1920年に駐日フランス大使として日本に滞在したフランスの劇作家・詩人のポール・クローデルは、日本文化に<魂のうるおい>を感じると表現した。
日本文化の根底には、縄文時代時代から現代にいたるまで、自然を敬い、異なる価値観の調和を尊ぶ「美意識」が存在している。
日本人は、常に外から異文化を取り入れ、自らの文化と響き合せ、融合させることで、新しい文化を創造してきた。
多様な価値観が調和し、共存するところにこそ、善悪を超えた「美」があるとするに日本文化ならではの「美意識」が、排他的で混迷度を深めている現代の国際社会が抱える問題解決の糸口になるのではないか。
ジャポニスム 2018:響きあう魂
今世紀最大規模の日本文化・芸術の祭典
【「をちこちMagazine」より転載 】
国際交流基金 ジャポニスム事務局長
増田是人
「をちこち」の読者の皆様はフランスを代表する作曲家、ドビュッシーの交響詩『海』の初版楽譜の表紙に葛飾北斎の浮世絵に似た絵柄が使われていることをご存知でしょうか。最近公開されたエドゥアルド・デルック監督の映画『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』の中に、ヴァンサン・カッセルが演じるゴーギャンがこの浮世絵のデッサンをみつめているシーンがありますが、当時、パリでは日本の浮世絵が多くの芸術家を魅了し、その作品に多大な影響を与えていました。
「ジャポニスム」は、フランスで生まれ、そして北斎の浮世絵に描かれた大波のように、大きなうねりをもって世界中の文化・芸術家に影響を与えた芸術運動でした。
今日においても、フランスにおける日本美術の代名詞は「浮世絵」で、パリの美術館では頻繁に浮世絵展が開催され、常に賑わっています。
さて、こうしたフランス人の期待を見事に裏切るかのように、今年開催される「ジャポニスム2018:響きあう魂」の展示プログラムの中に「浮世絵展」はありません。何故でしょうか?それは、「ジャポニスム2018」は、あの「ジャポニスム」ではないからです。
「ジャポニスム2018」は2018年7月から2019年2月までパリを中心にフランスで実施されます。伝統から現代まで、展示、公演、映像、生活文化などの多種多様な日本文化・芸術を紹介する一大プロジェクトです。「ジャポニスム2018」を通じて、フランス人が19世紀に味わったような新鮮な驚きと発見をしていただき、これが新たなジャポニスム旋風を巻き起こすことを私たちは期待しています。
ジャポニスム2018の開催経緯
「ジャポニスム2018」は、日仏友好160周年にあたる2018年に開催することが両国首脳の間で合意されました。
企画にあたっては、国際交流基金の中に事務局が設置され、フランスのさまざまな文化機関と協働し、また両国政府及び民間企業の支援も得ながら開催準備が進められています。
ところで、現代の世に送り出す「ジャポニスム2018」は、どのようなコンセプトのもとに生まれたのでしょうか。その一つの答えは、自然を敬い、異なる価値観の調和を尊ぶ日本人の「美意識」です。
常に外部から異文化を取り入れ、自らの文化と響き合わせ融合させてきた日本人は、時に相反する価値観がぶつかりあいながらも調和し共存するところに「美」があると評価してきました。
日本文化の原点とも言うべき縄文や、伊藤若冲、琳派から、最新のメディア・アートやアニメ・マンガ・ゲームまで、舞台公演では、歌舞伎、能・狂言、雅楽から、現代演劇、初音ミクまで、さらには食や祭り、禅、武道、茶道、華道など日常生活に根ざした文化。このような日本文化の多様性、根底に流れる感受性や美意識は、現代の排他的で混迷度を深めている国際社会が抱える問題解決の糸口になるかもしれません。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、日本の地方の魅力もアピールし、訪日観光の促進や和食・日本酒、日本茶等、日本産品の海外展開に貢献したいと考えています。また、デザインやファッション、建築、テクノロジーなどの分野における創造力、むだを省いた「引き算」の美学なども世界を魅了する日本の文化といえるでしょう。
フランスが日本色に染まる
パリ市内を中心に20を越える会場で繰り広げられるすべての事業をここで紹介することはできませんが、いくつか代表的な企画についてお知らせしましょう。
まず開幕に先立って5月には、パリ市内北西部に位置するラ・ヴィレットにおいて、チームラボの《teamLab : Au-delà des limites(境界のない世界)》展が始まります。ラ・ヴィレット(1986年オープン)は、ジャック・ラング文化大臣(当時)が設立構想に携わった科学と文化をテーマにした施設です。まさにその当初のコンセプトに合致する日本の最先端テクノロジーとアートを駆使した展示が、大規模に開催されます。
日本文化の根底には、縄文時代時代から現代にいたるまで、自然を敬い、異なる価値観の調和を尊ぶ「美意識」が存在している。
日本人は、常に外から異文化を取り入れ、自らの文化と響き合せ、融合させることで、新しい文化を創造してきた。
多様な価値観が調和し、共存するところにこそ、善悪を超えた「美」があるとするに日本文化ならではの「美意識」が、排他的で混迷度を深めている現代の国際社会が抱える問題解決の糸口になるのではないか。
ジャポニスム 2018:響きあう魂
今世紀最大規模の日本文化・芸術の祭典
【「をちこちMagazine」より転載 】
国際交流基金 ジャポニスム事務局長
増田是人
「をちこち」の読者の皆様はフランスを代表する作曲家、ドビュッシーの交響詩『海』の初版楽譜の表紙に葛飾北斎の浮世絵に似た絵柄が使われていることをご存知でしょうか。最近公開されたエドゥアルド・デルック監督の映画『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』の中に、ヴァンサン・カッセルが演じるゴーギャンがこの浮世絵のデッサンをみつめているシーンがありますが、当時、パリでは日本の浮世絵が多くの芸術家を魅了し、その作品に多大な影響を与えていました。
「ジャポニスム」は、フランスで生まれ、そして北斎の浮世絵に描かれた大波のように、大きなうねりをもって世界中の文化・芸術家に影響を与えた芸術運動でした。
今日においても、フランスにおける日本美術の代名詞は「浮世絵」で、パリの美術館では頻繁に浮世絵展が開催され、常に賑わっています。
さて、こうしたフランス人の期待を見事に裏切るかのように、今年開催される「ジャポニスム2018:響きあう魂」の展示プログラムの中に「浮世絵展」はありません。何故でしょうか?それは、「ジャポニスム2018」は、あの「ジャポニスム」ではないからです。
「ジャポニスム2018」は2018年7月から2019年2月までパリを中心にフランスで実施されます。伝統から現代まで、展示、公演、映像、生活文化などの多種多様な日本文化・芸術を紹介する一大プロジェクトです。「ジャポニスム2018」を通じて、フランス人が19世紀に味わったような新鮮な驚きと発見をしていただき、これが新たなジャポニスム旋風を巻き起こすことを私たちは期待しています。
ジャポニスム2018の開催経緯
「ジャポニスム2018」は、日仏友好160周年にあたる2018年に開催することが両国首脳の間で合意されました。
企画にあたっては、国際交流基金の中に事務局が設置され、フランスのさまざまな文化機関と協働し、また両国政府及び民間企業の支援も得ながら開催準備が進められています。
ところで、現代の世に送り出す「ジャポニスム2018」は、どのようなコンセプトのもとに生まれたのでしょうか。その一つの答えは、自然を敬い、異なる価値観の調和を尊ぶ日本人の「美意識」です。
常に外部から異文化を取り入れ、自らの文化と響き合わせ融合させてきた日本人は、時に相反する価値観がぶつかりあいながらも調和し共存するところに「美」があると評価してきました。
日本文化の原点とも言うべき縄文や、伊藤若冲、琳派から、最新のメディア・アートやアニメ・マンガ・ゲームまで、舞台公演では、歌舞伎、能・狂言、雅楽から、現代演劇、初音ミクまで、さらには食や祭り、禅、武道、茶道、華道など日常生活に根ざした文化。このような日本文化の多様性、根底に流れる感受性や美意識は、現代の排他的で混迷度を深めている国際社会が抱える問題解決の糸口になるかもしれません。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、日本の地方の魅力もアピールし、訪日観光の促進や和食・日本酒、日本茶等、日本産品の海外展開に貢献したいと考えています。また、デザインやファッション、建築、テクノロジーなどの分野における創造力、むだを省いた「引き算」の美学なども世界を魅了する日本の文化といえるでしょう。
フランスが日本色に染まる
パリ市内を中心に20を越える会場で繰り広げられるすべての事業をここで紹介することはできませんが、いくつか代表的な企画についてお知らせしましょう。
まず開幕に先立って5月には、パリ市内北西部に位置するラ・ヴィレットにおいて、チームラボの《teamLab : Au-delà des limites(境界のない世界)》展が始まります。ラ・ヴィレット(1986年オープン)は、ジャック・ラング文化大臣(当時)が設立構想に携わった科学と文化をテーマにした施設です。まさにその当初のコンセプトに合致する日本の最先端テクノロジーとアートを駆使した展示が、大規模に開催されます。