こころの健康 危機の時代

2022年01月25日 11時28分51秒 | 医科・歯科・介護

厚生労働省

休養・こころの健康
1 はじめに
 こころの健康とは、世界保健機関(WHO)の健康の定義を待つまでもなく、いきいきと自分らしく生きるための重要な条件である。

具体的には、自分の感情に気づいて表現できること(情緒的健康)、状況に応じて適切に考え、現実的な問題解決ができること(知的健康)、他人や社会と建設的でよい関係を築けること(社会的健康)を意味している。

人生の目的や意義を見出し、主体的に人生を選択すること(人間的健康)も大切な要素であり、こころの健康は「生活の質」に大きく影響するものである。
 こころの健康には、個人の資質や能力の他に、身体状況、社会経済状況、住居や職場の環境、対人関係など、多くの要因が影響し、なかでも、身体の状態とこころは相互に強く関係している。
 心身症という名称があるように、以前から、ある種の疾病の発症や進展に心理的な要因が影響することことが知られており、最近ではこの関係が実証されてきている。

例えば、ストレスが多いと風邪などの感染症にかかりやすくなること、心臓病などの病気にかかりやすい性格や行動があること、などが有名である。
 こころの健康を保つには多くの要素があり、適度な運動や、バランスのとれた栄養・食生活は身体だけでなくこころの健康においても重要な基礎となるものである。

これらに、心身の疲労の回復と充実した人生を目指す「休養」が加えられ、健康のための3つの要素とされてきたところである。さらに、十分な睡眠をとり、ストレスと上手につきあうことはこころの健康に欠かせない要素となっている。

 うつ病はこころの病気の代表的なもので、多くの人がかかる可能性を持つ精神疾患であり、自殺のうち、かなりの数はこのうつ病が背景にあると考えられている。こころの健康を維持するための生活やこころの病気への対応を多くの人が理解し、自己と他者のために取り組むことが不可欠である。 2 基本方針
(1)日常生活や習慣の重視(全人的なアプローチ)
 健康が総合的なものであることを考えると、身体的な健康とこころの健康を統合した全人的なアプローチが重要である。そのためには、日常生活全般を視野に入れ、習慣や行動の形成や維持についての原理を明らかにする行動科学を理解し、それに基づく方法を導入する必要がある。
(2)行動科学に基づいたセルフケアの推進
 行動科学とその具体的な適用法である行動療法は、運動や食事、喫煙や飲酒など、身体健康に直接影響する生活習慣行動だけではなく、感情のコントロール、不適応的な認知の修正、対人技術や時間管理など多くの問題に有効である。これらに基づいてセルフケアを行うことが、ひとりひとりが全人的な健康を実現する助けとなる。

具体的な方法としては、(1)達成可能な目標をたてる、(2)自分の行動や考えを観察、記録する、(3)望ましい行動を強化する、(4)望ましい行動をみちびくように環境を整える、など多くがあげられる。セルフケアを推進するために、行動科学の考え方や方法を普及することの意義は大きい。

(3)こころの病気への早期対応
 うつ病などのこころの病気には有効な治療法が確立しており、早く専門医と相談し、治療を始めることが重要である。

しかし現実には、うつ病にかかった人のうち、ごく一部しか医療機関にかからず、その中でも、精神科医療を受けている人はさらに限られた数でしかないという報告がある。
 こころの不調は自覚できないことも多いので、周りの人が専門医へつなぐ役割を果たすことが必要で、また、体の症状を訴えて一般診療を受けることも多いので、かかりつけ医と専門医が連携することも必要である。

3 現状と目標
(1)こころの健康を保つ生活
ア 休養
 「休養」は疲労やストレスと関連があり、2つの側面がある。1つは「休む」こと、つまり仕事や活動によって生じた心身の疲労を回復し、元の活力ある状態にもどすという側面であり、2つ目は「養う」こと、つまり明日に向かっての鋭気を養い、身体的、精神的、社会的な健康能力を高めるという側面である。
 このような「休養」を達成するためにはまず「時間」を確保することが必要で、特に、長い休暇を積極的にとることが目標となる。

しかし、このような休養の時間を取っても、単にごろ寝をして過ごすだけでは真の「休養」とはならず、リラックスしたり、自分を見つめたりする時間を1日の中につくること、趣味やスポーツ、ボランティア活動などで週休を積極的に過ごすこと、長い休暇で、家族の関係や心身を調整し、将来への準備をすることなどが真の休養につながる。休養におけるこのような活動が健康につながる種々の環境や状況、条件を整えることとなっていくことから、今日の健康ばかりでなく、明日の健康を考えていくところに「休養」の意義付けをし、「積極的休養」の考え方を広く普及することが重要である。
イ ストレスへの対応
 個人をとりまく外界が変化すると、それまでと違ったやり方で新たに対応することが要求される。このような外界の変化はストレスと呼ばれ、さまざまな面で変動の多い現代は、ストレスの多い時代であるといえる。

外界に起きた変化に適応しようとして内部にストレス反応とよばれる緊張状態が誘起される。これは、誰にでも起こることであり、いろいろな障害から身を守るなど、課題に挑戦する際に必要な反応である。

ストレスの影響を強く受けるかどうかには個人差があるが、過度のストレスが続くと、精神的な健康や身体的な健康に影響を及ぼすことになる。
 「平成8年度健康づくりに関する意識調査」1)によると、「調査前1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合は、対象者の54.6%であり、ストレスを感じる対象としては、男性では、「仕事」があげられ、女性では仕事と共に、出産・育児があげられていおり、男女とも加齢とともに健康についての悩みが増加している。
 このデータは、ストレスの多い状況を反映していると考えられ、心身の健康を増進するためにも、さまざまな方向からの対策を行って、ストレスを経験する割合を低下させることが目標となる。
 このことから、職場や地域社会などのサポート体制を拡充するなど個人を支える社会的環境を整えることにより、2010年までに「最近1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合を1割以上減少することを目標とする。
 

○ストレスの低減
 ・「最近1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:54.6%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査(財)健康・体力づくり財団)
ウ 睡眠への対応
 睡眠不足は、疲労感をもたらし、情緒を不安定にし、適切な判断力を鈍らせるなど、生活の質に大きく影響する。また、こころの病気の一症状としてあらわれることが多いことにも注意が必要である。

近年では睡眠障害は高血圧や糖尿病の悪化要因として注目されているとともに、事故の背景に睡眠不足があることが多いことなどから社会的問題としても認識されてきている。
 わが国では、成人の23.1%に睡眠に関連した健康問題があり、14.1%が眠りを助けるために睡眠薬やアルコールを飲むことがあると示されている1)。睡眠については、不眠を訴える人の数を減らし、睡眠薬などの助けなしでもよく眠れる人を増やすことが目標となる。
 このことから、2010年までに「睡眠によって休養が十分にとれていない人」の割合を1割以上減少するとともに、「眠りを助けるために睡眠補助品(睡眠薬・精神安定剤)やアルコールを使うことのある人」の割合を1割以上減少することを目標とする。
 

○睡眠への対応
 ・「睡眠によって休養が十分にとれていない人」の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:23.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査(財)健康・体力づくり財団)
 ・「眠りを助けるために睡眠補助品(睡眠薬・精神安定剤)やアルコールを使うことのある人」の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:14.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査(財)健康・体力づくり財団)

 
(2)こころの病気への対応
 こころの病には精神分裂病、躁うつ病、人格障害、薬物依存、痴呆などさまざまなものがある。

そのなかでも、現代のストレス社会ではうつ病が大きな問題になっている。世界の人口のうち3~5%がうつ病であるとの報告もあり、うつ病は一般に考えられている以上に広く認められるこころの病である。
 うつ病は、感情、意欲、思考、身体のさまざまな面に症状が現われる病気である。早期に発見されて、適切な治療を受ければ、大部分が改善する。

しかし、患者の多くは自分の状態をうつ病から生じている症状であるとはとらえることができず、うつ病の治療を受けていないのが現状である。
 したがって、一般の人々や医療関係者がうつ病の症状や治療についての正しい知識を持つことが必要である。

うつ病患者はまず一般診療科を受診する傾向があることから、一般診療科の医師は、うつ病を的確に診断し、治療に導入する役割を果たすことが重要である。
 ところで最近のわが国の自殺者総数は24,000人から25,000人で推移していたが、1998年には一挙に31,000人を超えた2)。この数は交通事故死者数の約3倍にも上り、自殺予防は精神保健の最重要課題の一つである。
 自殺はひとつの要因だけで生じるものではなく、多くの要因が絡み合って起こるが、特にうつ病は最も重要な要因であるといわれている。

つまり、うつ病を早期に発見し、適切に治療することが自殺予防のひとつの大きな鍵になる。
 このことから今回自殺が急増した原因を明確にし、それらを排除することにより従前の25,000人程度に戻すことはもとより、さらに適切な治療体制の整備等を図ることにより、22,000人以下に減少することを目標とすべきである。
 
 ○自殺者の動向
 ・うつ病等に対する適切な治療体制の整備等を図り、自殺者を減少する。
   目標値:22,000人以下
   基準値:31,755人
(平成10年度厚生省人口動態統計)

  4 対策
(1)こころの健康を保つための対策
ア ストレス対策
 ストレス対策としては、(1)ストレスに対する個人の対処能力を高めること、(2)個人を取り巻く周囲のサポートを充実させること、(3)ストレスの少ない社会をつくることが必要である。
 個人がストレスに対処する能力を高めるための具体的な方法としては、(1)ストレスの正しい知識を得る、(2)健康的な、睡眠、運動、食習慣によって心身の健康を維持する、(3)自分自身のストレスの状態を正確に理解する、(4)リラックスできるようになる、(5)ものごとを現実的で柔軟にとらえる、(6)自分の感情や考えを上手に表現する、(7)時間を有効に使ってゆとりをもつ、(8)趣味や旅行などの気分転換をはかる、などが挙げられる。
 個人が受けるストレスの影響は、配偶者や家族、友人、知人、職場や地域社会などのサポートによって緩和される。このためには、個人の側から、周囲の理解と協力を得ることができるようになることも重要であるが、求めに応じて個人を支えるような社会的環境を整えることも重要である。
 また、ストレスの大きさを個人の対応能力を越えないようにすることができれば、過度の影響が回避できる。このためには、社会経済的環境、職場環境、都市環境、住環境などをよりストレスの少ないものへと変えていくことが必要であり、ストレスの少ない社会をめざす社会全体の取り組みが必要である。
 一方、ストレスの解消や発散のために喫煙や過度の飲酒、過食などに走ると称するなど、一般にストレスが不健康な習慣の言い訳にされることがある。そのため、これらの生活習慣の改善に併せて、ストレスに対する個人の能力を高めることを、自己管理目標のひとつと位置づけて取り組むことが重要であろう。
イ 睡眠対策
 睡眠障害の危険因子としては、ストレス、ストレス対処能力の無さ、運動不足、睡眠についての知識不足などが挙げられる。
 睡眠対策としては、睡眠について適切な知識の普及、かかりつけ医が適切な対応をとれるようにすること、さらに、かかりつけ医と専門医との連携を充実させることが必要となる。
 最近発表された研究では、「眠いときだけ床に入る」、「十分に眠れなくても毎朝同じ時間に起きる」といった行動についての指導を受けた人について、睡眠薬を投与した場合に負けないだけの治療成績が示されており3)、このような日常生活における配慮だけでも、大きく睡眠障害の改善が見こめる。
 不眠は、一般診療において訴えられる場合が多いため、一般診療における適切な対応が必要である。

(2)こころの病気への対策
 自殺予防活動には、(1)自殺が生ずる前に対策を講じ、予防につなげること(予防)、(2)生じつつある自殺の危険に対して介入し、予防すること(介入)、(3)不幸にして自殺が生じてしまった場合に遺された人々に対する影響を少なくすること(自殺後の対応)が挙げられる。
 予防としては、職場や学校や地域を通じ、一般の人々に自殺の危険因子、直前のサイン、適切な対応法などについての知識の普及を図ることが挙げられ、特にうつ病の症状と、有効な治療法があることの理解を広める必要がある。

また、かかりつけ医、保健婦、教師などは、自殺の危険を早期に発見できる立場にあることから、予防のための知識を持ち、さらに精神科医などの専門医との連携を図る必要がある。
 介入は、自殺の危険の高い人を早期に捉えて、迅速に適切な治療を受けられる環境を整える必要があり、まず精神科医療が充実することが前提となる。地域の保健医療関係者が協力して、自殺を減らすための取り組みを行い、自殺者が減少した事例もある(参考)。
 自殺が同じ場所で行われる傾向が見られたり、ある自殺に影響を受けて自殺が行われることが観察されており、特に自殺者の周囲の者に危険性が高まることが指摘されている。このような連鎖的な自殺を防ぐために、地域で自殺が生じた時には、周囲の人に対する支援や、適切な報道がおこなわれるようにするなどの対策を講じる必要がある。
 また、海外では、専門家が自殺のきっかけや自殺者の受けた治療などを調べて、自殺の背景を明らかにし、この結果を自殺予防に役立てる取り組みが行われており、わが国においても、有効な自殺対策を立てるために、死亡統計や警察庁の実施する調査では十分に捉えられない自殺の背景を明らかにする必要がある。
 

5.その他
 現状においては、国民全体をとらえる視点からの、休養・こころの健康に関する現状の把握や背景の解明が必ずしも十分とはいえず、今後の対策を進めるに当たっては、これらを対象とした調査・研究を充実させることが必要である。 ◎目標値のまとめ
1.ストレス
 ・最近1ヶ月間にストレスを感じた人の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:54.6%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査:財団法人健康・体力づくり事業財団)
2.睡眠
 ・睡眠によって休養が十分にとれていない人の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:23.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査:財団法人健康・体力づくり事業財団)
 ・眠りを助けるために睡眠補助品(睡眠薬・精神安定剤)やアルコールを使うことのある人の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:14.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査:財団法人健康・体力づくり事業財団)
3. 自殺者の減少
   目標値:22,000人以下
   基準値:31,755人
(平成10年厚生省人口動態統計)
参考文献
1) 財団法人健康・体力づくり事業財団.平成8年健康づくりに関する意識調査.1996
2) 厚生省.人口動態統計
3) Morin CM, et al. Behavioral and pharmacological therapies for late-life insomnia. JAMA, 1999;281:991-999 (参考)
新潟県東頸城郡松之山町において実施されている高齢者を対象とした自殺予防活動の概要
 高橋(新潟大学精神医学教室)らは、1986年から新潟県松之山町において、高齢者の自殺の背景にうつ病があることに注目した自殺予防活動を行っている。
 うつ病の程度についてのスクリーニング検査を行った他、町内の診療所医師や保健婦からも情報を得て、該当者に面接を行い、うつ病を診断した。うつ病と診断された高齢者の治療方針、処遇は精神科医が決定し、治療を診療所医師、保健福祉的ケアを保健婦が担当した。
 これらの活動の結果、自殺予防活動前17年間の松之山町の自殺率については10万対434.6人であったが、10年の活動後は123.1人と激減した。近隣の町村における自殺率に比較しても、有意な変化が認められた。
 高橋らは、人口規模の小さな特定の地域で老人自殺を予防するためには、自殺のおそれのあるうつ病老人を発見し、治療することが重要であると結論付けている。

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アナーキー・国家・ユートピア―国家の正当性とその限界

2022年01月25日 11時07分03秒 | 社会・文化・政治・経済

ロバート・ノージック (著), 嶋津 格 (翻訳)

ロバート・ノージック(Robert Nozick、1938年11月16日 - 2002年1月23日)は、アメリカ合衆国哲学者ハーバード大学哲学教授

コロンビア大学で哲学者シドニー・モーゲンベッサーに師事し学士号1959年)を取得し、その後プリンストン大学大学院では科学哲学分野において著名な哲学者であるカール・ヘンペルに師事して博士号1963年)を得た。また1963年から1964年までフルブライト留学生としてオックスフォード大学にも一年間留学している。

概要[編集]

政治哲学の分野における著書『アナーキー・国家・ユートピア』をもってリバタリアニズムの代表的思想家として知られる。

また「なぜ何もないのではなく、ものがあるのか?」と題した論文などによって分析的形而上学の開拓者の一人としても有名であり、分析哲学における形而上学の復権に貢献している。それらの論文は哲学論集『Philosophical Explanations』(邦題:『考えることを考える』)に収録されている。

 

 

 

 
小さな政府という構想はここにおいて基礎付けられる。政治哲学の最重要著作の一つであることに疑いを挟む余地はない。ロールズ『正義論』と比べると書き振りは大きく異なる。ノージックは面白く、動きがあって、飽きさせない。高度に知的な競技を見せられているかのよう。ロールズは真面目、実直、ひたむきで真摯さが伝わってくる。どちらも美しい。
 
 
本書はリバタリアニズムの古典である。しかし、たとえば功利主義におけるベンサムがそうであるような形の古典ではなく、若き古典だと言える。しかも後に議論が更新されたとも言いがたい(しかも他ならぬノージック自身が分析形而上学へ研究の舵を切ってしまった――これはこれで画期的だが)。リバタリアニズムを考える上では、ソクラテスやカントが「温故知新」であるというようなものとは違った意味合いで、本書に帰ってこざるを得ないような著作である。したがって、その重要性ゆえに☆5にせざるを得ない。

周知のとおりノージックの議論はアナルコ・キャピタリズムと相性がよく、日本では笠井潔『国家民営化論』が隣接的に語られる。むしろ笠井が先進的であったわけだが、ではその後どうなったか。ノージックの頃はまだ全容化していなかったが、むしろ、物理的にではない形で私たちを縛る「力」となった「情報」社会においてリバタリアニズム的観点を持った研究は日本では東浩紀『情報自由論』や大屋雄裕『自由とは何か』がわずかにあるくらいで、他のものは存在感がない。紹介者である森村進の著作ももちろんあるわけだが、どちらかというと道徳哲学(応用倫理学)的なその雰囲気は、むしろノージックの弾けた発想を引き継がなかったように思える。そしてそれはある意味大勢であって、米国式プラグマティズムの流れにおいて、ノージック、ロールズ、ローティなどの名前がありながらも、一時的な「覇権」を取ったのが道徳哲学=政治哲学のマイケル・サンデルだったことは一応、記憶に新しいはずだ。その周辺にはウォルツァーやジョナサン=ハイトがいる。他方、その道徳哲学としての高い抽象度は英国のデレク・パーフィット(森村進が主著を訳している)に流れを乗り継いだように見える。……と色々あったわけだが、ノージックの提示した方向性は半ば散逸しており、ゆえに本書(もしくは本書の時代)に帰ってこざるを得ない。

とはいえ本書を読む上での大きな変化があることもまた事実だろう。冷戦構造の崩壊、情報社会化、9・11以降のテロリズムの前景化、日本に限っていえば3・11以降の大震災による自然ないし人工災害の常態化や、高齢社会の深刻化に伴う国家運営の問題などは、すでに凡百の思考実験を超越した材料であり問題として我々の前に立ちはだかっている。夜警国家で果たして災害に対応することができるのだろうか。一方で、社会保障財源が肥大化した現状で福祉国家を続けることがどれだけできるのだろうか。他方、アルゴリズムによって取引がバーチャル化した金融市場を、レッセ=フェールとして想定されたような「健全な市場」と考えられるだろうか。また、強いリーダーシップを持った国家は、それゆえにテロの標的となる逆説がないだろうか。

最小国家の成立を美徳とし、その可能性を論究する本書であるが、恐らくいまならその読まれ方は変わり得るし、またそのように読み継がれていくべきではないかと思う。
 
 
ノージックの代表作でもある本書は、ロールズ『正義論』と並んで有名だが、内容の毛色は随分と異なる印象を受けた。
ロールズが「正義」とその構造を論じているとしたら、ノージックの主題は(副題にもあるように)「国家」の性質である。
思考実験やアクロバティックな論理展開を通じて、知的挑発とも言える徹底された論考をそこでは展開してくれる。

ノージックは「社会契約なき自然状態」とも言われるように、自然状態からいかにして「自然に」国家が発生するかを説明する。
そこで用いられているのが「保護協会の出現」という方法である。これによって超最小国家が形成される。

超最小国家から最小国家への移行はいろいろな論者から批判されているのは知っていたが、個人的にはここの論理展開は相当に巧妙で面白いと思った。
彼は「賠償をすることによって権利を制約すること」がどのような場合に認められるかを考察し、「リスクを事前に排除する」という目的がどこまで認められるか、という議論からこの移行を説明している。
こう書くとすごくさっぱりしているようにもみえるが、恐怖の問題、経済的侵害と身体的侵害の違いなど、素朴な観点から徹底的に考えつめている。

後半はロールズやその他平等主義批判だが、ここはやや細部に立ち入り過ぎている感も覚えた。

付随して論じられている細かなテーマもなかなか面白い。
 
動物の権利、快楽機械の問題、刑罰の正当化の根拠など、それぞれノージック一流の洞察がされている。

彼の議論はどのくらい「真に受けるべきもの」なのかはよくわからないが、一つの知的挑発としては抜群に面白い。
考えるヒント、洞察の手がかりとしても彼の議論は非常に有益であろう。
 
 
社会契約説から極小国家論を導き出した、リバータリアンのバイブルと言ってもよい古典。相互の安全を保つという欲求から、警察力を持った極小国家が形成される。しかしそれは、再分配のような福祉国家になってはいけない、それが個人の自由を侵すからである。このような見解に賛成する人は多くないだろうが、国家を原理的に考察する上ではロールズの『正義論』より透徹した論考である。
 
 
ノージックの最小国家の派生に対する多数の無政府主義資本主義者攻撃が本書に見うけられる。最初に、国家は、ノージックが記述する方法では発生しないと思われ、したがって、最小国家などというものは形成されず国家は廃止の方向に向かうと思われる。さらに、ノージックが攻撃した無政府資本主義者(Anarcho-Capitalist)は、現代の警備員および調停機関が非常に地方分散され競争率が高いことに注目し、防御が自然な独占であるというノージックの仮定を批判している。最後に、それらは、予防的法律の専制に直接結びつくと非難して、ノージックの危険と補償の法則を拒絶する。本書は無政府主義はケイオス(CHAOS)状態になるという前提があり国家を正当化しようとするミナーキー(それは決してアナーキーではないと思われ、本のタイトルからして間違いである)誘導尋問本ともいえよう。この本の思想に決して肩入れせず、リバータリアン アナーコ・キャピタリストのデイビッド・フリードマン執筆の“The Machinery of Freedom”や“Law's Order”なども読まれるべきだろう。
 
 
 

特集:世界に貢献する日本人30

2022年01月25日 11時01分49秒 | 社会・文化・政治・経済
2021年11月23日号(11/16発売)

Cover Story

よりよい世界のために活動する日本人にコロナ禍の今だからこそ、誰もが勇気づけられる

雑誌『ニューズウィーク日本版』のご案内

2021.11.23号(11/16発売)

特集:世界に貢献する日本人30

2021年11月23日号(11/16発売)

Cover Story

よりよい世界のために活動する日本人にコロナ禍の今だからこそ、誰もが勇気づけられる

 
プロフィール よりよい世界の実現に努力する日本人選手目線の戦略で代表を伸ばす──本田圭佑(サッカーカンボジア代表GM)紛争地の救える命を救う──白川優子(国境なき医師団看護師)デジタル通貨開発でカンボジアに革命──宮沢和正(ソラミツ社長)ITの力で途上国の医療格差を解消──酒匂真理(miup CEO)生涯をかけ慈善活動に巨費を投じる信念──杉 良太郎(歌手・俳優)国際協力の魅力を若者に伝える──田才諒哉(国際協力サロン代表)日仏でひきこもり支援に尽力──古橋忠晃(精神科医)冷静と情熱の間で世界の人々を救う──國井 修(医師)緑茶成分のカテキンを初めて発見──辻村みちよ(農学博士)フィジーの気象予報を独立へ導く──黒岩宏司(日本気象協会技術調査役)ガーナの農家にチョコの誇りを──田口 愛(Mpraeso CEO)「広報リーダー」として途上国の妊産婦を支援──冨永 愛(モデル)リスト 学者から美術家、起業家まで一挙紹介
リスト 学者から美術家、起業家まで一挙紹介青柳卓雄(日本光電工業技術者)/ダルビッシュ有(大リーグ投手)/藤井將男(そろばん教育者)/八田與一(土木工学技術者)/早川千晶(ケニアの学校主宰)/日本地雷処理を支援する会/鎌田實(医師、作家)/南裕子(神戸市看護大学学長)/村田早耶香(NPO主宰)/永井陽右(NPO代表理事)/長坂真護(美術家)/中村安秀(小児科医)/小川誠二(生物物理学者)/小野雅裕(NASA研究員)/鮫島弘子(デザイナー)/田口一成(ボーダレス・ジャパン社長)/山口絵理子(社会起業家)/山崎嘉久(小児科医)

 国際社会で活躍する日本人

2022年01月25日 10時51分18秒 | 社会・文化・政治・経済

(1)国際機関で活躍する日本人
国際機関は、国際社会共通の利益のために設立された組織である。世界中の人々が平和に暮らし、繁栄を享受できる環境作りのために、様々な国籍の職員が集まり、それぞれの能力や特性をいかして活動している。

紛争予防・平和構築、持続可能な開発、食糧、エネルギー、気候変動、防災、保健、教育、労働、人権・人道、ジェンダーの平等など、それぞれの国が一国では解決することのできない地球規模の課題に対応するため、多くの国際機関が活動している。

国際機関が業務を円滑に遂行し、国際社会から期待される役割を十分に果たしていくためには、専門知識を有し、世界全体の利益に貢献する能力と情熱を兼ね備えた優秀な人材が必要である。

日本は、これら国際機関の加盟国として政策的貢献を行うほか、分担金や拠出金を通じた財政的貢献を行っている。また、日本人職員の活躍も広い意味での日本の貢献と言える。

現在、約880人の日本人が専門職職員として世界各国にある国連関係機関で活躍している。日本人職員数は増加基調にあるが、他のG7各国の職員はいずれも1,000人を超えていることを踏まえると、まだ十分ではない。

国連関係機関の国別職員数(専門職以上)

世界で活躍する日本人

日本政府は2025年までに国連関係機関で勤務する日本人職員数を1,000人とする目標を掲げており、その達成に向けて、外務省は、大学や関係府省庁、団体などと連携しつつ、世界を舞台に活躍・貢献できる人材の発掘・育成・支援を積極的に実施している。

その取組の一環として、国際機関の正規職員を志望する若手の日本人を原則2年間、国際機関に職員として派遣し、派遣後の正規採用を目指すジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)の派遣制度や、将来の幹部候補となり得る中堅以上の日本人の派遣制度がある(312ページ 資料編参照)。

これらを通じて日本人職員を増やしていくことに加え、日本人職員の採用・昇進に向けた国際機関との協議や情報収集にも取り組んでいる。

国際機関を志望する日本人候補者に対しては、ホームページやメーリングリスト、ソーシャルメディア(フェイスブック及びツイッター)を活用して、国際機関ポストの空席情報などの有用な情報を随時提供しているほか、応募に関する支援にも力を入れている。

国際機関で働く魅力や就職方法を説明するガイダンスを国内外で開催したり、国際機関の幹部職員や人事担当者が訪日して行う就職説明会を実施したりするなど、広報に努めている(外務省国際機関人事センター ウェブサイト参照4)。

より多くの優秀な日本人が国際機関で活躍することによって、顔の見える形で国際社会における日本のプレゼンスが一層強化されることが期待される。

各日本人職員が担当する分野や事項、また、赴任地も様々であるが、国際社会が直面する諸課題の解決という目標は共通している(270ページ コラム参照)。

また、日本人職員には、国際機関と出身国との「橋渡し役」も期待される。例えば、8月に、日本が国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)と共催した第7回アフリカ開発会議(TICAD7)を成功裏に実施するに当たり、日本と国際機関双方の立場や仕事の進め方を理解している日本人職員が重要な役割を果たした。

このように、日本が重視する外交課題の推進の観点からも、国際機関における日本人職員の存在は極めて重要な意味を持っている。

さらに、国際機関において職務経験を積み、世界を舞台に活躍できるグローバル人材が増加することは、日本の人的資源を豊かにすることにもつながり、日本の発展にも寄与する。

今後も外務省は、地球規模課題の解決に貢献できる高い志と熱意を持った優秀な日本人が一人でも多く国際機関で活躍できるよう、より積極的に国際機関における日本人職員の増強施策に取り組んでいく。

国連の舞台を支えてきた方々の声
飢餓のない平和な世界を目指して
国連世界食糧計画(WFP)ニューヨーク事務所長 牛山浩子
2020年は国連が創設されて75周年となります。私は、物心がついた頃から“United Nations”の理想に憧れていました。それは、国々がお互いの違いを乗り越え、理解し、尊重し合いながら国境を越える難問を解決するというものです。

25年以上前、「国連に入るので辞めます」と当時勤めていた証券会社の同期に言ったら、「国連のほかにも貢献の仕方があるから考え直せ」と注意されたことを今でも鮮明に憶えています。

私はこれまで、ニューヨークの国連本部、バンコクのアジア太平洋経済社会委員会、そして様々な国のWFPの事務所で働いてきました。WFPは現場中心であり、WFPでの勤務が一番長くなりますが、平均で3、4年ごとに新しい国で違う仕事をしているので、毎日が新鮮です。

WFPは主に紛争、自然災害、貧困や不景気のため毎日の食料が足りない国で、食料支援を中心とした人道支援業務を行っています。危険な場所で働くことも多く、きつい時もたくさんあるので、体力的にも精神的にもタフになっていきます。

また、いつでも電気や水道を使えること、そして子供が子供らしくいられることなど、日本では当たり前だと思うことをとても有り難いと感じることができます。例えば、1990年代、石とホコリだらけのケニアの乾燥地帯で働いた時には、1日の汚れを落とすことができるお湯があることに感謝しました。

たとえ小さなタライ一杯だけでも、ぬるくても、虫がプカプカ浮いていても。また、3年前まで働いていたマラウイでは停電がしょっちゅうで、ひどい時には自宅で1日に4、5時間しか電気がない毎日が続きました。

私たちは、今目の前に迫る問題と将来的な課題を同時に解決しなければなりません。マラウイで、気候変動、穀物の不作、インフレなど様々な要素が混ざり、歴史的な食料不足が発生した際には、数か月にわたり週末を削って仕事をして、恐れていた深刻な飢餓の発生を防ぐことができました。

貧しさのため小学校に行けず、家計を助けるため家の手伝いをする子供たちのために、学校給食を届けるという仕事もしました。

また、将来的にレジリエントな(困難な状況にも柔軟に対応できる)村、地域、国を作るため、政策の立案、マルチセクター(多方面の関係部門)へのアプローチ、投資のための中央政府と地方政府との連携への協力、村人たちへのプロジェクト参加の呼びかけとキャパシティ・ビルディング(能力構築)支援などにも力を入れて取り組んできました。

「平和ぼけ」という言葉を日本で初めて聞いた時は大変驚いたのですが、今も世界の各地で戦争が行われ、平和の訪れを待ち望んでいる人たちがたくさんいます。

終わりが見えない戦争だけでなく、自然災害を加速させる温暖化、環境汚染など色々な課題が増えています。WFPの同僚たちはイエメンやシリアといった紛争地帯でも任務に励んでいます。

私たちは世界中で大規模な緊急人道支援を5、6件同時に掛け持ちしているような状況です。残念ながら、これは25年前、いや10年前でさえ考えられなかったシナリオです。

人類、そして、かけがえのない地球が、持続可能な平和や繁栄を享受できるよう、国連はこれまで以上に活躍が求められています。

国連はみんなの国連。世界への好奇心や国際社会に貢献したい気持ち、グローバルな問題を解決するための情熱と能力を持つあなた─国連に入りませんか? 

ちょっとのことではへこたれない前向きなあなた─我々のパートナーになりませんか?

マラウイでの給食プログラム実施校で小学生に話しかける筆者(右手前)

マラウイのコミュニティ・レジリエンス・プログラムでの植樹の様子(筆者中央)

国連の舞台を支えてきた方々の声
調達権限と責任
国連事務局管理局総務サービス部調達課チーフ 三井清弘
三井清弘
大学を卒業後、総合商社に勤務していた私が国際機関で働くことになったきっかけは、外務省のジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度でした。JPOとして1988年9月から2年ほど、国連開発計画(UNDP)のトリニダード・トバゴの事務所に派遣され、様々な国連機関が実施するプロジェクトの管理・調整を同国政府と協働して行う業務に就き、主に国連工業開発機関(UNIDO)のプロジェクト管理業務をしていました。

JPOの任期終了後は、UNIDOのウィーン本部で総務部長室に勤務し、1991年9月、空席広告でニューヨークの国連事務局調達課に採用されて以来、国連事務局の様々なプログラム・プロジェクトや平和維持活動(PKO)を支える調達活動に従事しています。

平和維持活動で必要とされる通信機器、車両、海上・航空輸送サービス、配給食糧、燃料のほか、国連本部で必要とされる様々なサービス、本部改修プロジェクトなど幅広い分野の調達活動に関わってきました。

民間企業では企業の利益を追求することが求められましたが、国連の調達活動では、国際社会が国連の活動を通じて追求する共通の目的や大義に、調達という側面から貢献することになります。

国連の活動の円滑な運営に必要な物資やサービスを供給する外部の契約先を、公正で透明性を確保した競争入札の原則に基づき、適正なコストで確保することで国連の活動を支えているのです。

調達官には個々人に調達権限が付与されており、付与された権限の範囲内の契約金額であれば、国連の調達規則やルールにのっとり入札により契約先を決定し、調達官の裁量で契約を締結することができます。

その権限を付与されるには職業倫理も含めたトレーニングを受ける必要がありますし、調達に関与する全ての職員は個人の利益が国連の利害と相反しないよう、毎年資産公開をすることが義務付けられています。

国連の調達担当者として常に意識をしなければならない言葉があります。Fiduciary Responsibilityという言葉です。受託者責任と訳すのでしょうか。調達官が契約をするに当たって予算決定過程で使用目的が承認された資金を使用するのですが、その資金は加盟国の分担金が原資となっています。

調達活動においてはその資金が適切に支出されるように契約を締結する責任があるのです。その資金には世界の最貧国が分担した資金も含まれていることに思いを馳(は)せる時、この責任をとりわけ重く感じます。

国連の資金を支出することになる契約先を、調達活動を通じて決定する権限を委ねられた者として、常に与えられた権限と責任を意識して業務に当たらねばならないと自戒するようにしています。

(本稿は個人の意見を表明したものであり、必ずしも国際連合の意見や立場を反映するものではありません。)

成都(中国)での企業向けビジネスセミナーで、国連側の参加者と打ち合わせする筆者(右)

(2)非政府組織(NGO)の活躍
ア 開発協力分野
開発協力活動に携わる日本のNGOの多くは、貧困や自然災害、地域紛争など様々な課題を抱える開発途上国・地域で、草の根レベルで現地のニーズを把握し、機動的できめ細かい支援を実施している。

政府以外の主体の力をいかし、オールジャパンでの外交を展開する観点から、開発途上国などに対する支援活動の担い手として、開発協力においてNGOが果たし得る役割は大きく増している。

外務省は、日本のNGOが開発途上国・地域で実施する経済・社会開発事業に対する無償の資金協力(「日本NGO連携無償資金協力」)によりNGOを通じた政府開発援助(ODA)を積極的に行っており、事業の分野も保健・医療・衛生(母子保健、結核・HIV/エイズ対策、水・衛生など)、農村開発(農業の環境整備・技術向上など)、障害者支援(職業訓練・就労支援、子供用車椅子供与など)、教育(学校建設など)、防災、地雷・不発弾処理など、幅広いものとなっている。

2019年は、日本の55のNGOが、アジア、アフリカ、中東など34か国・地域で95件の日本NGO連携無償資金協力事業を実施した(273ページ コラム参照)。さらに、NGOの事業実施能力や専門性の向上、NGOの事業促進に資する活動支援を目的とする補助金(「NGO事業補助金」)を交付している。

また、政府、NGO、経済界との協力や連携により、大規模自然災害や紛争発生時に、より効果的かつ迅速に緊急人道支援活動を行うことを目的として2000年に設立されたジャパン・プラットフォーム(JPF)には、2019年12月末現在、43のNGOが加盟している。

JPFは、2019年には、アフリカ南部サイクロン被災者支援、ネパール水害被災者支援、ベネズエラ避難民支援プログラムなどを立ち上げたほか、ミャンマー、南スーダン、ウガンダ、シリア、イラク及びその周辺国における難民・国内避難民支援を実施した。

JPF事業「ミャンマー避難民人道支援」:(特活)難民を助ける会によるコックスバザール避難民キャンプ(バングラデシュ)の水衛生環境改善事業(©(特活)難民を助ける会)
JPF事業「ミャンマー避難民人道支援」:(特活)難民を助ける会によるコックスバザール避難民キャンプ(バングラデシュ)の水衛生環境改善事業(©(特活)難民を助ける会)
このように、開発協力の分野において重要な役割を担っているNGOを開発協力のパートナーとして位置付け、NGOがその活動基盤を強化して更に活躍できるよう、外務省と国際協力機構(JICA)は、NGOの能力強化、専門性向上、人材育成などを目的として、様々な施策を通じてNGOの活動を側面から支援している(2019年、外務省は、「NGO相談員制度」、「NGOスタディ・プログラム」、「NGOインターン・プログラム」及び「NGO研究会」の4事業を実施)。

さらに、2019年も引き続きNGOとの対話・連携を促進するため、「NGO・外務省定期協議会」として全体会議のほか、ODA政策について協議するODA政策協議会や、NGO支援や連携策について協議する連携推進委員会を開催した。

また、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた取組についても、SDGs推進円卓会議などでNGOを含め多様なステークホルダーとの意見交換を行いながら取り組んでいる。

日本NGO連携無償資金協力をいかし、より多くの人々に安全な水を
認定特定非営利活動法人 ホープ・インターナショナル開発機構 木下香奈子・ンジャイさおり
近年、NGOと外務省は、お互いの強みをいかしたより良い「パートナーシップ」が構築されるよう、両者間の協議の場を多く設けるようになりました。当団体は、世界の極貧層の人々への自立支援を行っていますが、外務省との連携を通じ、より広い支援を実現してきました。

当団体は、2005年からエチオピア南部の農村地域(僻地(へきち))で、現地住民が貧困から抜け出すために不可欠な安全な水の供給と保健衛生教育に焦点を置いた事業を実施しています。

過去に外務省の日本NGO連携無償資金協力を得た年の裨益者(ひえきしゃ)数は、ファンドレイジング(資金調達)による自己資金のみで実施した年のおよそ10倍になったこともありました。

これと同等の巨額な事業費を支援者からの寄付金や事業収入でファンドレイズすることは極めて困難ですが、当団体の培った現地での知見と外務省のスキームを活かすことで、より多くの人々に安全な水を供給することが可能となりました。

現在、日本NGO連携無償資金協力の下で実施している事業は、エチオピア南部のボンケ地区3郡を事業地として、3年間で住民1万2,000人に安全な水を届ける計画です。長期間にわたり安全な水を供給できるよう、水供給システムは現地の地形に合わせ、重力のみで水源から給水所へ水を届けます。

また、住民の健康を守る大切な要素として、トイレの利用促進や手洗いなどの基本的な衛生教育も現地住民から選ばれたコミュニティー保健委員を中心に地道に進めています。

事業地は標高3,000mの僻地にあり、悪路(泥の山道)を通るため4WDの車でも近隣都市から4時間程かかります。他団体からの支援も届いておらず、住民たちは安全な水の供給を心待ちにしています。

しかし彼らのニーズを充(あ)てがうだけの事業では、自分たちの力で問題を解決しようという気持ちが生まれず要求ばかりが高まってしまいます。尊厳ある生活を営むためにも自らの手で問題を解決し、恒久的に貧困の連鎖から抜け出せるよう、「支援の届いていない人々の自立への道筋を支援すること」が当団体の事業の根幹です。そのために、「住民のオーナーシップ」を重視しています。具体的には事業開始前の事業地までの道路整備、資材運搬等の単純労働などを現地住民に任せることで、当事者意識が育(はぐく)まれるようにしています。

さらに、給水所の利用者が自ら資材と労力を出し合って給水所の防護柵と鍵を設置したり、給水所利用規約を住民全体集会で決定するなどの取組を通じて事業のサステイナビリティ(持続可能性)を担保しています。

2019年10月には、ボンケ地区3郡のうち2郡において、水供給システム(簡易水道設備)が完成しました。同事業により6,636人の村人に安全な水が届いただけでなく、保健衛生知識が向上し水の扱い方、トイレの利用や手洗いなど生活習慣に変化が見られ、下痢症などの疾病率が減少し始めています。

また水汲(く)み作業が軽減されたことにより、子どもが学校へ通い、女性が収入向上のための活動に取り組むための環境も整えられつつあります。

同地で開催された本水供給システムの「引き渡し式」には、在エチオピア日本国大使館の松永大使が参加しました。槍(やり)を持ち正装した村人は「Thank you people of Japan」という紙を掲げ待っていてくれました。

彼らの感謝の気持ちを数値で表すことはできませんが、私たちの胸を震わせます。より多くの日本の人たちにこの変化を伝えていくことも私たちの役割です。技術革新が進み、ビジネス的な要素を含む支援も多くなる中、安全な水すら手に入れられない状況にある人々を支援することの重要性を今後も伝え続けていきたいです。

グローバルフェスタ入賞写真 安全な水の供給を喜ぶ子供たち

安全な水の供給を喜ぶ子供たち

「Thank you people of Japan」と書かれた紙を掲げる正装したボンケ地区の村人

イ そのほかの主要外交分野での連携
外務省は、開発協力分野以外でも、NGOと連携している。例えば、2019年3月に開催された第63回国連女性の地位委員会(CSW)で、田中由美子氏(城西国際大学招聘(しょうへい)教授)が日本代表を務めたほか、NGO関係者が政府代表団の一員となり積極的に議論に参加した。

また、第74回国連総会では、宮崎あかね氏(日本女子大学教授)が政府代表顧問として人権・社会分野を扱う第3委員会に参加した。さらに、人権に関する諸条約に基づいて提出する政府報告や第三国定住難民事業、国連安保理決議第1325号及び関連決議に基づく女性・平和・安全保障に関する行動計画などについても、日本政府はNGO関係者や有識者を含む市民社会との対話を行っている。

また、軍縮分野においても、日本のNGOは存在感を高めている。外務省はNGOと積極的に連携してきており、例えば、通常兵器の分野では、地雷・不発弾被害国での地雷や不発弾の除去、危険回避教育プロジェクトの実施に際して、NGOと協力している。

さらに、核軍縮の分野でも、様々なNGOや有識者と対話を行っており、「非核特使」及び「ユース非核特使」の委嘱事業などを通じて、被爆者などが世界各地で核兵器使用の惨禍の実情を伝えるためのNGOなどの活動を後押ししている。2019年12月までに、101件延べ299人が非核特使として、また、35件延べ405人がユース非核特使として世界各地に派遣されている。

国際組織犯罪対策では、特に人身取引の分野において、NGOなどの市民社会との連携が不可欠であるとの認識の下、政府は、近年の人身取引被害の傾向の把握や、それらに適切に対処するための措置について検討すべく、NGOなどとの意見交換を積極的に行っている。

とりわけG20においては、政府とは別に、市民社会によるC20(Civil 20)がエンゲージメントグループ(国際社会での活動にかかわる関係者により形成された、政府とは独立した団体)の一つとして立ち上がった。

4月には、東京においてC20サミットが開催され、G20大阪サミットの主要課題について市民社会の視点から幅広い議論が行われるとともに、C20代表者がG20議長を務めた安部総理大臣を表敬して「G20に向けた世界市民の政策提言書」を手交した。

C20代表による表敬を受ける安倍総理大臣(4月18日、東京 写真提供:内閣広報室)
C20代表による表敬を受ける安倍総理大臣
(4月18日、東京 写真提供:内閣広報室)
(3)JICA海外協力隊・専門家など
JICA海外協力隊派遣は、技術・知識・経験などを有する20歳から69歳までの国民が、開発途上国の地域住民と共に生活し、働き、相互理解を図りながら、その地域の経済及び社会の発展に協力・支援することを目的とするJICAの事業である。

本事業が発足した1965年以降、累計で98か国に5万4,106人の隊員を派遣し(2019年12月末現在)、計画・行政、商業・観光、公共・公益事業、人的資源、農林水産、保健・医療、鉱工業、社会福祉、エネルギーを含む10分野、約200職種にわたる協力を展開している。

帰国した協力隊参加者は、その経験を教育や地域活動の現場、民間企業などで共有するなど、社会への還元を進めており、日本ならではの国民参加による活動は、受入国を始め、国内外から高い評価と期待を得ている。

協力隊としての経験は、グローバルに活躍できる人材としての参加者個人の成長にもつながり得る。このため、政府はこうした人材育成の機会を必要とする企業や自治体・大学と連携して、職員や教員・学生を開発途上国に派遣するなど、参加者の裾野の拡大に向けた取組を進めている。

例えば、主に事業の国際展開を目指す中小企業などの民間企業のニーズにも応えるプログラムとして、JICA海外協力隊(民間連携)を2012年度から実施している。また、帰国した隊員の就職支援など、活動経験の社会還元に向けた環境整備を積極的に実施してきている。

帰国した隊員の中には被災自治体で活躍している者、元隊員同士で協力して派遣国への支援を続ける者、国際機関などで活躍する者など、国内外の幅広い分野で活躍している者も多い。

なお、本事業は2018年秋に制度見直しを行い、年齢による区分(青年・シニア)を、一定以上の経験・技能などの要否による区分に変更した。

JICA専門家派遣は、専門的な知識、知見、技術や経験を有した人材を開発途上国の政府機関や協力の現場などに派遣し、相手国政府の行政官や技術者に対して高度な政策提言や必要な技術及び知識を伝えるとともに、協働して現地に適合する技術や制度の開発、啓発や普及を行う事業である。

専門家は、開発途上国の人々が直面する開発課題に自ら対処してくための総合的な能力向上を目指し、地域性や歴史的背景、言語などを考慮して活動している。

2018年度は新規に9,874人の専門家を派遣し、活動対象は119か国・地域に及ぶ。保健・医療や水・衛生といったベーシック・ヒューマン・ニーズ(人間としての基本的な生活を営む上で最低限必要なもの)を満たすための分野や、法制度整備や都市計画の策定などの社会経済の発展に寄与する分野など、幅広い分野で活動しており、開発途上国の経済及び社会の発展と信頼関係の醸成に寄与している。

4 外務省国際機関人事センターウェブサイト:https://www.mofa-irc.go.jp/

外務省国際機関人事センターウェブサイトQRコード


「世界が驚く日本」研究会(第2回)-議事要旨

2022年01月25日 10時49分52秒 | 社会・文化・政治・経済

日時:平成28年11月18日(金曜日)13時00分~15時00分 
場所:経済産業省別館2階238会議室

出席者
桐山委員(座長)、イエンセン委員、井上委員、榎田委員、大西委員、垣貫委員、澤田委員、高橋委員、渡邉委員、生駒委員、鈴木委員、増田委員

議事概要
I.「日本らしさ」を再検討する意義
前回の東京オリンピック開催時、日本は戦後経済成長の真っ只中で、日本の製品・サービスは発展途上であった。当時の日本企業は「QCD(Quality、Cost、Delivery」」の価値軸で商品価値を高め、競争を続けてきたが、現代では従来の3つの軸に加え「感性」が重要視されていると考えている。
経済産業省としては、日本の「感性」を活かしたブランドの構築・発信をこの10年ほど進めてきた。
昨今では、日本食のユネスコ世界遺産への登録、ミラノ万博での日本館への高い評価、訪日外国人旅行者数の2000万人突破など、さらに日本に対する関心が高まっており、今後、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、改めて日本の「感性」を発信していくという観点から、この研究会において、日本の感性を表現するコンセプトを取りまとめたい。
II.世界を驚かせる日本人ならではの感性・価値観を表すキーワード
各委員からの発表
第1回の研究会での議論を踏まえ、国内外有識者ヒアリング、外国人留学生ワークショップ等を経た結果、日本人の自然観を表すキーコンセプト、自然と日本人との関係性によって培われた日本人独特の価値観を表すキーワード、さらに、日本人の生活、及びそれを支える商品・サービスに表されている世界を驚かす5つのキーワードを事務局より提示し、検討を行った。主な発言は以下の通り。

ものを言わない、外国人から見てファジーな存在だった日本人を言い表す際に「間」というキーワードを用いるのは面白い。
文化の根源は、自然の脅威に対する民族の姿勢に由来するが、西洋文明は自然をどう支配するかという考え方で成り立ち、日本人は自然と共生することを選び、畏怖や畏敬の念から、自分と同等もしくはそれ以上のものとして扱ってきた。
文学では、本居宣長の「もののあはれ」という言葉が示す通り、日本人は他に寄り添う心、自分ではなく、他に心をあずける感覚を培ってきた。また、自然を大切にし共存してきたことで、枕草子の「やうやう白くなりゆく山ぎは・・・」のような自然に対する感性を千年を超えても失わずに来たのである。例えば、自然が維持されたことでトキ色のような自然にある物の色が使い続けられ、近代まで日本の色はわずか300色ほどだった。自然が大きく変化した欧米では、白や黒、青のような一万を超える抽象色が作られたが、日本では自然の色の無限の美しさを、物の名と多様な形容詞で表現したのである。伝統と現代を国内外に分かりやすく繋ぐことが重要であり、提示された検討ステップでそれが実現できればと思う。
素材、おもてなし、安心・安全、クラフトマン、技術力、美とアート、その他ポイントがあると思うが、概ね事務局の整理に賛同。
「受け入れる(共存する)」には、多様性を認めるという特徴がある。「素材を活かす」には、素材そのものの魅力という点が挙げられる。テキスタイルも食も、季節感が日本の素材をつくり、その先にそれをどう活かすかという考え方から生みだされたもの。「アレンジする」では、日本人の器用さにより、異質なものを組み合わせ、新しい価値観を生み出している。「極める」では、先進性と伝統の融合という点が将来に向けての日本の強みになる。
総合すると5つのキーワード、「『間』の感覚」は理解できるが、キーコンセプトとして挙げられている「自然との共生」については、これに相対する概念を提示した方が良いと感じた。
「受け入れる」という点では、外国人をあまり受け入れていない、保守的な印象。「自然との共生」についても日本人特有の感覚ではないのでは。景観が破壊されていたり、家も輸入材で建てられていることが多く、今の日本では当てはまらないように感じる。
自然を「感じる」、「受け入れる」には、「感謝する気持ち」が含まれる。自然観には「八百万の神」という考え方があり、繊細さにも表れる「何事にも感謝する」気持ちは、私たち日本人の特徴。
それに付随し「敬う気持ち」がある。例えば「労働」という概念は、古事記や日本書紀では「祝福」という意味合いがあった。日本人の根底には、神様が見ているからさぼってはいけないという考え方があり、「感じる」、「受け入れる」姿勢の根底に、こうしたスピリットが流れている。
また、フランス人から見た日本人の魅力は「神秘性」。黙って静かにしている性格が神秘的で好感を持たれているほか、雄大な自然や高野山のような神秘性が評価されており、アピールしなくても海外の方々を惹きつけている。日本らしいアピールの仕方も検討すべき。
江戸、明治、大正、昭和、戦後と、日本人の考え方も変化してきた。戦後の日本は自然を破壊し、化学調味料を大量使用、大量生産してきた時期もあれば、過去を反省し自然を大事にし、素材を活かそうと考え直している部分もあるなど、時代毎に異なる。そのため、これらのキーワードの使用目的、使い方が非常に大事。
今回の事業を通して、日本らしさを表すコンセプトを日本人に対しても伝え、人生を豊かにするために日本を変えていこうという運動として捉えることができれば、結果的に外国人にも訴えることに繋がる。
先日、中国人を案内した際、日本の「部活動」について、「ダオ(道)」を感じ、子供の頃から「道」という考え方を教えているところに日本人の優秀さの一端を見たと指摘された。
人間は2足歩行により動物的な体構造から解放されたが、人間の体の中で、自然に則した部分(他の動物に共通する部分)と、人工的な部分(人間ならではの部分)が、常にせめぎ合っている。日本人は、自らの内なる自然を見つめ、そこから文化が生まれ、「道」という概念が出てきた。「道」という概念によって、体構造へ回帰しようとする衝動と、解放されたいという衝動との分裂を防ぎ、繋ぎとめている。それが「道」という考え方の起源。
人の身体や感覚を変化させるために重要なポイントを表す「機度間(きどま)」という言葉がある。「機」は機会、「度」は度量、「間」は繋がり、関係性を表す。この場合の「間」は、元来、身体の持つ対立する衝動を繋ぎとめることを指す。だから、間があるものを見ると人は安心する。また、間が論理的、構造的かつ美しく昇華された体系が「道」の起源である。
内なる自然と外部の自然との調和を日本人は考えてきたので、そこから整理するべき。
人が魅力を感じる感覚は言語化されていない。これまで政策として「伝える」活動は膨大に実施しているが、「伝わる」メカニズムについての行動分析はできていない。それこそ政府が主導して取り組むべき。
「自然との共生」は納得。とあるオンラインゲームのイベントで約2000人が同時に踊ったが、皆の振りがすぐに合い、ここに働く共感とは何かと考えると、自然との共生から来る古来のお祈り、お祭りに通じる感性が我々の中に今も残っているのではないか。
日本に行きたいが日本がまだよく分からないという外国人は多く、情報発信の機会が大事であると改めて感じており、東京ウォーカー、横浜ウォーカーを翻訳し海外で出版しているが、現地サイドで彼らが行きたい・見たい日本に置き換わってしまう。こうした視点をどう取り込んでいくのか、彼らとともにどう日本という像を作り上げていくのか、というアプローチが現実的には伝わりやすい。
ブランディングの視点から、今回目指すべき方向性は、外国人の心に響かせたい、欲しい・行ってみたい・学びたいと感じてもらうこと。どの国にも固有の風土があり、日本特有の風土から展開することは、外国人に分かり易い。「『間』の感覚」は、他の言語には類を見ず興味を引くだけでなく、日本人が日本らしさを発見する導入としてもよいキーワード。
キーワードは、英語表現で何というかを意識すること。また、概念としてのキーワードがどこに現れているのか、感覚的に分かるような具体例を挙げてほしい。
相手国には無いが日本にはある、その差異として生じる憧れを見極め、発信することで、バイヤーや旅行会社は自分達の実利に繋がる情報として拡散してくれる。旅行では歴史や自然、ものづくりの面では匠の存在やその姿勢。世界の人々から見て憧れを抱いてもらえそうな要素を、しっかり具体的な例でまとめて頂けることを期待したい。
一般の人が理解し使えるキーワードは包括的にこの5つでまとめられる。地方では地場産業、農業など、世代交代が進み、若く志のある作り手が生まれており、このキーワードに刺激を受けてものづくりを進めてくれたらと感じる。
産地側でもライフスタイルの変化に合わせて変革しようという機運が出てきているが、地方の若い生産者たちが、日本のものづくりの極意が詰まったコンセプトとして、今回のキーワードに注目し、活かしていくようになれば良い。
日本らしさについて5点コメントしたい。1点目は、日本が注目されている「結果」よりも、その「原因」に世界は関心を持っている。2点目に、日本は、技術など文明的なもので評価されたが、これからは文化で評価を集める時代になってくる。3点目に、資本主義が人間の幸せとかけ離れていく危惧を世界が感じ始めている。4点目は、戦後にものづくりを頑張ってきた日本が、中国の台頭で厳しい状況におかれている今、工業化を進める上で日本の風景や日本人が元々有する良さを潰してしまったことへの反省の機運が生まれている。5点目に、そもそも日本人とは何だろうか、ということへの関心が国内でも高まった結果、日本人の特徴として、「利他」の心、シェアリングエコノミーといった言葉がキーワードとして現れている。
日本人は情報処理能力に長けている。“間”の概念にも通じてくるが、日本人は相手との関係性によって、「自分」という表現を幾通りも使いこなすがアメリカは”I"のみ。こうした、日本人の情報処理能力が今後活かされてくる。
中国に『知日』という雑誌があり、中国が日本に学ぶために5年前に創刊された。一つのテーマで一冊の本を編集しているが、テーマは「禅」、「武士道」、日本の「礼儀作法」、「富士山」、「太宰治」、「萌」など。中国人が知るべき日本のコンセプトの編集視点などを参考にしてほしい。
共感・進化・発見を通して、伝わる方法論をいかに確立するかが重要。1点目として、運動体にしていくことが大事。5つのキーワードがどう「伝わる」ように政策を作っていくのか、それを経営手法とか、地域の発展にどう落とし込めるかが大切。こうした運動体にしていくための共感発生装置をどこに作るのか、どう置くのか、どう仕組み化するのかを考えていく必要がある。2点目に、意図的にどう進化を起こしていくのか。インバウンドにおいて日本をどう再解釈するか、日本のクラフトをどう再編集していくか、など。3点目は発見。一番テコ入れしなくてはいけないのは日本人そのもの。明治以降に和魂洋才という考え方のもと洋の才能を導入してきたが、そろそろターニングポイントに来ている。日本らしさを発見する機会を例えば企業の中、政策の中、学校の中にキーワードとしてどう意図的に置いていくのかを考えていくべき。
一つの手法として、全てを伝えきらず受け手に考えさせるというやり方もある。他にも、例えば化学反応をする時に二つのアクションが必要。一つは異質の物を混ぜ合わせること。もう一つ忘れていけないのが「触媒」の存在。意図的に進化を起こすためには、何かと何かをつなぎ合わせる「触媒」となるような仕組みやサポートや強化のプロセスが必要なのだろうと思う。
CJ機構での業務を通じ、海外から日本に対する期待感は、まずはクリエイティブ&テクノロジー、次に伝統的な文化がある。「間」と言う言葉にもあるとおり、どこか肉声のもの、縦横斜めの論理性にないゆらぎのようなもの、ある種のいい加減さ、といった言葉が海外からよく聞かれる。5つのキーワードも、良い意味での「いい加減」さが枕言葉にあり、色々なワードを置いてみると、海外の方々の期待に合うのではないか。120%作りこんだものを出してしまうとお客様が引いてしまう。8割方に留め、残りの2割が受け手の関心を呼び込むような仕掛けが必要。
III.今後の進め方
第三回研究会では、コンセプトブックの編集案を事務局より提示し、第二回で意見の出たキーワードの伝え方、ブックにおける表現の仕方を議論して頂く。また、キーワードの発信について、コンセプト発信検討委員の皆様よりご意見を頂きながら検討し方向性を定める。
関連リンク
「世界が驚く日本」研究会の開催状況
お問合せ先
商務情報政策局 生活文化創造産業課(クリエイティブ産業課)
電話:03-3501-1750(直通)
FAX:03-3501-6782

最終更新日:2017年1月5日


実は日本人は世界に求められている!

2022年01月25日 10時35分27秒 | 伝えたい言葉・受けとめる力

グローバル化の好条件が揃う日本人の民族性とは?
――SBIホールディングス代表取締役CEO北尾吉孝氏

ダイアモンドオンライン

北尾 私は海外に10年住んで、世界100ヵ国に出張しました。その経験を通して感じたことは、国際性とはまず、違いを理解できることに始まると思うのです。自分が日本人として海外で誰かと出会う時、その二者は“違う”わけです。生きてきた文化背景も違えば、風習も違う。民族的特質が異なっています。大切なのは、それを片方から見て「良い・悪い」と判断せず、「自分とはこういう点で違っている」と理解できることです。そうすればそこにコミュニケーションが生まれます。

南 なるほど、日本人としての視点も持ちながら、二者の真ん中に立って互いを見ることができる、ということですね。

北尾 そうです。そしてもうひとつは、互いに違う存在でも、人間性には変わりがないということを知ることです。肌や髪の色が違って、話す言葉が異なっていても、人間は大体同じことに喜び、怒り、哀しみ、楽しみを覚えます。つまり人間性には普遍性があるということです。

 最初の違いの部分から例を挙げて説明をしましょう。日本の製造業は、まさに日本人のものづくりの感性が世界に理解された例です。日本のデパートに行けば、商品を丁寧に包んでくれます。この日本の包み紙とその包み方は、世界で最も美しいと言えます。こうした日本人の美的感覚ときちんとものを作る完璧主義に支えられたクラフトマンシップが製造業に生き、ある時代には圧倒的な地位を世界に築いたのです。

きたお・よしたか
1974年慶応義塾大学経済学部卒業後、野村證券に入社。
1978年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券NY拠点勤務後、英国ワッサースタイン・ペレラ社常務取締役、野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長を経て、1995年孫正義氏の招聘でソフトバンク入社、常務取締役就任。
2005年、SBIホールディングス株式会社代表取締役CEOとして現在に至る。
南 豊富な海外経験を振り返って、今日本人が身につけるべき国際性は何だと思いますか?

 


日が長くなったものだ

2022年01月25日 06時28分23秒 | 日記・断片

今朝の取手市内は、午前5時気温マイナス2℃。
ビンの廃品回収日で出しに行くが、こんなにもワンカップ酒を飲んだのかと我ながら呆れる。
半欠けの月が白く見えた。
日が長くなったものだ。

取手・利根川の日の出の風景 2022年1月25日 (6時54分)

冬至(昨年は12月21日)がターニングポイント。 そこから、日が再び長くなり始める。

ついでに、思い立って利根川堤防へ行く。

水溜りに氷がはっていて、土手の草は微細な氷でカラスの粒のように輝いていた。
堤防からの通勤の人が「おやようございます」と挨拶し、駅方面へ向かっていく。張りのある声だった。
次に出会ったご婦人には、こちらから先に挨拶をする。
日の出の時刻であった。
吉田地区から利根川へ流れる水路に朝もやが立っていた。
富士山は微かに見えた。
青空が背後にあれば、雪山影がくっきり見えただろう。
走る人も多いが、当方はもはや走る気持ちにはなれない。
水路沿いに吉田方面へ向かう。
その道では、自転車に乗った人からも挨拶をされたが、通勤なのだろう取手駅へ向かう様子であった。

 


表現力

2022年01月25日 05時40分19秒 | 新聞を読もう

表現力とは、感じたことを顔の表情や身ぶりで表したり、自分の思いや感情などを言語や音楽、絵画などで表現する力のことです。 
言語で表現する詩人や小説家、音楽、絵画、舞踊などで表現する芸術家、テレビや舞台で活躍する役者たちは、「表現者」と呼ばれることもあり、豊かな表現力を身につけています。 
また、 フィギュアスケートやアーティスティックスイミングなどは採点項目に「表現力」が設けられるなど、自分を魅力的に見せる演出として表現力が求められています。 
もっと身近な例で言えば、人に自分の考えをわかりやすく伝える「話す力」や「書く力」も表現力です。

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映画監督に託す―東京「2020」

東京オリンピックはコロナ禍で、初めて開催が1年延期された。
だが、開催に反対した人たちも少なくなかった。

それはそれとして、オリンピックは人類のスポーツの祭典であることを否定することはできない。

1964年の東京大会の記録は市川崑が総監督に託された。
日本にとっては、戦後復興の象徴とされた五輪であった。

今大会は、映画監督の河瀬直美さんに記録映画が依頼された。
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「未来に触れる」作業

映画監督の河瀬直美さん

自分自身が試ためされたように、目の前で起こることに一喜一憂する。
公平なまなざしで物事を見ようとするが、揺れる思いも隠しきれない。
時代の転換期。
誰も経験したことのない事案。
そこに集う人々の喜怒哀楽。
「日本」をこれほどまでに意識した時間がこれまでにあっただろうか。
そして、諸外国の人々の感情をこんなに真正面から受け取った出来事があっただろうか。
その場に立った時、私は何を目撃したのだろうか。
5000時間に及ぶ撮影素材を各担当ディレクターからできるだけまとめてもらって確認する。
2021の夏を思う。(毎日新聞から引用)

 

 

 

 


文は人なり!

2022年01月25日 05時37分36秒 | 新聞を読もう

映画監督の河瀬直美さんの毎日新聞の連載記事に感慨を新たにした。

自宅から歩いて行ける場合が世界遺産である土地には、千年続く行事や建造物がある。
年の初めに先人からの宝を愛でるように、この地に生かされていることに感謝する。
手のひらに乗るだけの幸せで充分なのだと改めて思う。
このなんでもない日常の豊かさは、誰と比べることをせずともよい。
元日の夕刻に西の空に沈んでいく太陽の光が誰のもとにも均等に届けられるが示すとおり、ただそこにそれがある。
そのことに気づくことができるか否か。
私が私であっていいのだと思えるのかどうか。