朝、眠りが足らなかったのに5時40分、6時にセットした目覚まし時計のベルの音が鳴る前に浪江は目が覚めた。
トイレに入り出る時に鼻の異変に気付き手をあてがうと、鮮血が滴り落ち便器が汚れた。
しかし、右の鼻腔から鼻血は直ぐに止まった。
パンとハムエッグの食事をしながらコーヒーを飲む。
歯磨きをしていたら、胸が詰まった感じになる。
咳込んで吐き出すと粘着性のある大きな塊である痰であった。
それを見て浪江は顔を青ざめた。
黒く変色した血痰だった。
高尾、府中方面からの通勤電車はいつもの混雑で新宿駅まで座れることはない。
浪江が勤める農協は10時から始業であるが、浪江は9時30分前に出勤し、いつものとおり掃除をして、みんなが出勤するのを迎えた。
湯も沸かし、お茶の準備もした。
原則、午後5時に終業であるが、みなさん電車が込む前の4時40分頃は、新宿駅ホームで電車を待っている。
滅多にないような気楽な職場である。
血痰が出たことで、浪江はホテルの裏のJR病院に行く予定であった。
だが、とんでもない問題が起こったのである。
いつもなら、浪江は自分で作った弁当を食べるところであったのに、この日は朝食を食べてから気分が一層、優れなくなった。
血の痰を見てしまったので、当然のように驚き、弁当を作る気分になれなくなる。
農協の職員はみなさん外食せず手弁当であった。
参事の荒井銀蔵だけは裏のホテルで昼食を食べていた。
「ああ~頭が痛い!この痛さは何だ!これまで、経験したことのない痛みだ。助けてくれ~、ああ、ああ」と寺田勝雄が絶叫する。
頭を仕事机にドンとぶつけながら前かがみに倒れ込む。
そして、何度も背中を波打つようさせ、食べた物を吐き出す。
みんなが茫然とする中、浪江は咄嗟に救急車を呼んだ。
5分ほどして事務所に新宿の消防署の救急隊が駆け付けたのだ。
救急隊によって病院に搬送された寺田勝雄は約1時間後、脳幹出血で死亡した。
「寺田君が死んだのか。余りにも突然だってな。彼がいくだっかな」
「42歳です」経理担当の小峰広子は告げる。
「そうか、男の厄年だな」と参事の荒井は、天井に向けパイプの煙を吐き出す。
寺田は42歳で39歳の妻と、まだ、11歳の息子と9歳の娘を残し、あの世へ行ってしまったのだ。
「人は呆気なく死ぬものなのね」峰子はつぶやく。
浪江は先輩の小峰広子が尻込みし、「わたしには、ムリ、お願い」と手を合わされので、寺田勝雄が仕事机一面に吐き出した胃の内容物を綺麗に清掃した。
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脳幹出血
急速に昏睡状態となり、四肢麻痺、縮瞳などが見られる。短期間で死に至り非常に予後が悪い。手術の無効性が確認されているため手術適応はない。
出血量が多いと電撃性卒中と言われ、発作と同時に死に至ることもある。
トイレに入り出る時に鼻の異変に気付き手をあてがうと、鮮血が滴り落ち便器が汚れた。
しかし、右の鼻腔から鼻血は直ぐに止まった。
パンとハムエッグの食事をしながらコーヒーを飲む。
歯磨きをしていたら、胸が詰まった感じになる。
咳込んで吐き出すと粘着性のある大きな塊である痰であった。
それを見て浪江は顔を青ざめた。
黒く変色した血痰だった。
高尾、府中方面からの通勤電車はいつもの混雑で新宿駅まで座れることはない。
浪江が勤める農協は10時から始業であるが、浪江は9時30分前に出勤し、いつものとおり掃除をして、みんなが出勤するのを迎えた。
湯も沸かし、お茶の準備もした。
原則、午後5時に終業であるが、みなさん電車が込む前の4時40分頃は、新宿駅ホームで電車を待っている。
滅多にないような気楽な職場である。
血痰が出たことで、浪江はホテルの裏のJR病院に行く予定であった。
だが、とんでもない問題が起こったのである。
いつもなら、浪江は自分で作った弁当を食べるところであったのに、この日は朝食を食べてから気分が一層、優れなくなった。
血の痰を見てしまったので、当然のように驚き、弁当を作る気分になれなくなる。
農協の職員はみなさん外食せず手弁当であった。
参事の荒井銀蔵だけは裏のホテルで昼食を食べていた。
「ああ~頭が痛い!この痛さは何だ!これまで、経験したことのない痛みだ。助けてくれ~、ああ、ああ」と寺田勝雄が絶叫する。
頭を仕事机にドンとぶつけながら前かがみに倒れ込む。
そして、何度も背中を波打つようさせ、食べた物を吐き出す。
みんなが茫然とする中、浪江は咄嗟に救急車を呼んだ。
5分ほどして事務所に新宿の消防署の救急隊が駆け付けたのだ。
救急隊によって病院に搬送された寺田勝雄は約1時間後、脳幹出血で死亡した。
「寺田君が死んだのか。余りにも突然だってな。彼がいくだっかな」
「42歳です」経理担当の小峰広子は告げる。
「そうか、男の厄年だな」と参事の荒井は、天井に向けパイプの煙を吐き出す。
寺田は42歳で39歳の妻と、まだ、11歳の息子と9歳の娘を残し、あの世へ行ってしまったのだ。
「人は呆気なく死ぬものなのね」峰子はつぶやく。
浪江は先輩の小峰広子が尻込みし、「わたしには、ムリ、お願い」と手を合わされので、寺田勝雄が仕事机一面に吐き出した胃の内容物を綺麗に清掃した。
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脳幹出血
急速に昏睡状態となり、四肢麻痺、縮瞳などが見られる。短期間で死に至り非常に予後が悪い。手術の無効性が確認されているため手術適応はない。
出血量が多いと電撃性卒中と言われ、発作と同時に死に至ることもある。