安倍首相7年8カ月の“迷言集”をまとめたら、「やってる感」と「ごまかし」のオンパレードだった

2020年09月08日 03時00分39秒 | 社会・文化・政治・経済

9/7(月) 17:01配信

文春オンライン

8月28日、安倍晋三首相が突然の辞意を表明した。原因は持病の潰瘍性大腸炎。お気の毒だと思うし、快癒を願うが、それはそれとして安倍首相の7年8カ月の発言を振り返っておきたい。もうこんな政治はこりごりだからだ。

【画像】不規則発言で国会は騒然……自席から野次を飛ばした安倍首相

「頑張った人が報われる日本経済、今日よりも明日の生活が良くなると実感できる日本経済を取り戻してまいります」
首相官邸ホームページ 2012年12月26日

「日本を、取り戻す。」をキャッチフレーズとして打ち出して政権を取り戻した自民党。安倍首相は就任演説でこのようなことを言っていた。とても素晴らしい内容だが、7年8カ月経った今、はたして日本が本当に「頑張った人が報われ」「今日よりも明日の生活が良くなると実感できる」ようになったかどうか。とてもそうは思えない。

 安倍政権は「アベノミクス3本の矢」に始まり、「地方創生」「1億総活躍社会」「働き方改革」「全世代型社会保障」など、数々の看板政策を打ち出してきた。どれも「やってる感」はすごかったが明確な成果は出ていない。

IOC総会での“アンダーコントロール”発言
 景気回復は2018年10月をピークに後退期に入り、雇用は創出されたものの非正規労働者の割合が増えて賃金は上がらず、消費税は上がり続けて普通の人々の生活は貧しくなった。そこへ新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけ、安倍首相は辞任を発表した。

 さて、この7年8カ月の間、安倍首相はどのような言葉を残していたのだろうか?

「状況は、統御されています」
首相官邸ホームページ 2013年9月7日

 2020年の東京五輪誘致に向けた、安倍首相のIOC総会におけるプレゼンテーションは日本中を騒然とさせた。スピーチの冒頭で、「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています」と言い切ったのだ。「アンダーコントロール」という英訳も耳に残る。

 IOC委員からの福島第一原発の汚染水についての質問には「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている」と答えたが(ハフポスト日本版 2013年9月9日)、今なお汚染水の発生は続いており、浄化処理をした水を保管するタンクはまもなく満杯になる。処理した水の海洋放出も検討されているが、放射性物質は完全に処理しきれておらず、漁業関係者が強く反対しているという(東京新聞 2020年3月18日)。まったく状況はコントロールされていない。

特定秘密保護法の強行採決後には……
 事実はどうあれ、言い切ってしまう。そして、あとは追及されても知らん顔。これが安倍首相の常套手段である。

「私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと、反省もいたしております」
首相官邸ホームページ 2013年12月9日

 国内の多くの反対を押し切って強行採決をしたのが特定秘密保護法だった。NHKが行った世論調査では、国会で議論が尽くされたと思うかどうかについて、「尽くされた」が8%に対して「尽くされていない」が59%に達した(ハフポスト日本版 2013年12月9日)。

 そんな状況に対して安倍首相は記者会見で「真摯に受けとめなければならない」とし、「丁寧に」「説明すべきだった」と「反省」しているのだが、このような言葉は後に何度も繰り返されることになる。

 また、安倍首相は「今ある秘密の範囲が広がることはありません」と言い切ったが、特定秘密を記録した行政文書の廃棄は進んでいてチェックも十分ではない。さまざまな情報が闇から闇へ消えていっていることは、国民は後から知ることになる。

「我が党においては結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」
朝日新聞デジタル 2016年10月17日

 これはTPPを審議する国会での発言。「民主主義のルールにのっとっていくのは当然のこと」と胸を張ったが、前年9月の安全保障関連法案の審議では与野党議員が揉み合う中、採決を強行したばかりだった。どの口で言っているのだろう。

くすぶり続ける「モリカケ問題」
 TPPに関しては「TPP断固反対と言ったことは一回も、ただの一回もございません」(しんぶん赤旗 2016年4月9日)という発言もある。2012年の衆院選の際は「TPPへの交渉参加に反対!」「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」とポスターに明記されていたのはご存知のとおり。その後、日本はアメリカが離脱したTPPを主導してまとめあげた。

「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」
毎日新聞 2017年2月18日

 安倍昭恵夫人が名誉校長を務めていた学校法人「森友学園」の国有地払い下げ問題に関して、安倍首相が国会で放った一言は大きな波紋を呼んだ。「忖度」という言葉が注目を集める一方、とにかく証拠が出てきてしまったら安倍首相が議員辞職しなければいけないとあって、大規模な公文書の隠蔽、改ざん、破棄が行われ、改ざん作業を指示された財務省近畿財務局の職員が自殺に追い込まれた。

 安倍首相の「腹心の友」加計孝太郎氏が理事長を務める「加計学園」の獣医学部新設問題になると、「これは総理のご意向」と書かれた文書や「本件は首相案件」と書かれた備忘録などが飛び交った。安倍昭恵夫人が公開した安倍首相、加計氏らの写真につけられた「男たちの悪巧み」というフレーズも話題になった。

「モリカケ問題」と呼ばれて疑惑はくすぶり続け、安倍首相は「真摯に説明責任を果たしていく」「丁寧に説明する努力を積み重ねていく」と繰り返したが、まともな説明はなされないままだった。

一国の首相が国民を“味方”と“敵”に分断した
「こんな人たちに負けるわけにはいかない」
毎日新聞 2017年7月8日

 安倍首相は在任中、常に国民を「敵」と「味方」に分けてきた。議論したり説明を尽くしたりするよりも、自分の味方を集めて政権基盤を固め、異なる意見は排除する。野党が弱かったこともあり、それで十分選挙に勝つことができた。

 象徴的だったのが、17年7月の東京都議選、秋葉原駅前での街頭演説での発言。安倍首相は政権批判の声を上げる聴衆を指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を張り上げた。一国の首相が国民をはっきりと「分断」してみせたのだ。「味方」は手厚く遇し、「敵」は徹底的に干し上げる。「分断」と「排除」が安倍首相の一貫した政治手法だった。

 安倍首相の失言は東京都議選の惨敗を招くが、その後、北朝鮮のミサイル実験が始まると「Jアラート」を連発。10月の「国難突破解散」による衆議院総選挙で圧勝してみせた。

「次は私が(北朝鮮の)金正恩(キムジョンウン)委員長と向き合う番だと思っている」
朝日新聞デジタル 2018年8月23日

 安倍首相は北朝鮮による拉致問題を「政権の最重要課題」と位置づけ、解決に意欲を燃やしていたが、結局、解決の糸口は見いだせないままだった。

 2017年から繰り返されていたミサイル発射実験を契機に、北朝鮮に「あらゆる方法で圧力を最大限に高める」と強い態度で臨んでいた安倍首相だが、トランプ米大統領が2018年6月に金正恩委員長との会談を実現させると、途端に「私が向き合う番」と発言した。しかし、その後もトランプ大統領頼みだった感は否めない。

 2019年5月にも「私自身がキム委員長と条件をつけずに向き合わなければならないと考えている」と語ったが(NHK政治マガジン 2020年7月1日)、それまでの強硬姿勢への反発からか、北朝鮮側は取り合わなかった。

野党を叩いて支持率を上げようとした?
「悪夢のような民主党政権」
日刊スポーツ 2019年2月10日

「モリカケ」問題を経て、安倍首相は「悪夢のような民主党政権」と繰り返すようになる。民主党時代の混乱を印象づけ、弱体化していた野党を叩くことで政権の支持率を上げるよう画策したように見える。経済や外交などの政策で成果を上げていないことの裏返しのようでもある。

 ちなみに2012年の首相就任会見では、「過去を振り返っても、あるいは前政権を批判しても、今現在、私たちが直面をしている危機、課題が解決されるわけではありません」と話していた。2019年の段階で、安倍首相はかなり追い詰められていたのかもしれない。

北方領土問題も“やってる感”だけだった
「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」
FNNプライムオンライン 2019年9月6日

 北方領土問題も解決にはほど遠かった。安倍首相は交渉の過程で何度も「前進」「加速」「力強く」という言葉を繰り返したが、結局は「やってる感」の演出でしかなかった。

 27回も行った日ロ首脳会談は安倍首相がロシアへ行った回数が圧倒的に多く、「朝貢外交」と批判された。ロシアへの経済協力を約束し、4島返還から2島返還へ転換したが、その後、音沙汰がない。プーチン大統領は今年2月、自国の憲法改正にあたってロシアの領土を譲渡することを禁止すべきだという提案に「アイデア自体は気に入った」と発言している(NHK NEWS WEB  2020年2月14日)。

「幅広く募っているという認識でございました。募集してるという認識ではなかったものです」
日テレNEWS24 2020年1月28日

 また疑惑が噴出した。「桜を見る会」だ。「各界で功労・功績のあった方々を慰労する」という趣旨の会に、安倍首相は自分の支持者を大量に招いて私物化していた。2019年は8894人を招き、予算は5518万円。自民党関係者の推薦枠が6000人、安倍首相の推薦が1000人、「私人」である昭恵夫人の推薦枠もあった(産経新聞 2019年11月20日)。

 そもそも安倍首相は「桜を見る会」でこのように挨拶している。「皆さんとともに政権を奪還してから7回目の桜を見る会となった」(産経新聞 2019年4月13日)。自分の味方が集まる場所だったことは明確だ。

公文書破棄、国会でのヤジ、ご飯論法……
「募集」の意味がわかっていないかのような安倍首相の国会での珍答弁は失笑を招いたが、招待者名簿がシュレッダーで破棄されていた。公文書の破棄の常態化は安倍政権の負のレガシーと言っていい。 

「意味のない質問だよ」
読売新聞 2020年2月17日

「国会中継を子どもに見せたくない」と人々に思わせるようになったのも、安倍政権の負のレガシーかもしれない。

 これは今年2月、国会で「桜を見る会」について追及されたときに安倍首相が放ったヤジ。その他にも「日教組は(献金を)やっているよ」「早く質問しろよ」「まあいいじゃん。そういうことは」「反論させろよ」などと安倍首相のヤジは枚挙に暇がない。調べによると2019年だけで26回のヤジなど不規則発言が記録されていたという(毎日新聞 2019年11月7日)。

「私が話しているのは真実。それを信じてもらえないということになれば、予算委員会が成立しない」
朝日新聞デジタル 2020年3月31日

 安倍政権の大きな特徴は国会の軽視だ。議論するための委員会を開かない、資料の公開を拒否する、疑惑のある政治家が出てこないなどなど……。「モリカケ問題」の頃から、国会での質疑で質問に答えているふりをして、論点をずらしたり、はぐらかしたりする「ご飯論法」も話題になった。話の帳尻がつかなくなれば、公文書を廃棄、改ざんする。

「堂々と嘘をついてもいい」と知らしめた政権
 自分たちの利益のため、目先の結果のためなら、堂々と嘘をついてもいい。それを多くの日本人に知らしめたのが安倍政権だったと言えるだろう。結果のためならプロセスは不透明でも構わない。そこには法秩序も倫理観もない。その現れが「桜を見る会」の前夜祭についての質疑への安倍首相の答えだ。「私が話しているのは真実」。つまり、自分が正義、自分が法ということだ。

 検察幹部の定年延長問題に火がついたのはこの頃のこと。新型コロナウイルスの感染拡大と政府の初動の鈍さ、そしてその裏で何かがまた蠢いていることに気づき、国民も「いい加減にしろ」という気分になってきていたのだろう。

「友達と会えない。飲み会もできない」
安倍氏のツイッター 2020年4月12日

 安倍政権に大きなダメージを与えたのは新型コロナウイルスの感染拡大だ。政策は迷走し、経済は完全に頭打ちになった。

 そんな中、日本中を仰天させたのが、安倍首相が放った“コラボ動画”である。国民が不十分な給付や補助に苦しむ中、自宅とみられる私室で犬とのんびりくつろぐ安倍首相の姿に「貴族か」などと猛批判が浴びせられた。

1カ月以上も途絶えた記者会見
 動画に添えられた一文の「友達と会えない。飲み会もできない」も豪華な会食ができない安倍首相の嘆きのようだった。疑惑渦巻く中、コロナ禍で中止になった「桜を見る会」がちょうど1年前の4月13日に行われていたのだから、勘ぐられても仕方がない。

「マスク市場にインパクトがあったのは事実」
産経新聞 2020年4月28日

 後手にまわるコロナ対策への批判が続く中、安倍首相が打ち出した乾坤一擲の政策は「アベノマスク」だった。佐伯耕三首相秘書官が「全国民に布マスクを配れば不安はパッと消えますよ」と発案して決定したという(『週刊文春』4月16日号)。マスク市場にはどうだったかわからないが、国民にはすさまじい「インパクト」だった。税金を466億円も投入したわりに品質もイマイチの上、調達の不透明性も報じられた。

 6月17日、検察庁法改正案が廃案になる。「#検察庁法改正案に抗議します」のツイッターデモの影響もあったようだ。そして6月18日以降、安倍首相の記者会見は1カ月以上途絶えることになる。首相周辺からは「会見しても良いことは何もない」という声が漏れていたという(時事ドットコムニュース 2020年7月25日)。

安倍政権の「負のレガシー」を一掃しなければならない
 安倍首相は、これまで何度も難局を乗り切ってきた「なにもしない戦略」(疑惑が発生したときは極力、発信を控えて忘れた頃に選挙に打って出る)を繰り返そうとしたのかもしれない。しかし、一向に収束しないコロナ禍の中で、今回ばかりは忘れてもらえなかった(松谷創一郎「 日本人の“忘却癖”を利用した安倍政権のイメージ戦略──安倍ポピュリズムの実態とは 」)。

「レガシーは国民の判断すること。歴史が判断していくことだと思う」
日刊スポーツ 2020年8月29日

 辞任会見でこう語った安倍首相。今後、外交や安全保障などについて、安倍政権のレガシーが評価されることがあるかもしれないが、同時に森友・加計問題、公文書改ざん問題、桜を見る会問題、河井夫妻問題などについての追及も行われなければいけない。

 なにより、「嘘」「ごまかし」「不公正」など、安倍政権の「負のレガシー」を一掃する必要がある。それは我々国民の役割である。

大山 くまお

 

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デモはちょっと…日本人の多くが「政治的主張」をしない理由

2020年09月08日 02時43分21秒 | 社会・文化・政治・経済

2018.03.29 49 

引地達也『ジャーナリスティックなやさしい未来』

テレビやネットではいつでも最新ニュースを無料で見ることができ、コンビニなどで手軽に新聞を買うこともできる日本。

しかし、メルマガ 『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんによると、日本人は英独米に比べ、個人的に信じている「マイ・メディア」がなく、さらに市民の政治的関心も薄いとのこと。そこから浮かび上がる日本の大きな問題とは、一体何なのでしょうか。

「マイ・メディア」で浮かび上がる日本の問題

日本は新聞大国であり、NHKは全国の津々浦々で放送され、民放テレビ局も地方ローカル局を通じて、日本各地で同時に同じ番組を見ることができる。

これらメディア環境は、やはり観る側の一定の信頼があるから成り立っているはずだから、日本人はメディアへの信頼が高い、と考えられがちである。

しかしながら、東京大大学院の林香里教授の『メディア不信』(岩波新書)で紹介されたロイタージャーナリズム研究所による国際比較を見ると、実は私たちの社会はメディアに対し、一定の信頼をしているものの、個人的に信じられるまたは信じている「マイ・メディア」も持っていないことが指摘されている。

同調査によると、36か国に「ほとんどのニュースをほぼ信頼するか」を質問したところ、日本は43パーセントが「信頼する」と答えたが、これは英国と同順位の36か国中17位。

ドイツは50パーセントで7位だった。

しかし、質問が「あなたは、あなたが利用しているほとんどのニュースをほぼ信頼するか」で「信頼する」のは、日本が44パーセントで36か国中28位、英国は51パーセントで19位、ドイツは58パーセントで6位、米国は53パーセント13位である。

つまり、英独米は日本よりも「自分が信じるメディアがある」ということであり、それは結果的に昨今の分断を導いているという指摘がある。

林教授は「米国のようにメディア一般への信頼と、自分が利用するメディアとの信頼の間に大きなギャップがあることは、すなわち、メディア市場全体が分断されており、そこに強い党派性が存在することを意味する」と説明している。

自分が「信頼する」メディアである「マイ・メディア」を持たない日本は、マイ・メディアを持つ欧米が結果として惹き起こされている「分断化」までに至っていないのはよいことではある。

しかし見方を変えると、信じられるマスコミュニケーションの不在でもあり、市民の意見が反映したメディアがないことは、市民の政治参加の素地が形成されにくいことにつながっているともいえる。

伝統的なキリスト教社会に根付いている欧州、自由と正義の価値観とともにやはりキリスト教に大きな影響を受け居ている米国もどちらも「信頼する」ものを持ったうえで、日々活動し、自分の生きる規範のようなものにしていくのは、習慣化されている。

その上で党派性は、自分が社会の中で生きていることに自覚的になっていることであり、自覚的になればこそ、自分の生活の制度や枠組みを決めている政治の動向も気になることになる。

私がドイツや韓国で住んだ時に感じたカルチャーギャップは、誰もが政治的な意見を持っており、会社員も主婦も同じように政治的な主張をすることであった。

しかし、日本では市民が政治的な主張を積極的にすることはない。国会前のデモも最近は一般の方が参加するようになったものの、広く市民が気軽に参加するものになっていない。

伝統的なメディアの作り手が、社長にも会社員にも家事をする主婦にも分かりやすいニュースを届けようとするばかりに、平板化された形に収めてしまう傾向がある。

とはいえ、電車に乗れば大半がスマートフォンやタブレットで、何らかの情報に触れているのを見ると、それはデバイス(装置)としてマイ・メディアの定着は明らかで、自然と触れ合う情報は「自分が好きなコンテンツ」になってくるから、知らずのうちにマイ・メディアが形成されているはずである。

国際比較で、それが「ない」とする私たちの問題は、メディアが発信するコンテンツの問題とそもそもの政治に期待していないあきらめと無関心が根本にあるのも気付かされる。

image by: picture cells / Shutterstock.com

引地達也この著者の記事一覧 
特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

 


「日本では暴動が起きない」の伝説が崩れる日

2020年09月08日 02時40分44秒 | 社会・文化・政治・経済

元日銀審議委員が語る日本経済の近未来

沢木 文 : Writer&Editor 


2017/09/24 18:00


日本銀行による「異次元緩和」と「東京五輪開催」という2つの好材料によって、円安・株高や不動産価格の高騰に沸く日本経済。ところが、多くの人々の給料は上がらず、円安の影響などにより、生活必需品が値上がりして、生活は苦しくなるばかり。庶民の多くは、生活が楽になったという実感がないばかりか、貧富の差がますます拡大したと、不満に思っているのが現状だ。

驚くことに、日本はもはや先進国有数の「貧困大国」なのだ。諸外国に目を向けると、貧困問題を背景とした暴動が多発している。そうであれば、日本でも暴動が起きてもおかしくないはずだが、日本では、暴動らしい暴動は起きていない。

ではいったい、それはなぜなのか。『東京五輪後の日本経済』(小学館)を著したばかりの元日本銀行政策委員会審議委員の白井さゆり氏に、その実情を聞いた。

なぜ日本では暴動が起こらないのか


元日本銀行政策委員会審議委員の白井さゆり氏(写真:小学館)
今、世界のあちこちで、デモや集会が暴動へと発展し、警察官と衝突しているニュースなどをよく見かける。しかし、日本ではそのようなニュースを見ることは、ほとんどない。東京都心の繁華街や国会周辺などで生活苦を訴えるデモなどが起こることもあるが、それは決して、暴力的なものではない。

ではなぜ、日本では暴動が起こらないのだろうか。

白井氏が言う。「世界で起こった暴動の背景を見ると、そこには人種や宗教による大きな差別問題が存在することが多いのが現状。しかし、日本では、人種や宗教の差別問題が大きくはないため、そもそも暴動を起こしてまで、社会に対する不満を爆発させようという人が、諸外国と比べて多くはないのです」。

それでは安心できるのかといえば、そうではない。人種差別や宗教差別と並んで、暴動の大きな原因となる「貧困問題」については、日本は決して安心できない状況にあるのだ。

一国の中で一定基準以下の収入しか得られていない人の割合を示す「相対的貧困率」を見ると、日本は先進国などから構成されるOECD(経済協力開発機構)加盟国35カ国の中では第4位、主要先進国の中では、アメリカに次ぐ第2位の「貧困大国」であるというのも、まぎれもない事実。

こうしてみると、日本でもいつ、暴動が起きてもおかしくはないともいえそうだ。暴動が起きないのはなぜか。

日本における「3つの貧困層」

白井氏は、日本の主たる貧困層が諸外国にはない大きな特徴を持っているからだと分析する。

「日本には主に、次の3つの貧困層が存在します。いちばん割合が大きいのは、ひとり暮らしの高齢女性です。昔の女性は専業主婦が多かったため、配偶者が亡くなった後は、国民年金だけで生活している人も少なくありません。わが国では、そうした人たちが貧困に陥るケースが非常に多く、日本の貧困の典型的な形といえます」

「その次に多いのが、若い人たちの中で、自由を求めて定職に就かない人たちが貧困に陥るケースです。フリーターなどを続ける若者などが、その典型です。さらには、数としては少ないものの、シングルマザーによる貧困問題も深刻です。シングルマザーの場合には、子育てと仕事を両立させるために、パートタイマーなどを選ばざるをえないため、貧困に陥る可能性が非常に高くなるという傾向があります。しかし、彼らの性質上、なかなか暴動を起こす存在にはなりにくいといえます」

なるほど、高齢の女性が、生活が苦しいからといって、積極的に暴動を起こす存在になるかといえば、それは考えにくい。自由を求めてあえて定職に就かなかった若者たちは、自分の意思決定の結果として貧困に陥ったともいえるため、社会に対する大きな不満を持ちにくいのも理解できる。3番目の貧困であるシングルマザーの場合、子育てと仕事に追われており、そもそも暴動を起こす余裕などない、ということなのだろう。

しかし、日本銀行がデフレ脱却の目標として掲げた「物価上昇率2%」というインフレが日本でもし本当に実現したとしたら、いったいどうなるのだろうか。白井氏は、賃金が上がらない庶民や貧困層の生活が今よりもさらに苦しいものとなることは確実だという。

 
『東京五輪後の日本経済: 元日銀審議委員だから言える』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「2017年9月時点では、物価上昇率2%という


『東京五輪後の日本経済: 元日銀審議委員だから言える』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
「2017年9月時点では、物価上昇率2%というインフレ目標には、ほど遠い状況にあります。ところが、これから本格的なインフレが進行するとすれば、貧困問題は、今よりさらに深刻になる可能性があります。今の状態でギリギリやっていけているという人たちからすると、食料品や家賃が本格的に値上がりをはじめたら、生活はますます苦しいものになっていくからです。貧困層の間からは、それこそ我慢の限界を超えて、悲鳴が上がるかもしれません」

「実際、2015年の半ばに1ドル125円を超える円安が進行した際、あちこちから『生活が苦しい』という声が出ました。ただ、当時はその後に為替が円高方向に反転し、さらに昨年はじめには原油価格や食料価格が大きく下がり、物価が下落に転じたこともあって、大きな社会問題とはなりませんでした」

「つまり、皮肉なことに、日本銀行が望むインフレにはなっていないことが、逆に貧困層の救いになっているのです。しかし、日本で今後、本格的なインフレが進行することになれば、これまで我慢を重ねてきた貧困層も、ついに我慢の限界に達して立ち上がり、日本でもいよいよ暴動が起こるかもしれません。そうした事態を引き起こさないためにも、政府や日本銀行は、単に『物価上昇率2%』目標にこだわるばかりでなく、今からしっかりとした対策を考えておくべきなのです」

このまま無策のまま本格的なインフレが進行してしまえば、日本でも貧困層による暴動が起きるかもしれないのだ。われわれは元日銀審議委員の「警告」を真剣に受け止めるべきだろう。


ベラルーシ、633人を拘束 4週連続で抗議集会 10万人以上がデモ

2020年09月08日 02時19分31秒 | 社会・文化・政治・経済

9/7(月) 13:14配信

毎日新聞

大統領官邸付近に集まる抗議活動の参加者=ベラルーシの首都ミンスクで8月30日、AP

 大統領選の結果に対する抗議活動が続く旧ソ連のベラルーシでは6日、各地で抗議集会が開かれ、インタファクス通信によると、首都ミンスクでは10万人以上が抗議デモに参加した。日曜日に行われる大規模な抗議活動は4週連続。政権側は対決姿勢を強めており、デモ終了後に取り締まりを実施し、内務省は全国で633人を拘束したと発表した。

【別カット】歩を進める抗議デモ参加者ら

 ミンスクでは6日朝から治安部隊が中心部に展開し、内務省は無許可の集会に「すべての必要な措置を取る」と声明を出した。だが、午後になると市内各地からデモ隊が集結。多くは先週に続き、大統領官邸近くまで行進し、ルカシェンコ大統領の退陣を求めた。

 デモ参加者の多くが解散した夕方になると、官邸前では催涙ガスがまかれたとみられ、治安部隊による拘束が始まった。地元メディアは、治安当局の関係者とみられる私服姿の集団が逃げる市民を警棒で殴りつけたり、喫茶店の窓を割って客を拘束したりする様子なども報じている。地元人権団体は6日夜時点で、ミンスクで少なくとも約200人が拘束されたとしている。

 ルカシェンコ氏については、ロシアのプーチン大統領が8月29日に「我々は選挙の正当性を認める」と支持する姿勢を明言。隣国の後ろ盾を得たルカシェンコ政権は強硬姿勢を強めており、学生による大規模なデモが起こった1日も100人以上を拘束。抗議活動を取材する独立系メディアの記者を「無許可の集会に参加した」として拘束する事例も相次ぐ。

 一方、隣国リトアニアに脱出した、大統領選の対立候補だったチハノフスカヤ氏は4日、テレビ会議形式で行われた国連安全保障理事会の非公式会合に参加。「国連に治安当局の行き過ぎた実力行使への非難を求める」と訴え、監視団の派遣を要請した。9日にはポーランドでモラウィエツキ首相らと面会を予定しており、国際社会への働きかけを強めている。【前谷宏】

 

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「死因不明遺体にもPCR検査を」変死体と向き合う女性法医学者の警告

2020年09月08日 02時19分31秒 | 医科・歯科・介護

9/3(木) 11:16配信

プレジデントオンライン

千葉大法医学教室の永澤明佳氏 - 写真提供=千葉大法医学教室

死因が分からない変死体にPCR検査を続ける女性研究者がいる。千葉大学附属法医学教育研究センター助教の永澤明佳氏は「新型コロナの感染が広がっても、変死体への感染状況は調べられないままの状態が続いている。ウイルスの実態を明らかにするためにも死者のPCR検査こそ必要だ」という。ジャーナリストの柳原三佳氏が取材した――。

【写真】千葉大法医学教室の永澤明佳氏

■変死体が「感染していない」とは言い切れない

 ――法医学教室には事件や事故、孤独死などによる「変死体」が運ばれてきます。千葉大学では全国に先駆けて、変死体にPCR検査をしています。いつから始めたのですか。

 【永澤】そろそろ緊急事態宣言が出るらしい、という話が出始めた3月後半です。

 法遺伝学者(法医学領域のDNAを扱う研究者)であり、歯科法医学者の斉藤久子先生と共に、「警察から運ばれてきたご遺体のPCR検査は、法医学教室でできるようにしておかなければならない」と思い立ち、二人で相談しながら、PCR検査機器のメンテナンスや試薬の発注など、準備を始めました。

 保健所や衛生研究所は、現在もそうですが、生きている患者さんのPCR検査で精いっぱいでご遺体にまでなかなか手が回りませんので。

 ――変死体にもPCR検査が必要だと思った理由は何ですか。

 【永澤】警察が「異状死」として取り扱うご遺体の中には、はっきりした死因がわからないまま自宅で亡くなっている人や、屋外で倒れて発見されるケースが多いのですが、そうした方の中にも新型コロナウイルスの感染者が含まれている可能性があると思ったからです。

 ――感染を認識しないまま、病状が悪化して亡くなる方もいるのですね。

 【永澤】そのとおりです。発熱したらすぐに病院へ行って受診する、また、症状が出る前からPCR検査を受けようと思う人は意識の高い人ですが、体調が相当悪くても病院に行かないで我慢する人はかなりおられるのです。

■感染リスクにさらされる警察官、検視官、警察医、法医学者……

 ――実際に、『変死体のコロナ感染11件…5都県、1か月間で』(2020.4.21/読売新聞)という報道がありました。記事によると、死後に感染が発覚した方の多くは自宅で倒れている状態で見つかったとか。

 【永澤】北千住駅近くの路上で倒れていた方もおられたようですね。

 ――5月には群馬で「交通事故後に救急搬送され死亡→コロナ感染判明」というケースもありました。

 【永澤】変死体として法医学教室に運ばれてくる遺体にも検査をする必要があります。死後CTで肺炎は見つけられたとしても、それが新型コロナウイルスかどうかは、解剖とPCR検査をしてみなければわかりません。

 ――死因不明の変死体に触れる先生方のような仕事は、感染が心配ですね。

 【永澤】はい。われわれの仕事は、常にさまざまな感染症のリスクにさらされています。私自身は今、4歳と2歳の子どもの子育て中ですが、もし、自分がご遺体から感染して子どもにうつしてしまったらどうしようという不安は常にありますね。また、現場でご遺体にファーストタッチする警察官や検視官、警察医も特に危険です。

 ――遺体の場合、PCR検査に使う検体はいつ、どのように採取するのですか。

 【永澤】鼻咽頭を拭ったり、解剖時に肺から組織をとったりして、それを使います。

■感染の有無も分からずに遺体に触れる現状

 ――PCR検査の結果は、解剖が終わってから出るのですか? 

 【永澤】本来は、解剖医やスタッフの安全を守るためにも、解剖の前に感染の有無を検査するべきです。特に、今回の新型コロナは、未知のウイルスによる新規感染症ですので……。

 しかし、残念ながら今の日本ではそういう流れにはなっていないので、死後CTで肺炎が疑われる場合は、防護服などを着用して感染症対策を行ったうえで解剖しています。

 ――千葉大法医学教室ではこれまでに何体分のPCR検査をしたのでしょうか。

 【永澤】8月28日現在で77体ですが、これらは生前の症状の有無にかかわらず検査を行いましたが、今のところ陽性者は出ていません。

 ――陽性の結果が出たらどう対応するのですか。

 【永澤】まずは結核と同様、保健所に連絡します。その後、ウイルスの専門家がいらっしゃる東大医科学研究所に、ご遺体から採取した検体や血液を送り、死後、ウイルスの感染力がどのくらい続くのかを分析していただきます。

 ――現在、変死体のPCR検査をしている法医学教室は、千葉大以外にもありますか。

 【永澤】全国で7~8カ所だと聞いています。

 ――日本国内では、変死体のPCR検査がほとんどできていないのでは。

 【永澤】そうですね。どこの大学も、国や県から検査をするよう指示を受けているわけではなく、あくまでも独自の判断で行っているというかたちになります。

 他の法医学教室では、すでに新型コロナ陽性のご遺体が出ていると聞いています。やはり、検査をしておくことは大切だと痛感しています。

■「善意」に頼る遺体へのPCR検査の実態

 ――PCRの検査機器をそろえる費用はどれほどかかりますか。

 【永澤】多くのメーカーからさまざまなグレードのPCR検査機器が販売されていますので一概には言えませんが、1台350万円から500万円です。試薬も意外と高く、50反応分で15万~25万円です。

【永澤】もちろん、50回で50人分の検査ができるわけではありません。1体につき2~3カ所の反応を見る場合がありますので、50反応分の試薬でも25体分しかできないということになります。作業を行う安全キャビネットは、サイズにもよりますが200万円くらいです。

 ――「安全キャビネット」とはどのようなものですか? 

 【永澤】バイオハザード(生物学的な危害要因)を封じ込めるための“箱”のようなものです。検体の感染症から作業者の身を守るために箱の中を陰圧にし、上部にHEPAフィルターをつけ、病原体が箱外に漏出しないようにしたものです。

 この箱の中で検査をすれば、作業者への感染を防ぐことができますし、検体をクリーンな空間で扱うことができます。

 ――3月時点で、千葉大の法医学教室には、すでに設備があったのですね。

 【永澤】はい。実は偶然なのですが、今から12年前、私自身が修士課程から博士課程へ進学する際、担当の教授から「何か研究に必要なものはありますか? 」と聞かれたので、「リアルタイムPCRの機器が欲しいです」とお願いし、購入してもらっていたのです。

 おかげさまでそれが今、想定外の場面で活躍してくれることになりました。

■国も県もお金は出さない……PCR検査は大学の経費

 ――法医学教室で行われたPCR検査の費用は、国や県から支払われるのでしょうか。

 【永澤】実は、ご遺体のPCR検査費用は、今のところどこからも出ません。そのような法律も、規則もないんです。私たちが現在行っているPCR検査については完全に無償で、大学の経費で賄っています。どこかに請求しようという予定もありません。

 ――どこからも費用が出ないのですか? 

 【永澤】はい。日本ではこれまで、ご遺体に対する各種検査や経費負担の議論がほとんど行われてきませんでした。ちなみに、日本で死亡したアメリカ人のご遺体を空輸して母国に返す際は、PCR検査をして陰性でなければならないそうです。他国では死者に対してもそれくらい慎重になっているのですが。

 ――警察の科捜研などでは変死体のPCR検査をしているのでしょうか。

 【永澤】検視官から科捜研へ要望はあったようですが、ほとんど行っていないと聞いています。

 警察の場合は犯罪捜査がメインなので、「感染症のPCR検査は実施しない」という判断は正しいと思います。科警研や科捜研で行っているDNA検査は、あくまでも物体検査や個人識別のためですので、今回のようなウイルス検出とは目的が異なります。

 ――国内で見つかった変死体のPCR検査やウイルスに関する研究は、ごく一部の法医学教室に委ねられているということですね。

 【永澤】たしかにこのままでは深刻だと思いますが、今回の新型コロナの感染拡大をきっかけに、国も少しずつ私たちの声にも耳を傾けてくれていますので、今後に期待したいです。

■「PCR検査に過度な期待をするべきではない」

 ――メディアなどでは盛んに「PCR検査をもっと増やすべきだ」といった声が上がり、最近は検査数も増えてきています。これは、死者ではなく、生きている人の話ですが、この現状をPCR検査の専門家としてどう思いますか。

 【永澤】検査数を増やすこと自体は悪いことではありませんし、症状がある人に対しての確定診断としては有効です。ただ、PCRの結果に一喜一憂するのはどうかと思います。

 【永澤】すでにメディアでも指摘されているように、PCR検査は「陰性の証明」にはなりません。検体をとるタイミングが問題で、1日ずれると結果が異なります。そのため、「陰性だから大丈夫だ」と、検査結果が安心の材料として使われるとしたら、逆に危険です。

 そもそも、PCR検査の正確さは70%程度と言われており、100%の結果を出せる検査ではありません。また、得られた結果をどう扱うかということも重要で、その判断を行う上で必要な基礎的データを収集・解析する必要があるのです。

 とにかく、PCR検査に過度な期待をするべきではありません。

 ――初感染の確認から半年以上たちましたが、データの集まり具合はいかがですか。

 【永澤】まだまだ十分とは言えないと思います。自動のPCR検査機器が次々と導入されていますが、かといって誰もがすぐに扱えるとは思えません。

 今回の新型コロナは「RNAウイルス」なので、まずは検体からRNAを抽出し、そのあとに「逆転写PCR」(RT-PCR,Reverse Transcription-PCR)をするのですが、実際には繊細な作業を間違いなく行えるだけの手技が必要で、豊富な経験が要求されます。

 検体をとる際にも慣れていない人の場合は不安ですね。

■遺体への「検査」を軽視すべきでない

 ――失敗がありうるということですか? 

 【永澤】生きた方の検査では鼻咽頭をぬぐうとき、患者さんが痛がって顔をそむけることがあるのですが、慣れない人が行うと、まったく検体がとれていないことがあるようです。遺体ではこのような心配はありませんが、採取場所や採取方法を統一しておく必要があります。いざというとき、正確な検査を行うためにも、人材の育成は不可欠です。

 ――新型コロナ感染症で亡くなった人や感染の疑いのある遺体の取り扱いについて、マニュアルの作成にも協力したそうですね。

 【永澤】はい。現在、医師、法医学関連の歯科医師、薬剤師、葬祭業者さんや火葬業者さんまで、人の死にかかわるさまざまな分野の専門家と連携し、感染症で亡くなった方に接するための、かなり具体的なマニュアルが作成されました(※)。私はその会議に参加させていただきましたが、国の方も協力的です。こうした「マニュアル」はもちろん、人も機器も防護用品も有事に備えてしっかり備えておくべきです。

 ※日本医師会総合政策研究機構「新型コロナウイルス感染症 ご遺体の搬送・葬儀・火葬の実施マニュアル 第5訂」(2020年6月)

 死因不明の遺体もしっかりと検査して、感染の有無を調べること、そのデータを蓄積していくことが大切です。

 もし、ご遺体からウイルスが検出されたら、その方のご家族や濃厚接触者、遺体に触れた警察官や検視官、葬儀関係者などへの感染の有無を検査することができ、思わぬ感染拡大を食い止めることにもつながります。

 生きている人へのPCR検査も大切ですが、死因不明のご遺体へのPCR検査こそ、しっかりと行うべきではないでしょうか。

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永澤明佳(ながさわ・さやか)
薬剤師/法遺伝学者、法中毒学者、千葉大学附属法医学教育研究センター助教
薬学部生時代に細菌学とウイルス学に興味を持ち、2006年、千葉大学法医学教室へ入局、2012年、「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)」の持つ毒素の遺伝子多型を利用した身元不明死体の出身地域推定の研究で博士号を取得。現在は、DNA型鑑定やLC/MS/MSなどの機器を用いた薬毒物検査などの実務をこなしながら、DNAや薬毒物関連の研究を行っている。
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柳原 三佳(やなぎはら・みか)
ジャーナリスト・ノンフィクション作家
1963年、京都市生まれ。ジャーナリスト・ノンフィクション作家。交通事故、死因究明、司法問題等をテーマに執筆。主な作品に、『私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群』(講談社)、『自動車保険の落とし穴』(朝日新書)、『開成をつくった男 佐野鼎』(講談社)、『家族のもとへ、あなたを帰す 東日本大震災犠牲者約1万9000名 歯科医師たちの身元究明』(WAVE出版)、また、児童向けノンフィクション作品に、『泥だらけのカルテ』『柴犬マイちゃんへの手紙』(いずれも講談社)などがある。■公式WEBサイト

ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原 三佳

 

 

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なぜ死んだ…遺体2900体を調べてきた医師の思い 警察から突然、死因判断の依頼 病死女性に殺害の痕が

2020年09月08日 02時12分03秒 | 事件・事故

9/7(月) 11:09配信

埼玉新聞

「死因をはっきりさせてあげないと死者が浮かばれない」と検案への思いを語る栗原平医師=7月下旬、富士見市羽沢の栗原医院

 人が亡くなったとき、事故死や変死、病気でも突然死などの場合は警察が事件性の有無や死因を調べる検視を行う。埼玉県富士見市の医師栗原平さん(68)は1994年から約26年間、警察嘱託医として、主に東入間署管内で遺体の外表所見から死因を判断する「検案」を行ってきた。これまでに警察の要請を受けて検案した遺体は約2900体。「なぜ死んだのか分からないと浮かばれない。死者の人権を守るため」と、医学的な立場から死因の究明に当たっている。

中1自殺、涙浮かべる母…紙に「ありがとう」 亡くなる当日、家出る息子見送る「既に決めていたのだろう」

 富士見市羽沢の閑静な住宅街。緑に囲まれた一角に「栗原医院」はある。専門は救急科、脳神経外科など。栗原さんは院長として1日数十人の外来患者や救急患者を診療する傍ら、遺体のある現場や警察署に赴き、検案を行っている。扱う検案は年間150件近く。もちろん警察の要請はいつ来るか分からない。

 多くの場合は警察の検視で死因は推定できる。警察嘱託医はその上で医学的な知見をもって外表所見などから判断する。遺体に傷があるか、どこにあるか、どういう傷か。警察が遺族らから聴取した内容に沿って病歴を確認することも重要だ。「殺されたのに病死にされたら、たまらない。人を戸籍から抹消するわけだから、いいかげんでは済まされない」。最終的に死体検案書を発行し、死亡を証明する。

 東京や大阪など大都市では専門の監察医がいて、検案のほかに死因を特定するための解剖を行う。埼玉などの警察嘱託医には解剖の権限がなく、検視や検案に応じて必要があれば、警察が特定の医療機関に解剖を要請する。だからこそ「警察が病死と言っても、その中に何かがある可能性がある。自分で責任を持たないといけない」と自覚する。

 78~81年、都内の検案を一手に引き受ける東京都監察医務院に勤務していた時、殺害の痕跡を発見したことがあった。病死の疑いで運ばれた30代の女性。解剖したところ、脳にも心臓にも悪いところはない。「よく見ろ。首に絞められた痕がある」。時間が経過して血液が抜けると、痕が出てくることがあるという。「死因不詳で済ませたら、どうなっていたか。見落としで完全犯罪が成り立つことがあってはならない。僕らが最後のとりで。自分の立場で防ぎたい」と考える。

 当時の専門は法医学。しかし、「人が死んでからではなく、亡くなる前にどうにかしたい」と脳神経外科医になった。その後、時代が平成になり、「自分の名前(平)が入っていて、自分で何かをやらないといけないと思った」と90年、出身地の富士見市で開業した。

 警察嘱託医の不足もあり、地域の医師会を通じて依頼を受けたのが94年。以来、遺体の検案に加え、東入間署員や留置人の健康診断にも携わってきた。昨年には、25年にわたり警察活動に貢献したとして、警察庁長官名で贈られる民間人への最高位の表彰「警察協力章」を受章した。

ベテランの警察嘱託医として、近年目に付くのは、人目に触れず死亡から時間が経過した遺体。腐敗してしまうと死因究明は難しい。「孤独死が増えているように感じる。今は近所付き合いも少なく、独居の人も多い。これからますます増えてくるのではないか」と危惧する。管内には鉄道路線もあり、電車に飛び込む自殺者も後を絶たない。

 変死を少しでも減らしていくため、実態を知ってもらおうと、セミナーや学校での講話も引き受けている。「人が死んだらどうなるか。もう少し知ってほしい。人が死ぬことにふたをしないで。それが社会の一面だから」。引き続き死因の究明に携わりながら、変死を減らすために何かできないか、医師の立場から人間の生と死を見つめ続ける。

■警察嘱託医

 警察の捜査に協力し、遺体を調べて死因を医学的に判断する死体検案を行う医師。県警の嘱託医は今年4月1日現在91人。2019年に自宅や路上などで亡くなり、県警が取り扱った遺体は9847体。うち医師が検案したのは42・1%に当たる4145体だった。県警が扱う遺体は増加傾向にあり、1994年は3746体、2003年は6900体。この10年間は約9千体で推移している。

 

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阪神】「今日は近本で負けた」 矢野監督、“大暴投”で決勝点献上の近本に奮起求める

2020年09月08日 02時09分19秒 | 野球

9/7(月) 21:48配信

スポーツ報知

3回、捕手の頭上を大きく越える悪送球で先制を許した近本

◆JERAセ・リーグ 阪神2―3巨人(7日・甲子園)

 阪神・矢野燿大監督(51)が、手痛い失策を犯した近本光司外野手(25)に、名指しで奮起を求めた。

 大きなミスが飛び出したのは0―0の3回1死満塁。

巨人・松原の打球はセンターへの浅い飛球となった。三塁走者の大城はタッチアップでの生還を一度諦めたが、近本がホームへまさかの“大暴投”。バックネットにワンバウンドで当たる悪送球となり、これを見て大城が生還した。

また、4回1死二、三塁からは大城の中犠飛で追加点を奪われた。この場面、近本の本塁送球は3バウンドとなっていた。

 試合後、指揮官は「今日は近本で負けたかなと思っています」と一言。その上で「ただ僕はいつも『終わったことは変えられない。これからは変えられる』と選手に言っているので。近本自身が成長して、残りの試合でどうやってチームを勝たせていくか。そういうことが求められる」と期待をかけた。

 今季の失策数は巨人の16(12球団最少)に対し、阪神は両リーグ最悪の51。3倍以上の数字となっている。昨季も12球団ワーストの102失策を犯したが、今季も課題を克服できず、4連戦は1勝2敗(6日は雨天中止)と負け越し。首位・巨人とのゲーム差は8・5に広がり、さらに3位転落となった。

報知新聞社

 

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阪神 今季50失策目で先制点献上 近本の本塁送球が“大暴投”

2020年09月08日 02時04分12秒 | 野球

9/7(月) 18:50配信

スポニチアネックス

<神・巨>3回1死満塁、松原の中飛を捕球した近本は本塁へ悪送球し1点を失う (撮影・後藤 大輝)

 ◇セ・リーグ 阪神―巨人(2020年9月7日 甲子園)

 阪神はまさかの形で先制点を許した。

3回1死満塁、近本の悪送球で失点し厳しい表情の高橋

 先発の高橋が3回に1死満塁とピンチを迎え、打席に迎えたのは松原。2ボールから浅い中飛に打ち取り、犠牲フライは免れた…かに思われたが、中堅手・近本の本塁への送球が捕手の梅野を越える“大暴投”。

それをみた走者がそれぞれ進塁し三塁から大城が生還した。記録は近本の失策。チーム今季50失策目で痛すぎる先制点献上となった。

 

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