「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

死期は序を待たず 2005・02・17

2005-02-17 07:00:00 | Weblog

   今日の「お気に入り」は吉田兼好「徒然草」第百五十五段から。


   「生・老・病・死の移り来ること、また、これに過ぎたり。四季はなほ定まれる序あり、死期は序を待たず。

   死は前よりしも来らず、かねてうしろに迫れり。人みな死あることを知りて、待つことしかも急ならざるに、

   覚えずして来る。沖の干潟はるかなれども、磯より潮の満つるがごとし。」


  作家の中野孝次さんの現代語訳はこうです。


   「だが、人間の生れる、老いる、病気にかかる、死ぬこと、すなわち生老病死の移り変るさまの速いことといったら、

   これは自然の季の変化どころでない、もっともっと迅速だ。なぜなら、四季にはなんといっても春夏秋冬というきまった

   順序がある。変化は速いといってもその順序に従って行われる。が、人間の場合、死はそんな順序などにかまわずいきなり

   やってくる。しかも前からやってくるとばかりは限らない。後からだってやってくる。人はみな自分もいずれは必ず死ぬ、

   人間は死ぬべき存在だということは知っている。が、大抵は誰も、自分の死ぬのは今日明日のことではないと思いこんでいる。

   死がそんなに急にやってくるとは思っていないものだ。ところが死は、そんな人の思惑をこえて、いきなりそこにやってくる。

   その死のやってくることの急なことはちょうど、沖の干潟はまだはるか向うまで水につらなっていないから、潮のくるのは

   まだまだ先のことだなと思っていると、沖の干潟は変わらないのに、なんと自分の背後の磯のあたり、はやもうみるみる潮が

   満ちてきているようなものだ。」
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