「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

この世はウソでかためたところである 2005・10・10

2005-10-10 06:25:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。


 「オリンピックは参加することに意味があるなんてむろんウソである。一にも二にも勝つことに意味がある。

 アマチュアリズムが大事だというが、あれがアマチュアでないことはみんな知っている。」

  (山本夏彦著「冷暖房ナシ」文春文庫 所収)


 「昭和五十五年九月高校野球の選手二人が、ささいなことから喧嘩して一人が一人をけがさせた。あくる五十六年

 三月それが露見して、二人はすでに卒業しているというのに、高校野球の精神を踏みにじったとその学校は対外試合の

 出場を禁じられた。

  高校生なら喧嘩ぐらいするだろう。すればけがぐらいするだろう。それがどうしたと言うのが当りまえなのに、

 関係者は恐れて言わない。

  この高校は私立横浜高校で甲子園で優勝した野球の名門校である。けがさせたのは愛甲猛投手で、彼は五千万円の

 契約金ですでにロッテに入団している。

  私はかねがね高校野球連盟というものの偽善ぶりに腹をたてている。まじめくさってその精神を踏みにじったなどと

 言う男どものツラが見たいと思っている。

  そもそも前の年九月の喧嘩が今ごろ問題になるのがおかしいのである。秘しがくしにしていたのを誰かが訴えたに

 違いない。訴えたのはライバル校だろう。横浜高校が出場できなくなればトクする野球部だろう。これしきのことを

 高野連の理事が知らないはずがない。

  スカウトというと聞えはいいが、あれは人買いである。大学は高校から、高校は中学から有望選手を買いあさって

 久しい。選手ならあらゆる試験に白紙でパスすることに、戦前からきまっている。パスさせて誰も怪しまないほど

 腐敗しながら、よくまあきれいな口がきけるなあ。
 
  あれを人身売買だと言ったのは故人大宅壮一である。すこしでも高く売ろうとかけひきする親子があると、いまだに

 顔をそむけるファンが多いのは、高野連に劣らぬかまととぶりである。高校野球がそんなに神聖ならロッテに愛甲の

 出場を禁じるよう要請してはどうかと言えば、皆さん一笑に付すからなに神聖でも何でもないこと、プロ野球の

 予備校だということは承知なのである。

  この世はウソでかためたところではあるけれど、このウソ私はだいきらいである。」


  (山本夏彦著「やぶから棒」-夏彦の写真コラム-新潮文庫)






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