「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

やきもち 2005・02・09

2005-02-09 07:00:00 | Weblog

   「この世は嫉妬で動いている」

   「やきもち」というタイトルが付いた山本夏彦さん(1915-2002)のコラムの冒頭です。


   「この世は嫉妬で動いていると、少年のころから私はみていた。そしてその嫉妬の念が薄弱なのが

   自分の欠点だと思っていた。

    尋常な人なら嫉妬するところを私はしないから、相手もしないだろうと、うかと思ってそうでないこと、

   動機は嫉妬だと知って驚くことがある。もうなれっこになった。」


   山本老人は、「安部譲二」と「中村武志」のお二人を例に引いているのですが、とくに「中村武志」に

  文壇の長老「内田百閒」がやきもちを焼いたという解説は秀逸です。


  「中村武志は初対面から三年経て訪ねて、以後百閒が死ぬまで通って犬馬の労をとったが、あまりとったので

  犬馬だと思われてしまったようだ。中村が同業者としてあらわれたのでさえ面白くないのに(目白三平とは何

  たるネーミング!)たちまちベストセラーになり大金が舞いこんだのがやきもちがやけてたまらない。」


   中村が書いた最初の自費出版の本に序文をと請われ、百閒老がいやいや書いた文章が、大方の「序文」と異なり、

  「よく見ると悪口である」こと、百閒老がやきもちを焼いていることを読み取ります。


  「年は親子ほど違う。作風も全く違う。百閒が文章道の天才だとすれば、武志は凡庸陳腐だ。嫉妬の対象でさえない

  のに金は魔物である。」と山本老人は見て取りますが、序でに中村武志の作品を切り捨てることも忘れません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする