先輩の小峰広子はクリスチャンであった。
浪江は新宿・大久保の教会に誘われたが、聖書を読む気になれなかったし、牧師の説法を聞くことにもあまり興味がないので、「私はいいわ」と断った。
「信仰は必要よ。いつか浪江さんも、きっと解る時がくると思うの」広子は残念がった。
それは、太宰治の桜桃忌の前日のことであった。
5階の事務所の開けられた窓から、白い蝶が舞い込んできて、呆気なく突然亡くなった寺田勝雄が座っていた机に止まったのである。
蝶は静かな羽ばたきを繰り返した。
「浪江さん、この蝶、寺田さんじゃないかしら?」と目を見開く。
大きな彼女の瞳が一層、輝いて見えた。
「きっと、寺田さんが蝶になって戻ってきたのね」と興味深く広子は見つめる。
風が吹き込んできて、その蝶は事務内を舞う。
そして、1分余り舞うと窓の外へ姿を消した。
浪江にはこの時、風のメルヘンの歌詞が浮かんだ。
都会の風は きまぐれで
今にも別れが 来そうだけれど
花は散っては 咲くように
この次の人生も 会いましょう
「そうか、人は蝶に生れ変わることもあるのかしら?」
クリスチャンの広子の生命観を肯定したい気持ちとなった。
「わたしも、何時かは死ぬ。そして、何に生れれ変わるのかしら。このつぎの人生もあるのね」と見えない世界を知りたくなった。
浪江は新宿・大久保の教会に誘われたが、聖書を読む気になれなかったし、牧師の説法を聞くことにもあまり興味がないので、「私はいいわ」と断った。
「信仰は必要よ。いつか浪江さんも、きっと解る時がくると思うの」広子は残念がった。
それは、太宰治の桜桃忌の前日のことであった。
5階の事務所の開けられた窓から、白い蝶が舞い込んできて、呆気なく突然亡くなった寺田勝雄が座っていた机に止まったのである。
蝶は静かな羽ばたきを繰り返した。
「浪江さん、この蝶、寺田さんじゃないかしら?」と目を見開く。
大きな彼女の瞳が一層、輝いて見えた。
「きっと、寺田さんが蝶になって戻ってきたのね」と興味深く広子は見つめる。
風が吹き込んできて、その蝶は事務内を舞う。
そして、1分余り舞うと窓の外へ姿を消した。
浪江にはこの時、風のメルヘンの歌詞が浮かんだ。
都会の風は きまぐれで
今にも別れが 来そうだけれど
花は散っては 咲くように
この次の人生も 会いましょう
「そうか、人は蝶に生れ変わることもあるのかしら?」
クリスチャンの広子の生命観を肯定したい気持ちとなった。
「わたしも、何時かは死ぬ。そして、何に生れれ変わるのかしら。このつぎの人生もあるのね」と見えない世界を知りたくなった。