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武士猿 (集英社文庫) 価格:¥ 750(税込) 発売日:2012-05-18 |
沖縄の古流空手道「今野塾」を主催する今野敏氏が書いた本である。
主役は、空手だけでなく、柔道やボクシングの使い手と戦っても負け知らずだった本部朝基(もとぶちょうき)である。
強さを求めて生きた求道者としての空手家の姿が描かれている。
おもしろい。
沖縄の空手、いや武道の神髄に触れるような描写がたくさん出てくる。
(相手は)リングに上がる前に、十分に準備運動をしたことを物語っている。
戦う前に準備運動をする。もう、その時点で、朝基の考えとは違っている。戦うのは、いきなり始まることの方がずっと多い。いちいち準備運動などしている余裕はないのだ。p.259
実際に立ち会ってみて実感したのだが、唐手とボクシングの理屈はまるで違う。体の使い方も違えば、力の出し方も違うのだ。
だが、形骸化した型だけを伝えているうちに、ヤマトの唐手はボクシングのように筋力だけに頼るものに変化していくのではないだろうか。p.312
唐手がボクシングのように・・・というだけではない、柔道もレスリングのように筋力に頼るものに変化している。
たしかに、日本の武術の先生は、六十歳にもなれば、武道家然とした貫禄もあり、自分では稽古もせずにふんぞり返っている者もいるようだ。
冗談ではないと、朝基は思った。
強くなるには、まだまだ修行が必要だ。そして、自分はさらに強くなれるという自信があった。
東洋大学で教えるようになってからも、自分自身の鍛錬は欠かさなかった。
唐手は湯のようなものだと言った者があるそうだ。絶えず熱を加えなければ、元の水に戻ってしまうということだ。p.362
空手家として、強さを求めて真摯に生きる主人公が描かれている。空手塾を主催されている今野氏は、この本をこそ書きたかったのではないだろうか。