「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

民主主義の基礎は羨望嫉妬にある 2005・10・12

2005-10-12 06:00:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「時々私はテレビドラマのなかに無名の女優を発見して、彼女と同じくらい無名の女優の心中を察することがある。

  画面のなかの女優は才能もなければ容姿もない。年は自分と同じくらいである。あれなら自分のほうがはるかに

 ましである。どうしてあの女にあの役が回って、私に回ってこなかったのだろう。朝のドラマに出たのだから、

 彼女はきっと売出すにちがいない。そう思えばいても立ってもいられない。

  やきもちというものは同時代人にやく。一両年前森村誠一氏は六億円かせいで長者番付に出た。六億六億と

 書かれたが、税に五億以上奪われて手どりは九千万円あまりだった。なぜ税のことを書かないかと森村氏は

 抗議したが、六億実は九千万円と書いたのでは聞くも涙の物語になってしまう。
 
  それに九千万円だって大衆には及びもつかない大金で、六億もかせいだ男からはいくら奪ってもいいと、かりに

 大新聞の読者が八百万人あるとすれば七百九十九万九千余人は思うから、言うだけ野暮である。六億六億と書くの

 には充分な理由があるのである。迎合である。
 
  何度もいうがわが税制は私たちの嫉妬心に支えられて成っている。大金持は奪われて三代目には貧乏人になる。

 私は金持というものは文化のためにいたほうがいいと思うものであるが、それを言うのにはばかりがあるほど嫉妬は

 今はばをきかせている。この世は嫉妬で動いている。民主主義の基礎は羨望嫉妬にあるとB.ラッセルは言っている。」


   (山本夏彦著「やぶから棒」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
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