2021/03/23 あしたの人事
コロナ禍の影響もあり、社会的格差が広がっていますが、2020年の雇用状況は、景気の悪化により、非正規雇用を減らす一方で将来に向けた人材の確保を目的とした正規社員を維持する傾向がありました。
また、非正規社員は休業手当が払われず、事実上の退職に追い込まれたというケースも少なくありません。
2020年の4月1日から、既に大企業では適用されている同一労働同一賃金ガイドラインですが、2021年4月1日からは中小企業にも適用されます。このガイドラインは、正規社員か非正規社員かという雇用形態に関わらず均等、均衡待遇を確保して同一労働同一賃金の実現を目指したものです。
今後は、雇用形態や勤務時間に関わらず、勤務態度や能力による人事評価制度にも注目することが大切です。この記事では、非正規雇用の実態や問題点と是正策、今後の課題などを検討してみます。
非正規雇用の主な種類
非正規雇用には、いくつかの呼び方や働き方があります。まずは、それぞれの違いや特徴について解説します。
契約社員
契約社員と正規社員との主な違いとして、雇用期間が挙げられます。契約社員は、労働契約の際にあらかじめ雇用期間を労働者と企業の間で取り決めます。労働者や業務内容によっても異なりますが、契約期間1回の一般的な上限は3年です。
このように、契約期間の満了によって労働契約が終了となります。契約期間以外にも、労働組合の参加の有無、退職金や給与体系等に関しても正規社員と異なるケースがあります。
派遣労働者
派遣労働者は、人材派遣会社と労働者が契約する働き方です。したがって、人材派遣会社が派遣先企業に労働者を派遣します。それにより、派遣先企業の指揮命令の下で労働者が働くことになります。例えば、業務中に起きた事故やトラブルの問題などのルールは、労働派遣法において定められています。
パートタイム労働者
パートタイム労働者は、一般的に「パート」や「アルバイト」と呼ばれています。正規社員と比較して一週間の所定労働時間が短いことが特徴です。呼び方が異なっても、条件があてはまればパートタイム労働者となります。
また、雇用ルールや昇給、退職手当や賞与について、雇い入れの際に明示することが「パートタイム労働法」で義務付けられています。
正社員と非正規社員の「不合理な相違」とは
事例:日本郵便に一部勝訴
2017年9月14日、日本郵便で契約社員の男性3人が正社員と同じ仕事をしているが手当などに格差があるのは違法として、約1,500万円の損害賠償を求めました。訴訟の判決においては、東京地裁は訴えの一部を認めました。
判決によれば、住居手当や有給の病気休暇がないことなどは「不合理な労働条件の相違に当たる」と判断し、計約92万円の賠償を日本郵便に命じたのです。
不合理な待遇の違いを禁止する改正労働契約法
2013年に施行された改正労働契約法は、正社員と非正規社員の不合理な待遇の違いを禁止しています。契約社員に、正社員と比べて住居手当や有給の病気休暇がないことを違法と断じた判決は今回が初めてです。こういう不合理な社会的格差の実態が、まだ現実には非正規雇用にあり、裁判所も明確に違法だとしています。
2021年正規社員が増えた理由と実態
2021年は、コロナ禍の影響もあり、経済状況は不安定だったにもかかわらず、正規社員の雇用がプラスとなっています。
理由としては、コロナ禍以前より人手不足の傾向にあった上に、今後の人口減少に備えて中核となる人材を確保するニーズが強まったと考えられています。反対に、企業は非正規労働者を大きく減らすケースがみられました。
厚生労働省の集計では、新型コロナウイルス感染拡大に関する解雇や雇止め7万9608人のうち、非正規社員が少なくとも3万8人を占めていることが分かり、今後非正規社員が受ける影響がますます懸念されています。
ただし、非正規で雇用されることのすべてがデメリットというわけではありません。非正規雇用されることのメリットも知っておきましょう。
非正規雇用のメリット「非正規雇用ならではの柔軟で多様な働き方」
労働者側にも正社員より柔軟で多様な働き方ができるというメリットがあります。
正社員の場合、1日8時間、週5日で40時間という時間が多くの企業で基本となりますが、非正規雇用の社員の場合は1日あたりの労働時間が短くなったり、出退勤の時間が変動することで、子育てや介護などがしやすくなるというメリットが生まれます。
非正規雇用が増加することで生じる問題点
自ら望んで非正規雇用になる場合を除き、不本意ながら正社員になりたくてもなれない非正規社員が増え続けると、ますます社会的な格差が広がるという問題がでてくるでしょう。
総務省の「労働力調査」によると、非正規で働いている社員の中で、実際には正社員を望んでいるという「不本意非正規雇用労働者」の人数は、2019年は236万人で前年比-23万人減少しています。しかし、不本意非正規だった人で、翌年に正規社員になったという人は、10%程度にとどまっています。
不本意非正規の割合を減らすには、正規雇用に転換していくことが重要ですが、たとえ非正規雇用のままでも本人の納得度を深める必要があります。同一労働同一賃金ガイドラインが制定されるなか、非正規社員に対しても正しい評価を行うことが大切です。
非正規社員と正社員の格差の是正と問題
非正規社員には、低賃金や不安定な雇用のほか、能力アップの機会が少ないなどの問題が挙げられます。国税庁の2019年民間給与実態統計調査では、正規雇用の平均給与が503万円に対し、非正規雇用が175万円となっており、と正社員の平均給与差は328万円でした。
この格差から、「結婚したくてもできない」「子どもが欲しくても産めない」など大きな社会問題となっている少子高齢化とも無関係ではないことがわかるでしょう。格差の拡大は一般消費者の購買力を低下させ、景気の悪化から企業の利益が減少するという悪循環に陥ります。
企業では、有期雇用の非正規社員がアップすることで長期的な展望での人材育成ができず、継続的な経済成長を脅かしています。そこには、かつて世界をリードしたようなイノベーション(技術革新)を生み出すような気風も育ちません。
政府の「働き方改革」の柱となる「同一賃金同一労働」などの施策で、早急な改善が望まれるところですが、厚生労働省は2016年1月に「正社員転換・待遇改善実現プラン」を発表しました。
これは非正規社員の希望や意欲、能力に応じて正社員への転換や待遇改善を長期的に図るもので、企業にも取り組みが求められます。雇用の質だけでなく、生産性の向上にも寄与するもので、2016年4月~2021年3月までの5年を計画期間として実施されています。
非正規雇用とこれからの時間外労働
時間外労働の上限規制も、非正規社員増加の大きな要因の一つです。
2019年4月に施行された働き方改革関連法では、残業は年間720時間以内、単月では100時間未満に制限され、違反した場合には事業者に罰金などが科されます。そのため、正社員が稼働できない部分を非正規社員で補おうとする動きが顕著となりました。