今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の著書「完本 文語文」から。
「きのふ(昨日)また身を投げんと思ひて
利根川のほとりをさまよひしが
水のながれはやくして云々は『利根川のほとり』の書き出しである。
昭和四年の冬、妻と離別し二児を抱(かか)へて故郷に帰る――と前書きあって『帰郷』は始まる。
わが故郷に帰れる日
汽車は烈風のなかを突き行けり。(略)
まだ上州の山は見えずや。
夜汽車の仄暗(ほのぐら)き車燈の影に
母なき子供等は眠り泣き
ひそかに皆わが憂愁を探(さぐ)れるなり。(略)
かねて死ぬことばかり思って、気心の知れぬ無言の少年だった私は、これらに心を打たれずにいられなかった。」
(山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)
「きのふ(昨日)また身を投げんと思ひて
利根川のほとりをさまよひしが
水のながれはやくして云々は『利根川のほとり』の書き出しである。
昭和四年の冬、妻と離別し二児を抱(かか)へて故郷に帰る――と前書きあって『帰郷』は始まる。
わが故郷に帰れる日
汽車は烈風のなかを突き行けり。(略)
まだ上州の山は見えずや。
夜汽車の仄暗(ほのぐら)き車燈の影に
母なき子供等は眠り泣き
ひそかに皆わが憂愁を探(さぐ)れるなり。(略)
かねて死ぬことばかり思って、気心の知れぬ無言の少年だった私は、これらに心を打たれずにいられなかった。」
(山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)