間しない。
10 商法第十二条の規定の適用については、登記の時に登記及び公告があったものとみなす。
cf. 法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和24年法律第137号)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/00519490531137.htm
大槻敏江「商業登記制度における外観信頼の保護に関する一考察」(中央学院大学論叢)
https://ci.nii.ac.jp/naid/110001048928
よって,戦後,平成17年前商法下においては,次のとおりであった。
平成17年改正前商法
第十一条 登記シタル事項ハ登記所ニ於テ遅滞ナク之ヲ公告スルコトヲ要ス
2 公告ガ登記ト相違スルトキハ公告ナカリシモノト看做ス
第十二条 登記スベキ事項ハ登記及公告ノ後ニ非ザレバ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズ登記及公告ノ後ト雖モ第三者ガ正当ノ事由ニ因リテ之ヲ知ラザリシトキ亦同ジ
法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和24年法律第137号)
附則
1~8 【略】
9 登記所がすべき公告は、当分の間官報でするものとする。但し、登記事項の公告は、当分の間しない。
10 商法第十二条の規定の適用については、登記の時に登記及び公告があったものとみなす。
※ 旧非訟事件手続法第141条から第205条までの規定は,「商業登記法の施行に伴う関係法令の整理等に関する法律」(昭和38年法律126号)により削除された。
なお,現在の会社法の下では,登記された事項を公告しなければならない旨の規定は存しない。
ちなみに,「法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和24年法律第137号)」は,「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成17年法律第87号)第1条第6号により廃止されている。
〇 参考
八巻敏雄「公告の広告化」
http://www.tku.ac.jp/kiyou/contents/administration/244/1_yamaki.pdf
明治期の新聞広告
http://www.yhmf.jp/pdf/activity/adstudies/vol_08_03.pdf