みつとみ俊郎のダイアリー

音楽家みつとみ俊郎の日記です。伊豆高原の自宅で、脳出血で半身麻痺の妻の介護をしながら暮らしています。

40回目の結婚記念日

2013-04-24 11:49:31 | Weblog
おとといの月曜日4/22は、私と恵子の40回目のアニバーサリーだった。
40年前のあの日のことは今でも昨日のように思い出すことはできるが、当然のことながら、私たち二人が40年後にどこでどうしているかといったことは考えもしないことだった。
今さら過去にどんなことがあったかなど一つ一つ思い出してみても始まらない。
おそらく、基本的な私自身の頭の中身はそれほど変わっていないと思うからだ。
この日の数ヶ月前に、大学の神学科の教授であり牧師でもあった彼女の父を渋谷のレストランに呼び出し「お嬢さんをいただきたい」的なことを言った時も、「イエス」という答えが当然であるかのように義父は、逆に「結婚式はこうした方が良いね」といった提案までしてくれた。
それもそのはず、私と彼とは初対面だったわけではなく、大学の構内で教授と学生という立場でたびたび顔を合わせたり、彼女を送るという口実で彼女の家にもたびたび訪れていたので結婚前からまるで「義父」と息子のような関係だったたからだ(でも、いちおう正式に結婚を申し込んだ方が良いネと二人で相談した上での呼び出しだった)。
結婚式はしなかった。
これも義父からの提案だった。
牧師である彼からこんな申し出を受けたわけだから私としても断る理由はどこにもなかった。
いわゆるリベラルな考えを持つ進歩的な教授としても知られていた義父がこんな提案をしてくるのもある程度予測はついていた。
しかし、彼は「やはり親しい人や世話になった人たちに挨拶ぐらいはしないとまずいから、披露パーティでもやりなさい」とも言ってくれた。
それで私たちは40年前のこの日「会費制の結婚披露パーティ」なるものを行った。
おそらく、40年前にはそれほど多いスタイルではなかったはずだ。
会場の神田のYMCAの人たちもかなり戸惑っていたのが印象的だった。
結婚は(家同士がするものではなく)本人同士の意志でするものという意識はだんだんと日本の社会でも根付いているようだが、現在のような少子高齢化社会ではそれが果たしてベストな意識なのかという疑問も時々湧く。
プロフェッショナルな介護施設がどんどん増える一方で、やはり介護というのは「助け合う」という気持ちがどこか根底にない限り成立しないのではと思うからだ。
子供が親の面倒を見るのは当然、だとは思わない。
介護や助け合いに方程式はないし、一人一人一軒一軒ケースは違う。
だからスタイルは千差万別で良いのだと思う。
お金に余裕のある人、ない人。そんな違いだけでなく「意識」の違いや年の違い(つまり体力の違いだ)というものもある。
面倒を見たくても見れない事情も個々にあるのだろう。
しかし、「愛情を注げる相手、助けてあげられる相手」がいるということほど幸せなことはないという気持ちは、結婚から40年たった今初めて理解できたことだった。
最愛の妻が病気になり自分では何もできないような状態になってしまった時、それを支えていかれる自分にこれほどの幸福感を感じたことはなかった。
多分、それはこの四十年間で最も幸せな瞬間だったかもしれない。
夫婦が結婚する時に誓う「健やかなときも、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け」ということばも、一番大事なのは病める時や悲しい時に助け合えるかどうかということだろうと思う。
人生にアップダウンがあるのは当たり前のことなのだから、問題はダウンの時にどう生きていくかだけだ。
私はもともと「打たれ強い」人間だと思っているので、しょうしょうの困難さにへこたれたりはしない。
しかし、そんな時も妻が横にいてくれたことがどんなに支えになったことだろうか。
私がこの四十年間音楽を職業として生きてこれたのも、文字通り彼女のおかげだと言ってもいい。
結婚前、私は自分の将来についてかなり迷っていた。
音楽を自分の職業とすべきかどうか。
音楽というものは、仕事として選択するにはあまりにもリスクが大きな存在に思えたからだ(今でも正直そう思っている)。
そんな時、私の背中をポンと押してくれたのは、現在の妻(まだその時は結婚前だったが)のひとことだった。
私は、彼女にいきなりこう聞かれた。
「本当に音楽が好きなの?」
もちろんと答えると、彼女はすかさずこう言った。
「だったらプロになるしかないじゃない」。
彼女の真意はこうだった。
「アマチュアとプロの違いは、うまいか下手かじゃないの。その人にどれだけ本気度があるかどうかだけ。ある意味、プロというのはどんな分野でも崖っぷちに立っている人だと私は思うの。
崖に立っている人は、安全な場所で見ている人たち、つまりアマチュアの人たち、には絶対に見ることのできない絶景を見ることができるの。それが見たかったらプロになるっきゃない。
プロにはプロにしか見ることのできない景色があるはず。それが多分<本当の景色>だと思うの。本当に音楽が好きだったらプロになるしかない。私はそう思うんだけどな」。
たしか彼女はそんなことを言って私を鼓舞し、背中を押してくれた。
だからここまでプロ音楽家として頑張ってこれたという気もする。
その時の彼女の励ましに比べれば、今身体の不自由な彼女を助けることぐらい何でもない。
本気でそう思えた40回目のアニバーサリーだった。


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1 コメント

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結婚記念日おめでとうございます。 (大高吟子)
2013-04-28 13:59:33
大高吟子です。先ほど、youtubeの動画を見て、感激しています。
俊朗さんの愛情、惠子さんの前向きな姿勢とセンス。
音楽ももちろん、改めてペインティングって、いいなあ、と思いました。

何かすごく元気づけられました!

来月アメリカのSDPカンファレンスに行きます。
私がこんなに感激するのだから、アメリカ人の反応ってどんななのでしょう。

みんなに見てもらいたい!と思いました。
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