「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・11・27

2007-11-27 08:50:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の著書「完本 文語文」から。

 「きのふ(昨日)また身を投げんと思ひて
 利根川のほとりをさまよひしが
 水のながれはやくして云々は『利根川のほとり』の書き出しである。

 昭和四年の冬、妻と離別し二児を抱(かか)へて故郷に帰る――と前書きあって『帰郷』は始まる。

 わが故郷に帰れる日
 汽車は烈風のなかを突き行けり。(略)
 まだ上州の山は見えずや。
 夜汽車の仄暗(ほのぐら)き車燈の影に
 母なき子供等は眠り泣き
 ひそかに皆わが憂愁を探(さぐ)れるなり。(略)

 かねて死ぬことばかり思って、気心の知れぬ無言の少年だった私は、これらに心を打たれずにいられなかった。」

   (山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)
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