2021年12月16日 BBC NEWS
ダン・ローアン・スポーツ編集長
国際スポーツの世界では近年、人権問題が繰り返し取り沙汰されている。だが、主要大会の開催地で、北京ほど議論を呼んでいるのは珍しい。
北京は2022年冬季オリンピックの開催都市だ。同オリンピックには、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどの国々が「外交ボイコット」を表明している。中国でウイグル族が残虐行為を受けているとの訴えが、広く出ていることが理由だ。
人権団体と欧米の政府は、中国が新疆地区で大虐殺を実行していると非難している。一方、中国はこれを否定。現地に広がる収容施設は、ウイグル族などのイスラム教徒に対する「再教育」が目的だと説明している。
北京は2022年冬季オリンピックの開催都市だ。同オリンピックには、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどの国々が「外交ボイコット」を表明している。中国でウイグル族が残虐行為を受けているとの訴えが、広く出ていることが理由だ。
人権団体と欧米の政府は、中国が新疆地区で大虐殺を実行していると非難している。一方、中国はこれを否定。現地に広がる収容施設は、ウイグル族などのイスラム教徒に対する「再教育」が目的だと説明している。
香港で政治的自由や民主化デモが弾圧されてきたことや、中国高官に性的暴行を受けたと告発してから公の場に現れていないテニス選手の彭帥さんをめぐって安否が懸念されていることも、中国と欧米諸国の関係を悪化させた。彭さんの事案について中国当局は、「悪意ある憶測」だと批判しているが、彼女についての懸念は深まったままだ。
代表団を送らないと表明するのは、西側の国々にとって、比較的簡単に非難の姿勢を打ち出す方法だといえる。完全ボイコットで選手を出場させないという、よりけんか腰の方法を避けられる。一方、北京五輪に政治家らを派遣することのリスクは、五輪を大きな名声の問題だと考えている習近平国家主席の政権を、暗に承認していると必然的にみられることだ。
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中国は、アメリカが五輪を政治目的で利用していると非難し、「断固とした対抗措置」を取ると宣言している。しかし、落胆したり、驚いたりはしていないだろう。イタリアやフランスはボイコットに同調しないと表明しているし、フランスのマクロン大統領は外交ボイコットを「象徴的なもので意味は小さい」と述べている。実際、五輪を会場内で見る人にとっても、遠くから観戦する人にとっても、外交ボイコットで五輪ショーが変わることは、ほとんどないだろう。
大虐殺の告発を受けている国に対して完全ボイコットをするのが適当でないとしたら、どんな場合が適当なのか――と問う声も上がっている。そうした中、女子テニス協会(WTA)は彭さんの問題を受け、中国ですべての大会の開催を停止。実質的なボイコットだとして、西側各国で称賛されている。商業的に重要な国に対してスポーツ組織が立ち向かった、まれな例だ。
オリンピックへの参加拒否は、中国にかけられている疑惑への関心を、おそらく高めることになるだろう。一方、参加すれば、加担していると思われる恐れがある。だが参加拒否は、何年もかけて五輪の準備をしてきた罪のない選手たちにとってあまりに酷だとの印象も与えるだろう。
参加拒否に反対している人たちは、冷戦期の1980年と1984年の大会でのボイコットが政治的にはごくわずかな影響しか及ぼさず、結果的に選手たちが罰を受けたと主張する。しかし別の立場の人たちは、スポーツ界が1970年代と1980年代に、アパルトヘイト政策を取っていた南アフリカをボイコットの対象としたことで、同国の支配層に圧力をかけるという重要な役割を果たしたと指摘する。
こうした議論を頭の中でひっくり返し、スポーツ大会への参加は貴重なスポーツ外交の機会を確保し、国際社会の監視を機能させることになると訴える人もいる。それらの要素は共に、望ましい変化につながる可能性がある。2022年にカタールで開かれるサッカーのワールドカップに参加するのかと問われたイングランド・フットボール協会(FA)は、まさにこの主張を展開した。カタールでは改革が進んでいるが、労働者の権利が大きな問題だと人権団体は報告している。また、同性愛が非合法となっている。
FAは最近の声明で、「他者と協力関係を保ち、正しい問いかけを続けることで、変化の実現性が最も高まる。それが私たちの変わらない考えだ。私たちはまた、自分たちの国にも人権問題があることを常に意識している」と述べた。
「次期ワールドカップのレガシーとして、真の変化につながる対話と関与の機会が考えられる。そうした変化はカタールの国境を越え、人権問題が存在する周辺の国々にも及ぶ」
この考えに賛同しない人もいる。唱えられているような前進は、2008年の北京夏季五輪の後にはほとんど見られなかったし、2014年に冬季五輪、2018年にワールドカップを開いたロシアにも見られていないと反論する。
2022年北京五輪の完全ボイコットを望む声は、選手、政府、スポーツファンの間ではわずかだと思われる。そうした中、現地入りする選手たちは、何らかの変化をもたらすことはできるのだろうか。近年、選手たちに積極的な言動が見られることを考えれば、可能性は十分ある。より多くの選手たちが、人種、女性の権利、心の健康、環境など幅広い社会問題について発言している。
国際オリンピック委員会(IOC)の「五輪憲章」第50条は、このところ緩められたとはいえ、五輪における選手の発言や行動をなお厳しく制限している。表彰台の上や正式な式典、試合会場では、いかなる政治的な抗議、デモ、プロパガンダも禁止している。
記者会見場、選手と記者が交わるゾーン、ソーシャルメディアでは、言論の自由は認められている。だが、検閲と外国記者への圧力で批判を浴びている国で、選手がその自由を活用するのかは疑わしい。WTAのスティーヴ・サイモン最高経営責任者(CEO)が最近、「2022年に中国で大会を開くことになった場合に、私たちの選手やスタッフが直面するかもしれないリスクについて深く懸念している」と述べたことを勘案すれば、なおさらだ。
中国当局は、スポーツ選手からの非難をやさしくは受け止めないようだ。米バスケットボールのボストン・セルティックスのスター選手、エネス・カンターさんが10月、習主席を批判し、チベット独立運動への支持を表明した際には、激しい反発が見られた。彼の名前は中国のソーシャルメディアの微博(ウェイボ)からブロックされ、報道によれば、セルティックスの動画配信サービスは中止された。英サッカーのアーセナルの試合も2019年、国営テレビで放送されなくなった。元ミッドフィルダーのメスト・エジルさんが、ウイグル族の処遇問題を強調
多くの人権団体はIOCに、新たな五輪開催都市を見つけるよう求めてきた。この段階になって、それが実現する可能性はもちろんゼロだ。それでも、2022年北京五輪をめぐる激しい議論は、IOCの開催都市選定および開催都市との関係について、厳しい目が向けられることにつながった。
米人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは先日、IOCのトーマス・バッハ会長が中国のテニス選手の彭さんとビデオ通話をし、懸念の声を鎮めようとしたとして、IOCと中国の「協力」関係を非難した。IOCはこの見方を否定し、ビデオ通話は「静かな外交」だったと正当化した。だが、IOC最古参委員のディック・パウンドさんは、中国の人権状況とオリンピックの価値観はどう折り合いがつくのかと問われ、北京を開催都市に選んだことは後悔していないと返答。多くの証拠があるにもかかわらず、大虐殺の疑惑については「知らなかった」とも話しており、問題となりそうだ。
パウンドさんは13日、ドイツのラジオ局ドイチュラントフンクで、「私の不知がどれだけ責められても構わない。だが、私は確信をもっては承知していない」と話した。
さらに、IOCについて、「政治的変化をもたらす役割はまったくない。(中略)ある国に対して大会開催を認めるのは、私たちがその国の政治目標を支持していることを示すためにするわけではない」と述べた。
IOCは完全に中立で、政治を超えた組織だとしているが、批判的な立場の人たちはその主張を強く否定する。例として、IOCが2018年に北朝鮮と韓国の対話を促したことを挙げる。さらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2014年ソチ五輪で、ロシアと彼自身の力を誇示しようとしたことも指摘する。
間違いないのは、五輪開催都市に北京を選んだのは選手たちではないのに、地政学上の緊張が高まったことで、北京で競技をするのは正しいことなのかという再び持ち上がった問題が、選手たちに突き付けられているということだ。北京入りしてどう振る舞うべきなのか、選手たちは自分で決めなくてはならない。
多くの選手が、どうすればいいのかと困惑している。
(英語記事 Does the diplomatic boycott of Beijing 2022 matter?)