霊感商法とは、霊感があるかのように振舞って、先祖の因縁や霊の祟り、悪いカルマがあるなどの話を用いて、印鑑・数珠・多宝塔などを法外な値段で商品を売ったり、不当に高額な金銭などを取る商法である。
警視庁などでは悪徳商法の一種として定義している。
地鎮祭の費用、先祖供養の祈祷料など、いわゆる伝統的なものとして「社会通念上認められているもの」については、除外されることが多い。
概要
霊感商法では、人の不幸を巧妙に聞き出し、霊能者を装った売り手が、その不幸を先祖のたたりなどの因縁話で説明する。そして「この商品を買えば祖先のたたりは消滅する。」と効能を訴えたり、「このままだともっと悪いことが起きる」などと不安を煽り、相手の弱みに漬け込んで、法外な値段で商品を売りつける。扱われる商品としては、主に壺や多宝塔の美術品を初め、印鑑、数珠(念珠)、表札、水晶などがある。
「この商品を買えば幸運を招く」と謳って商品を売る商法はかねてから「開運商法」などと呼ばれていたが、1980年代に世界基督教統一神霊協会(統一教会/統一協会)の信者らによるこの種の商法が問題となった際に、『しんぶん赤旗』が「霊感商法」という言葉で報じ、以後この呼称が広く使われるようになった。
1978年(昭和53年)頃から、先祖の霊が苦しんでいるとか、先祖の因縁を説かれ、高価な印鑑、壺、多宝塔等を購入した多くの者が、国民生活センターや各地の消費生活センターに苦情を寄せるようになった。
1986年(昭和61年)には『朝日ジャーナル』が「霊感商法」批判記事を連載した。1980年代以降、国会でも社会問題として度々取り上げられ、日本国政府に対策が求められた。
霊感商法の被害者らは、損害賠償を求めて訴訟を起こしたが、長らくは和解に終わるケースが多かった。しかし、1993年(平成5年)の福岡地裁における判決で、信者らの不法行為に対して統一教会/統一協会自体の使用者責任が初めて認定されて以降、教団の責任を認定する判決が複数確定している。
それでも、統一教会/統一協会自体によるものや、その他の団体による霊感商法は続いているとしばしば報じられている。
被害額上位の事件一覧
名称 被害者数 被害額 摘発/破綻時期
世界基督教統一神霊協会
(現・世界平和統一家庭連合) 3.2万人 1,237億円
(~2021年時点[8]) 被害継続中
法の華三法行 2.2万人 950億円 2000年
神世界 数千人 250億円 2011年
世界基督教統一神霊協会(統一教会)の霊感商法
「世界基督教統一神霊協会#霊感商法」を参照
誕生の経緯
世界基督教統一神霊協会(現・世界平和統一家庭連合、統一教会/統一協会)の元信者の証言によると、効能を謳って販売し薬事法違反に問われ販売に行き詰まっていた高麗人参や統一教会/統一協会系企業である韓国の「一信石材」から大理石の壺を輸入し、美術品として販売していたが、売り上げが伸びなかったため今後は教義を使って販売することになった。
それまでの体質改善をアピールするトークに代え、「壺は霊界を解放するため」とか、“救いのためには血統を転換しなければならない”という教団の教義を使い、「高麗人参は血を清めるため」というように体系化し、基本トークを作り上げた。
トークの体系化によりそれまで5、6時間かかっていた販売時間が2、3時間に短縮され、3日間ぐらいの展示会で1億円から2億円(悪いところでも5千万円)の売り上げがあった。
この展示会を毎日のように北海道から九州まで行い、1983年から1984年までの間は、韓国の教祖文鮮明のもとに100億円を送金する月まであったとされる。
国会での議論
国会でも霊感商法問題は何十回も取り上げられ、警察庁の刑事局保安部生活経済課長が「でもこの種の商法というのは人の弱みといいますか、人の不安につけ込むというもので、悪質商法の中でも最も悪質なものの一つということで、全国の警察に繰り返し厳しく取り締まるように指示をしておるところでございます。その結果、この数年間で13件検挙した事例が出ております。各種の法令を適用して検挙しておる実態でございます。」と答弁した。
また原価の10倍から数百倍もの法外な値段で売ることがマニュアルで指示されていたことも語られている。
法的解釈
法的にみれば悩みや苦しみを抱えている者などに対して、霊界など科学的な根拠もないことを言って勧誘したり、霊視を口実に人を集めたり、演じたりなどして(人の宗教心や超自然的なものへの畏れなどを利用して)高額な金銭などを支払わせた相手方に対しては、1.公序良俗に違反する違法な行為(民法90条)、2.詐欺・強迫にあたる行為(民法96条)、3.不法行為(民法709条(大阪地裁平成10・2・27判決)により、代金の返還・損害賠償請求ができる。
相談事例・被害報告
全国霊感商法対策弁護士連絡会の1987年から2021年までの資料によると、霊感商法による物販や献金や借入などによる「被害件数」は3万4,537件で「被害総額」は約1,237億円に上る。
最も被害件数が多いのは1990年で2,880件、最も被害額が多いのは1987年で約164億円であった。物販には壺・印鑑・朝鮮人参濃縮液などが用いられている。
安倍晋三銃撃事件を受けて教団は記者会見を開いて、2009年にコンプライアンスを強化して献金を見直して以降トラブルはないと主張しているが、全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、2021年時点で霊感商法の被害総額は約3億3千万円、そのうち献金・浄財の被害額は約8,800万円に上っている。
統一教会/統一協会の霊感商法などをめぐる動き
1984年6月10日 - 霊感商法のマニュアルや資金の流れなど、統一教会/統一協会の内幕を暴露した手記を掲載した『文藝春秋』1984年7月号が発売された。
12月 - 『朝日ジャーナル』(12月5日号)が「霊感商法」の追及キャンペーンを始めた。
1986年12月23日 - 通商産業省(以下通産省、現経済産業省)の消費者トラブル連絡協議会において、同省が受け付けた霊感商法に係る相談事例の手口を公表し、参加11団体に注意喚起を要請した。
1987年1月 - 全国で1年以上のトーカーとしての経験を積んだ者が集まったトーカー修練会を開催。当時統一教会/統一協会の伝道局長であった桜井設雄が、トーカーの人事異動を発表した。
3月 - 日本弁護士連合会(日弁連)が霊感商法問題の調査を始めた。
3月2日 - 統一教会/統一協会は東京都総務局行政部指導課から霊感商法問題につき信者に対して指導するよう指示を受け、「ハッピーワールド」に対して、委託販売についての自粛を要請した。
3月19日 - 通産省が社団法人「日本訪問販売協会」の幹部に対し、同協会の会員になっているハッピーワールドと「世界のしあわせ」に対し、倫理綱領違反がある場合には同協会として処分を行うように指示した。
3月25日 - 通産省の消費者トラブル連絡協議会において、同省が受け付けた霊感商法に係る相談事例の手口を公表し、参加11団体に対し注意喚起を要請した。
4月 - 有田芳生が『朝日ジャーナル』の「霊感商法」批判キャンペーンに加わった。
4月6日 - 霊感商法に関わる「ハッピーワールド」と「世界のしあわせ」に対し事情聴取及び訪問販売法の遵守について通産省が指導。この日を含め3回指導。
4月30日 - 「ハッピーワールド」、「世界のしあわせ」が日本訪問販売協会幹を自主退会した。
5月 - 「霊感商法」被害の救済のために全国の約300名の弁護士による「全国霊感商法対策弁護士連絡会(略称「全国弁連」)」が結成された。
5月1日 - 「ハッピーワールド」が関連業者に「1987年3月末で『霊感商法』と誤解されるような販売は止めるように」と通達する。厚生省、通産省、国民生活センター にも以後、自粛するという旨を報告した。
5月15日 - 衆議院の法務委員会で警察庁刑事局保安部生活経済課長が霊感商法について、「悪質商法の中でも最も悪質なものの一つということで、全国の警察に繰り返し厳しく取り締まるように指示をしている」と答弁した。
6月3日 - 大阪府立労働センターで「霊石愛好会」の集会が開催。ワイドショーなどで霊能者として出演をしていた慈雲法師(本名:青木慈雲)が悟りや奇跡を呼ぶとして多宝塔の功徳を説き、「霊感商法」を擁護した。
6月6日 - 「霊石愛好会」が東京で「霊石感謝、真実の声、全国代表者大会」を開催した。
8月 - 統一教会/統一協会が「霊感商法」批判に対抗するために、教団の婦人信者を集めて、霊石(壷や多宝塔)を授かったことを感謝しているという「霊石愛好会」を作り、「霊石に感謝する集い」を各地で開催したり、自らの道場で壷・多宝塔を授け、販売という形でなく献金という形でお金を受け取った。
1988年1月7日、8日 - 霊感商法における多宝塔等の販売担当者を対象とした「全国トーカー修練会」が開催。前年に霊感商法を自粛することを教団側が公表していたにもかかわらず、教団の伝道局長、桜井設雄が信者たちに経済活動を奨励する講話をした。
1992年8月 - 韓国ソウルの3万組国際合同結婚式に桜田淳子、山崎浩子、徳田敦子の有名人が参加することで世間の注目を浴び、統一教会/統一協会の霊感商法問題を初めとする問題がマスコミで批判された。
1993年 - 山崎浩子の失踪事件についてインタビューされていた神山威会長が、霊感商法について質問された際に、「日本は法治国家だから、裁判で決着をつけましょう」という旨の発言をした。
9月17日 - 『週刊文春』が「統一教会系病院、命を弄ぶ霊感商法」というタイトルで統一教会/統一協会系の病院の医療のあり方を批判。
その後、記事で批判された医師はこの記事を名誉毀損で訴えたが、1997年2月24日、東京地裁は「医学界においても異論があり、また、癌でもないのに癌の判定をする結果につながりがちな腫瘍マーカー総合診断法に基づき…患者の不安をあおりたて、その不安に付け込んで本来不要で、かつ高額な費用負担を要する治療を行っていたということができる。」と認定して、医師の請求を棄却。東京高裁の1998年1月28日付判決、最高裁の同年7月16日付判決で確定。
1994年5月27日 - 福岡地方裁判所において、霊感商法をめぐる裁判で「信者らと教団は実質的な指揮監督関係にあり、信者が献金勧誘行為が教団の教義である万物復帰の実践として理解していたことや献金がいずれも教団に帰属していることなどからみて、原告らに対して不法行為責任を負う」として損害賠償を命じた初めての判決が出た。1996年2月19日、福岡高裁への統一教会/統一協会の控訴が棄却。
1997年9月18日最高裁判所も統一教会/統一協会の上告を棄却し、慰謝料も含めて3,760万円の支払いを命じた高裁判決が確定。
1996年3月 - 東京都生活文化局が「霊感・霊視商法等に関する実態調査報告」をまとめた。
1997年2月6日 - 東京の「青春を返せ訴訟」において、証人として小山田秀生4代目会長が教団元トップとしては初めて出廷し、霊感商法等は信者たちが勝手にやったことなどと証言。
1999年3月 - 日本弁護士連合会が「宗教的活動にかかわる人権侵害についての判断基準」を公表した。
3月11日 - 教団の上告を最高裁が棄却し、信者による霊感商法と同一の方法による献金の強要に関し、教団に対し、使用者責任を認め、献金相当額と慰謝料を支払いを認めた東京高裁判決(平成10年(1998年)9月22日)が確定。
2009年11月10日 - 統一教会/統一協会信者による「新世」事件の裁判で、東京地裁は被告に対し「高度な組織性が認められ、犯情は極めて悪い」として、特定商取引法違反により懲役刑などを言い渡した。
霊感商法の関係者が同法で懲役刑を受けるのは全国初[20]。
2010年3月19日 - 全国霊感商法対策弁護士連絡会が前年1年間における統一教会/統一協会が行った霊感商法の被害状況を公表。それによると、相談だけで1100件、37億4000万円にのぼり、とりわけ資産家女性を狙ったものが急増したという。