7/18(月) 16:02配信 JBpress
統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の創設者・文鮮明総裁と妻の韓鶴子氏(現・世界平和統一家庭連合総裁)。写真は1995年に韓国・ソウルで開催された合同結婚式のときのもの(写真:ロイター/アフロ)
(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
「統一教会」に出自がある、とツイートされたことを、名誉毀損として訴えている自民党の国会議員がいる。
「統一教会」は安倍晋三元首相を銃撃して命を奪った山上徹也容疑者(41)がその犯行の動機にあげたことから、いま再び注目を集めている。母親が同教団に多額の寄付をして家庭が崩壊したことに恨みを抱き、つながりのある安倍氏を襲った、と供述していることが報じられている。
ただ、現在では「統一教会」こと「世界基督教統一心霊協会」は存在しない。日本では創始者の文鮮明が死去してから「世界平和統一家庭連合」に名称を変え、妻の韓鶴子が主宰者となっている。その「家庭連合」が事件から3日後に記者会見を開き、山上容疑者の母親が会員であることを認めたことから、それまで公然の秘密だった団体名を「旧・統一教会」などとしてメディアが一斉に報じはじめた(なお、本稿ではその歴史的背景にも触れることから「統一教会」と表記する)。
■ 「原理研や統一教会に対し反社会的な団体との印象を抱く者が少なくない」
その韓鶴子が総裁となり、2005年にニューヨークで設立したNGOに「天宙平和連合(UPF)」というものがある。いわば、統一教会のフロント団体だ。昨年9月にこの団体が開催したイベントに、安倍氏は韓鶴子を表敬するビデオメッセージを送っている。
山上容疑者はこのビデオメッセージを見たと供述し、また統一教会を日本に招き入れたのが祖父の岸信介元首相だったことも、安倍氏を殺した動機だった、という。
その統一教会のいわゆる学生組織に「原理研究会」がある。文鮮明が示した教義“統一原理”を研究する組織として、主に大学の学生サークルとして活動しながら、信徒を勧誘している。
この原理研の出身であるような書き込みをされたとして提訴しているのが、自民党の世耕弘成参議院議員だ。世耕氏は第1次安倍政権で首相補佐官、第2次政権で経済産業大臣を務めた。安倍氏の最側近の1人で、安倍氏亡き後は集団指導体制をとるとされる安倍派の屋台骨を支える存在とされる。しかも現在は参院幹事長として自民党の要職にある。
世耕氏は訴状で「原理研や統一教会に対して、反社会的な団体であるとの印象を抱く者が少なくない」と明記。書き込みは社会的評価を低下させるものであるとして、名誉毀損に基づく損害賠償などを求め、2019年8月に東京地裁に提訴した。
■ 自民党と統一教会の秘されてきた関係
確かに統一教会といえば、いわゆる霊感商法や合同結婚式が社会問題化し、資金集めや布教過程などで、違法とする司法判断が積み重なっていて、いまもあとを絶たない。「反社会的な団体」の評価は的を射ている。
訴えられたのは青山学院大学の中野昌宏教授。ところが、中野教授は事前に訂正や削除の要請もなく、いきなり提訴されたことを「スラップ」(権力者による恫喝訴訟)と主張して、2020年9月に世耕氏を反訴したのだ。いまも東京地裁で係争中だが、ここで中野教授側が反訴状の中で指摘しているのが、「反社会的な団体」と世耕氏が呼ぶ統一教会と自民党の関係だ。あえて「自民党と統一教会の密接な協力関係の歴史」とする項目を立て、証拠も添えて主張を展開している。
これをまとめたのは代理人の海渡雄一弁護士だ。海渡氏は社民党の福島みずほ党首のいわゆる“パートナー”で、先週、東京電力福島第1原子力発電所の事故をめぐり、東京電力旧経営陣4人に13兆円を超える損害賠償の支払いが命じられた株主訴訟の原告代理人でもある。
その主張するところを以下に列挙する。
○1954年に韓国で創設された統一教会の黎明期に、日本で密接な関係を築いたのが安倍氏の祖父の岸信介元首相だった。
○1958年に統一教会の宣教師がはじめて日本に上陸した時に、密入国で逮捕されている。これを庇護したのが日本船舶振興会(現在の日本財団)の笹川良一氏で、彼を通じて岸元首相が統一教会を支援するようになった。
○1964年には、統一教会本部が渋谷区南平台の岸信介邸の隣にあり、その後に渋谷区松濤に移った本部を岸元首相がしばしば訪れ、1970年、71年、73年と教会員を激励する講演を行った。
○1967年には笹川氏が本栖湖の畔の施設に教祖の文鮮明、白井為雄氏(児玉誉士夫氏の代理)、日本統一教会の初代会長の久保木修己氏を招き、翌年には韓国と日本で反共産主義の政治団体「国際勝共連合」を設立。笹川氏が日本支部の名誉会長に、久保木氏が会長に就任している。
○1970年に開催された「世界反共連盟(WACL)」のイベントでは、笹川氏、岸氏以外にも多くの自民党議員が花を贈っている。岸氏が名誉実行委員長を務めた1974年の「希望の日晩餐会」では当時の福田赳夫外相が「アジアに偉大なる指導者現る。その名を文鮮明という」などというスピーチを行い、のちの国会でも追及されている――。
ちなみに、福田元首相の派閥の流れが現在の安倍派に連なる。
さて、問題なのは、「霊感商法」という言葉が定着したとされる1985年以降だ。
■ 霊感商法が社会問題化してからも続いた関係
それまでは反共思想で政治とつるんでいたはずが、ここから「反社会的な団体」としての性質を帯びるようになる。にもかかわらずだ。反訴状には、その後の自民党と統一教会の関係についても、以下のようにまとめられている。
●霊感商法によって売られたとされる壺や多宝塔などは、実は価値のあるもので、高額で買った人々は喜んでいるとする「霊石愛好会」の集会が国内各地で行われたが、ここに福田赳夫元首相をはじめ、自民党の国会議員が祝電を送り、国会で問題となった。
●1992年には文鮮明が来日している。本来であれば、米国で1年以上の刑を受けている文鮮明は入国管理法で入国できないはずだったが、「北東アジアの平和を考える国会議員の会」(自民党議員31名)なる団体の招請ということで、当時の金丸信議員が法務大臣に働きかけて入国が実現したとされる。これも国会で取り上げられている。
●その後、表立った政治との関係は控えられるように見えたが、2000年代に入ると再び顕在化する。
●1992年の8月にもソウルでの統一教会のイベントで祝辞を述べた中曽根康弘元首相が、2004年3月に都内での関連団体「世界平和連合」の大会で憲法改正について講演している。この時は自民党議員8名の他に、当時の民主党議員9名が参加。当時の鳩山由紀夫代表も来賓として挨拶している。
●2005年10月4日には、(山上容疑者が殺意を抱くきっかけとなったという)「天宙平和連合」の行事に、すでに安倍氏が祝電を打っている。
●翌2006年5月の内閣官房長官時代にも、やはり同組織のイベントに祝電を打った。これは全国12都市で連続して行われたもので、安倍氏はこのうち東京と広島の大会に2度の祝電を打っている。この他に数十人の国会議員が祝電を打ったり来賓で招かれたりした。
■ 関連団体所長が著書で「安倍晋三」を激推し
●2009年に自民党が下野すると、自民党議員が統一教会の関連団体で講演することが増える。関連する「世界平和連合」「世界平和女性連合」で稲田朋美氏が講演。安倍氏も「世界戦略総合研究所」の講演やシンポジウムに登壇。同研究所の定例会では、下村博文、中川秀直、衛藤晟一、石破茂などが講師を務めている。
そして、2012年の9月に文鮮明が死去。後継問題で教団の基盤が揺らぐと同時に、この年の12月に第2次安倍政権が誕生している。
●2013年には「世界戦略総合研究所」の阿部正寿所長の著書の出版記念会に下村博文、中川秀直、上野通子、磯崎仁彦らが出席。衛藤晟一らが祝電を送った。この著書『安倍政権の強みがわかる 日本[精神]の力』には、以下のような記載がある。
「なんとか保守政権を樹立すべく私なりに努力してきた。そしてその中心人物は安倍晋三氏でなければならないと決めてきた。これは単に相応しい人物というより、天の摂理から見て安倍晋三氏であるべきだと感じたからである。(中略)簡単に言えば天が選んだ人物だということである」
●2013年7月の参院選では安倍氏の地元山口から立候補した北村経夫の選挙支援が教団に要請されている。同年5月には当選した北村氏の著書『誇り高き国へ』の出版記念パーティーに「世界戦略総合研究所」の事務局次長の小林幸司氏が招かれ、のちに関係者は安倍首相主催の桜を見る会にも招待されているとされる。
●2015年には「世界基督教統一心霊協会」から「世界平和統一家庭連合」に名称が変更されているが、文化庁が長らく許可しなかったところを、当時の下村博文文部科学大臣の働きかけがあったとされる(これについて下村氏は先週SNSで否定)。教団名変更式典には、鳩山由紀夫、亀井静香が祝電を送った。
●2016年には、米国で大方の予想を裏切ってトランプ氏が大統領選挙に勝利しているが、パイプを持たなかった安倍官邸はこの時に教団を利用して当選直後のトランプ・安倍会談にこぎつけたと見られている。
●2017年には統一教会の幹部の一行が来日。自民党執行部が彼らを自民党本部や官邸に招待。当時の菅義偉官房長官も彼らを官邸に招待すると案内したとされる。
●この頃には、自民党の多くの国会議員が教団の活動に協力していると報じられていることを、実名と証拠書面で示す。
●首相時代の安倍氏は、「国際勝共連合」の月刊誌『世界思想』の2013年3月号と9月号、2017年12月号、2018年6月号の表紙として登場している――。
こうして、昨年9月の「天宙平和連合」に送った安倍氏のビデオメッセージにつながっていく。首相在任期間が史上最も長く、また、「自由で開かれたインド太平洋」を提唱した安倍氏が、この団体と統一教会のつながりや、文鮮明の妻で教団主宰者の韓鶴子の存在を知らなかったはずがない。それでも安倍氏は「韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」と言明している。
■ 統一教会との関係、自民党はどうケリをつけるのか
ここまでは世耕氏を反訴している側の主張を一方的に列挙しただけだが、自民党と統一教会の過去から現在まで続く「密接な協力関係」の主張については、証拠も示されている。それも、統一教会を「反社会的な団体であるとの印象を抱く者が少なくない」と断じる世耕氏が、自身と統一教会や原理研との関係を追及するようなツイートを「名誉棄損だ」と訴えたことにはじまる。どのような結果になるのか、司法判断が待たれる。その前に、世耕氏がどう反論するのだろうか。
実はそのまたとない機会が、今週22日に予定されていた。この名誉毀損訴訟で世耕氏が東京地裁に出廷し、尋問に立つはずだった。ところが、ここへきて急遽、その期日が取り消されたのだ。
安倍氏が命を奪われたことで、統一教会は再び世間の耳目を集める存在となった。ところが名誉を毀損されたはずの世耕氏にとっては、師事したはずの派閥のボスが「反社会的な団体」の大ボスを敬う姿も世間が知るところとなった。傍から見れば、目も当てられない。政治家としての説明責任を問われて然るべきだ。
安倍氏の最側近で自民党の幹部が「反社会的な団体」として名誉毀損訴訟まで起こしている現実。自民党は統一教会との関係を早急に総括する必要がありそうだ。そうでなければ、安倍氏の国葬もあったものではない。(文中一部敬称略)
青沼 陽一郎