7/21(木) 15:16配信 プレジデントオンライン
■宗教と政治のズブズブ関係が話題になるのは一瞬
安倍晋三元首相の「悲劇」を受けて、世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)と政治の関係が注目されている。
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メディアでは連日のように、「安倍家3代と統一教会」「自民党と宗教との深い関係」なんてニュースが報じられ、中にはこの宗教と関係が深い自民党議員などを羅列したリストまで公開されている。
評論家や著名人も黙っていない。「カルト宗教が日本を食いものにしているのを止めるべき」「今こそ自民党は旧統一協会との関係を断ち切れ」などという意見が多く聞かれる。
ただ、統一教会と政治の関係を30年近く注視してきた立場から言わせていただくと正直、この宗教団体と自民党との関係を断ち切ることはかなり難しい。ましてや、カルト扱いして日本から追い出す、なんてことは不可能だと感じる。
今は安倍元首相を失った悲しみでマスコミも威勢のいいことばかり言っている。もし熱烈な安倍氏支持者や愛国者の皆さんから「報復」のような形で、旧統一協会関連施設や、信者が襲撃されるというようなトラブルが起きれば、さらに世論もヒートアップするだろう。
ただ、それだけだ。喉元過ぎればなんとやらで、別の大事件が起きればマスコミはわっとそっちに飛びついて世間の関心も薄れていく。半年も経過すれば、多くの人は「統一教会? ああ、そんな事件あったね」なんて反応で、自民党とズブズブだなんだという話も忘れ去られていく。
■旧統一教会を弾圧できない「オトナの事情」
なぜそんなことが断言できるのかというと、「30年以上前からその繰り返しだった」からである。
実ははるか昔から「自民党と統一教会」「岸信介から続く安倍家との関係」なんて話は週刊誌などでは当たり前のように扱われていた。テレビや新聞はスルーしていたが、それでも1980年代に「霊感商法」が社会問題になった時などは、連日のようにこの宗教を取り上げて大騒ぎをしており、その過程でこのテーマにも言及していた。
しかし、それで「終了」だ。何かの話が飛び出して瞬間風速的に注目を集めるが、その後に自民党が旧統一教会との関係を断ち切ります、なんて方針転換したこともないし、山上徹也容疑者のように家族が信仰にのめり込んで人生が狂う「宗教2世」へのセーフティーネットがつくられたなんてこともない。
「これまではそうだったかもしれないが、今回は元首相が殺されているのだぞ!」と怒りに震えている方も多いだろうが、だからといって政府が、そう簡単にこの宗教を弾圧できない「オトナの事情」がいくつかあるのだ。
山上容疑者が鵜呑みにしたネットの陰謀論によれば、「安倍家が裏で手を回していた」「自民党が警察やマスコミに圧力をかけていた」というストーリーがメジャーだが、そんなチープな話ではなく、実はこの宗教はもっと大きな政治力学の中で守られている。
■アメリカの歴代大統領も旧統一教会シンパだった
日本のメディアは「旧統一教会と安倍家はズブズブだ」で大騒ぎをしているが、実はズブズブ具合では米保守系政治家も負けていない。
古くはリチャード・ニクソンからロナルド・レーガン、ジョージ・ブッシュ父子など歴代の共和党系大統領はみな旧統一教会シンパとして知られている。また、現在もトランプ前大統領、マイク・ペンス前副大統領、マイク・ポンペオ前国防長官、ニュート・ギングリッチ元下院議長など、旧統一教会系政治団体のイベントで挨拶をするなど、親密な関係だと言われている。
なぜこんなにシンパが多いのか。陰謀論者からすれば「岸信介をはじめ安倍三代がアメリカでも布教活動を手伝ったのでは」と考えるかもしれないが、さすがに安倍ファミリーもそこまでヒマではない。
これはシンプルに、アメリカの保守系政治家と「ウマが合う」ということがある。大統領になったら聖書に手をのせて宣誓するアメリカでは、政治家がキリスト教系団体から支持を受けることにまったく抵抗はないし、設立者の文鮮明氏の反共主義という政治イデオロギーも共和党と親和性が高い。
自民党の国会議員が、神道系の新興宗教から支持を受けていても、世間の反応が「でしょうね」となるのと一緒だ。
■巨大な集票装置かつ世論誘導もしてくれる「太客」
そこに加えて、米保守系政治家にとって魅力的なのは、旧統一教会と良好な関係を築くと、ここに「シンパメディア」のおまけがつくという「お得感」もあるからだ。
文氏が1982年に設立した保守系新聞「ワシントン・タイムズ」は、レーガン以降の共産党議員を熱烈に応援してきた。レーガン大統領がこの新聞を愛読していたというのは有名な話だし、20年の米大統領選の時も、アメリカ国内メディアの多くがバイデン氏の支持を表明する中で、トランプ氏支持を表明したのも、この「ワシントン・タイムズ」だった。
宗教という巨大な集票装置の支援を得られることに加えて、保守系メディアで世論誘導までしてくれる。米共和党の政治家にとって、旧統一教会ほど非常に心強い「太客」はいないのだ。
となると当然、日本の保守政治家たちも、旧統一教会と良好な関係をキープするしかない。このあたりの事情は、日本という国家の原則ともいうべき「対米従属」をイメージしていただくとわかりやすいだろう。
■旧統一教会とのパイプ=米保守系政治家への忖度
沖縄の基地問題、憲法を無視した安全保障関連法制などを見てもわかるように、基本的に日本という国は“アメリカ様”が求めていることは、それがどんなに理不尽なことでも、屈辱的なことでも甘んじて従わなければいけない。
特に日本の保守系政治家は、「対中国・北朝鮮の安全保障」という人質を米保守系政治家に握られているようなものなので、彼らの嫌がることができない。
そんな「対米従属」の現実がある中で、自民党が旧統一教会と「絶縁」できるだろうか。米共和党の政治家たちに対して、「あなたたちが支持している団体だけど、我が国ではカルト認定し政治の世界から排除しましたので、悪しからず」などと伝えることができるだろうか。
できるわけがない。ほとぼりが冷めるまでは表向きは距離をとるかもしれないが、水面下ではちゃんとつながっていて、安倍氏のポジションを清和会の誰かがしれっと引き継ぐはずだ。文鮮明と岸信介の蜜月関係を、福田赳夫がちゃんと受け継いだことからもわかるように、旧統一教会とのパイプはなにも安倍家だけのものではなく、清和会で「維持管理」しているものなのだ。
つまり、「安倍家と旧統一教会が蜜月」というのは、清和会を中心とした日本の保守系政治家が、「良好な日米関係」を維持するという大義のため、米保守系政治家への「忖度」をし続けてきたことの結果でもあるのだ。
だから、安倍元首相一人いなくなっても状況は何も変わらない。「自民党と旧統一教会」というのは日本の「対米従属」が変わらない限り続いていく構造的な問題なのだ。
■各種宗教団体が「相乗り」している自民党
もちろん、それだけではなく、自民党自身にも「選挙支援」など旧統一教会との関係を断ち切れない「オトナの事情」がいくつかある。その中でも実は特に大きいのは、「自民党を支える他の宗教団体への配慮」だ。
今回やたらと「自民党と旧統一教会はズブズブだ」という話が盛り上がっているが、自民党がズブズブなのはなにも旧統一教会だけではない。
「保守政党」だけあって、有名なところでは神社本庁があるが、それ以外にもさまざまな宗教団体が選挙になると、自民党候補者を支援している。例えば、日本会議ホームページの「役員名簿」を見ると、新生佛教教団、解脱会、念法眞教、佛所護念会、崇教真光、大和教団などの幹部の名が連なっている。また、霊友会や立正佼成会も自民党の「友好団体」として知られているし、創価学会にいたっては連立政権を組む間柄だ。
さて、そこで想像していただきたい。このようにさまざまな宗教団体が「相乗り」しているような状態の自民党が、今回の事件とその後の信者トラブルの報道などを受けて、旧統一教会との付き合いを完全に断ち切ると宣言したらどうなるか。
■宗教団体が恐れる「宗教排除の成功モデル」
われわれ一般庶民の感覚では、「まったく問題ないじゃん、他のちゃんとした宗教団体からすれば、カルトがいなくなったと大喜びするんじゃないの?」と思うだろう。
しかし、宗教団体からすると、これはちっとも喜ばしいことではなく、むしろ強固に反対して自民党に思いとどまらせる可能性が高い。
世間を震撼させる事件やマスコミ報道という「条件」さえ揃えば、政治が恣意的に宗教を「社会悪」とジャッジするという前例ができると、自分たちにもそれが適用される恐れがあるからだ。
どんな宗教でも信者やその家族、あるいは脱会した人の間に「トラブル」は起きる。今回の旧統一教会ほど極端なケースではなくとも、信仰にのめり込むあまり、家族が崩壊するなんて話はそれほど珍しくないので、さまざまな宗教には「被害者」という人たちが存在する。
つまり、宗教の評価というのは見る人によってまちまちなのだ。シンパの人には「ちゃんとした宗教」に見えても、被害者からすれば「カルト宗教」「霊感商法」に見えることもある。
この「あやふやさ」によって、宗教団体は政治に介入することができた。
しかし、山上容疑者の事件によって、政治との関係や、献金トラブルが注目されてその結果、旧統一教会が「排除」されるということになれば、この大原則が崩壊する。つまり、世間を震撼させる大事件を起こして社会に問題提起すれば、「悪い宗教」だと政治に認定させて、社会的制裁を与えられるという「宗教排除の成功モデル」ができてしまうのだ。
■「俺も山上容疑者と同じことをやれば…」
例えば、自民党と関係の深い宗教団体に対して、強い恨みを持つ男性がいたとしよう。彼も今回の山上容疑者のように家庭を崩壊させられた過去を持つ。
そんな男性が、もし今回の事件で自民党が旧統一教会と絶縁したと聞いたら、こう思うのではないか。
「なんだよ、じゃあ俺も山上容疑者と同じことをやれば、あの教団にダメージを与えられるってことじゃん」
おそらく、男性はこの宗教団体から支援を受けているような自民党議員を狙う。大きな事件を起こせば起こすほど、マスコミは朝から晩まで報じてくれるので、もっと過激な手口で犯行に及ぶかもしれない。
「そんなバカなことを考える人間はいない」と思うかもしれないが、海外では、無差殺人のような「拡大自殺」をする者たちの多くは、衝撃的な事件を起こすことで自分の主義主張を世に知らしめているというような指摘が多い。
だから、アメリカでは、無差別殺傷事件が起きると、模倣犯を生まないように、犯人がどんな人柄で、どんな思想をもっていたのかを過剰に報じないようにマスコミに求める「No Notoriety(悪名を広めるな)」という団体もあるのだ。そのことはプレジデントオンラインで、<「無差別襲撃が相次ぐのはメディアの責任である」犯人にわざわざ手口を教えるマスコミの罪>として書いたので、参照してほしい。
■今回の事件への対応が「次の悲劇」を生むリスク
今回、マスコミは朝から晩まで惨劇の瞬間をエンドレスリピートして、山上容疑者の「悪名」を日本全国津々浦々に流し、彼の不幸な境遇やその思想を広めている。同じように宗教に憎悪を燃やす人たちに、「皆さんも山上容疑者のようにやれば、あの憎い宗教に復讐できますよ」と教えているに等しい。
いずれにせよ、政府や自民党が旧統一教会を名指しで攻撃して、排除するということは「宗教排除の成功モデル」がつくられるということなので、自民党支持の宗教団体の多くはこの動きに賛同しないだろう。ということは、自民党としては旧統一教会との関係はこのままの「グレー」にしてズルズルと続けていくしかない。
以上のように、自民党が旧統一教会と手を切るのは外交的にも国内の支持基盤的にも難しい。「できない」ことを「やれやれ」と叫んでも不毛なので、もっと地に足のついた議論をすべきだ。
■いま本当に必要なのは「宗教被害者」の救済方法だ
例えば、この問題を長く関わってきた紀藤正樹弁護士がワイドショー出演時に、統一教会の2世信者があまりにかわいそうなので養子にもらおうと思った、という趣旨のことをおっしゃっていたが、そういう不幸な子どもを国や自治体が保護して、しっかりと食事や教育を受けさせられるようにする仕組みがまだ足りていない。
父親にボコボコに殴られて虫の息になった子どもがSOSを発しているにもかかわらず、児童相談所の職員が「やっぱりパパと一緒が幸せだよね」と父親の元に送り戻して、死にいたらしめるなんて悲劇がたびたび起きていることからもわかるように、日本は「親権」が非常に強くて、行政は家庭内のトラブルになかなか介入できない。
実はこれも自民党支持の宗教団体が掲げる「伝統的家族制度の復活」という思想が色濃く影響しているのだが、こちらのほうが児童福祉の観点からまだ変えられる余地がある。
「自民党は旧統一教会と縁を切れ」なんてことを叫んでも、歴史に学べば一時の「エンタメ」となって終了だ。そうならないためにもいま本当に必要なのは、この瞬間に、苦しむ「宗教被害者」をどう救えるのかという議論なのではないか。
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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)など。
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ノンフィクションライター 窪田 順生